表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

前編

今回はかなり長くなったので前後編です。





目を覚ますと彼女が僕の上に乗っていた。

馬乗りだ。

「………………どうした?」

「おなかすいたー」

どうやらお腹が減ったようだ。

時計を見る。

時計の短針は9時を示していた。

平日なら遅刻だが、今日は土曜日。

寝させてほしい。

「おやすみなさい」ばたっ

「ねーるーなーー」

僕が二度寝を試みようとすると彼女はそれを妨げるように僕の体を揺すった。

しかしそんなことで僕の眠気は覚めない。

むしろハンモックのように眠気は増加する。

ああ、もう寝させてくれよ。

僕はもう眠いんだ。

「がっ」

何の音だ?

目を開けると、彼女が小さな口をセイイッパイアケテイタ。カノジョハイッタイナニヲシヨウトシテイルンデショウカ。

「がーぶ」

「さあて朝ごはんの準備だ!」

彼女に噛まれる寸前に

彼女を持ち上げ、ベッドを降りた。

あんなことされたら嫌でも完全覚醒する。

彼女に噛まれると人間的にまずい!

急いで作ろう朝ごはん!





◇ ◇




「いっだだきまーす」


「がっつくなよ」


あれから朝ごはんを超急いで作った。

メニューは白ご飯と卵焼きと味噌汁、そして


「うまうま」


「ほら、箸を使って」


彼女にだけは生焼けの牛肉。

レアよりももっと焼けていない。

朝はあのぐらい食べないと力がでない……らしい。

食べたいとは思わない。


おおっと僕もたべなくちゃ。

自分で作った卵焼きを食べる。ちょっと空しい。

やっぱりこういうのは人に作ってもらうと美味しいんだろうな。

……彼女が作れるとは思わないが。


「……ん?」


甘い。ああ、そうか。砂糖と塩を間違えたか。

急いで作ったから間違えたのか。

とりあえず、

「卵焼きでよかった」

これがもし魚の塩焼きとかだったら惨事だっただろう。

…………肉にかけたのは塩だよな?


「おおい」


「ん?」むしゃむしゃ


「肉なんだけど、味が何か変じゃない?」


「べつに、いつもみたいにおいしいよ」


「そう、それなら」


「いつもよりおいしいくらいだよ。あまくて」


「……いいよ」


やっぱりか。味覚は個人……個体差があるか。

それからはのんびりと食べ続けた。


「にかー。おちゃとってー」


「はいはい」


「にかー。ふりかけとってー」


「あいよ」ぽいっ


「かけてー」


「お茶を?ふりかけを?」


「みそしるー」


「まぎわらし……まぎわし……紛らわしいな」


「ははは、ばーか」


「うるせえ」


彼女に馬鹿とは言われたくない。

絶対に。

というかのんびりと食べれない。


「ごちそうさまー」

「ああ。食器は台所のいつものところに浸けておいて」


食べ終わるの早いな。いつものことだが。

彼女が食器を持って台所へと歩く。

ぺた………………ぺた………………ぺた………………ぺた

………………ぺた………………ぺた………………

やっぱり遅いな。

「あてっ」

彼女は転んだ。どんくさいというより

動作の一つ一つが遅い。

……もっとも今さっき転んだ理由は別にあるけど。


「にかー、あしー」


「はいはい」


彼女の足が取れていた。

彼女の体を見る。




手入れはされているのに艶の無い白い髪。

本来眼球が入る所に左側にしか眼球が無い、

つぎはぎのある顔。

あきらかに手と腕の色が異なる左手。

小指がない右手。

そして取れた左足。





彼女の生前の名前は九十九つくも すず

見ての通りのゾンビだ。







この彼女と同棲してから二年。

きっかけは彼女の母親、九十九 美凉みすず

ここのマンションの大家さんだ。


本人がこう言ってきた。

「私さーひっそりと大学で黒魔術の研究してるんだけどさー娘が交通事故っちゃってさーそれでものは試しにとゾンビ化させてみたんだけどさー予想以上にバカになっちゃってさー一人じゃ生きられないくらいに。だからさー私も忙しいし面倒みてくんない」


だそうだ。色々と言いたいことはあるけど深追いは命取りだろう。あの手の業界は関わると面倒だ。

黒魔術とかしゃれになんない。

当然断ろうとした。しかし美凉さんは続けて、


「じゃあ、家賃を75%カットで」


と言われたのですぐに頼みを了承した。

家賃75%カット。文句なしの条件だった。

約6万円も余裕ができる。

これで、三食、実家から送られてくる ソーメン地獄から解放される!

いや、別にソーメンが嫌いなわけではないけど三食はきつかった。


その後は美凉さんから彼女の体について様々なことを聞いた。

腕や足が取れたら蜘蛛の糸(美凉さん特製。何でも体によく馴染み、あっという間に取れた部位と体がくっつくという代物だ。本人談だが。)を使って縫い直すように、

彼女は痛覚が鈍いし右目が無いので家具の配置に気を付けることなど。


しかし僕にとって一番大事なことは

「体液を体内に摂取するとゾンビが感染する」

ということだ。不慮の事故で死んだとはいえ、

ゾンビ化させた本人は

「感染ゆーな!進化と言え」

と馬鹿なことを言った。いや感染でいいでしょ。

そして、進化だといいはるなら美凉さんがゾンビになればいい、と言ったら

「頭が悪くなるから断る!」

と返された。

次に大事なのは

「ゾンビ化すると馬鹿になる」

だ。すなわち噛まれると馬鹿になるということだ。

しかし彼女自身は自覚が無いため、

よく冗談で僕を噛もうとする。

僕の人生に影響を与えるとも知らずに!


そんな彼女は今現在、


「はーやーくー」


足が取れて、うめいている。


「はいはい、ただいまー」


ついつい語尾を伸ばしてしまった。

早く足を縫い直さないと、

「だっこー」とか「おんぶー」とか

言われかねない。


まず、蜘蛛の糸を僕の仕事道具の暗殺針に通す。

そして玉止め。後はかがり縫いをするのみ。

腐った皮膚を貫き、腐肉を裂く感覚が手に残る。

良くも悪くも新鮮だ。


…………チクッ…………チクッ…………痛っ………

チクッ……………チクッ………………………………………


よし、終わった。


「ありがとー」


「どういたしまして」


彼女は立ち上がり再び歩き始め……


「ああもう、遅い!」


「ああー」


彼女が片付けようとしていた食器を没収した。遅すぎる!








◇ ◇





「なに書いてるんだ?」

「しごとー」

仕事を書いているのか。

冗談だ。

あのあと、彼女はパソコンで仕事をしている。

彼女は小説の作家をしている。

何故か物語を書くときは頭脳が働いている(美凉さん曰く、生前の記憶が残っている、だそうだ)。


ジャンルは……同性愛。















誰だ「何だ、ただの腐女子か」とか思ったやつ。

彼女の書いているのは健全な……健全かな?

女の子の友情や絆、そしてその刹那に光るほのかな愛情を描いた、










まあ簡単に言うと、百合小説だ。

基本的にお互いは不干渉なので例え彼女が過激な百合小説を書こうが、僕が仕事で某大統領候補を暗殺しようがお互いは不干渉。それがルール。でも、

「このキャラもっと出番増えない?」


「ん~。だめ。るみちゃんはこのくらいがちょうどいいの」


こんなことは日常茶飯事。


「ほら、この前友達の……そうそう薔薇姫さんだっけ?作家仲間の。あの人の暗殺依頼があった時、」


「あったねー」


「暗殺依頼断って、しかも彼女の護衛までしたんだよ。ロハで」


ロハとはただのことだ。ちなみに


「んー。そうだねー」


「だ、か、ら、いいじゃん」


「……しょうがないなー。ふやしてあげるよ、るみちゃんのでばん」


「Thank you !」


「なんていった?」


「……ありがとう」


やっぱり馬鹿だ。


「ふ~ふ~ふん、ふふ~ふふん」


彼女は原稿を書き直し始めた。

彼女にとっては原稿の書き直しなんて朝飯前だ。

……しかし、お互いは不干渉って全然守ってないな。

仕方がないか。

ルールは破るためにあるって言うし!


彼女が仕事をしている 一方で僕はソファーに

座って彼女の仕事を眺めている。

一応依頼はあるものの、今日は土曜日。

ゆっくりさせてほしい。


それにあんなダメダメ社長ぐらい僕以外でも簡単に、針の穴に糸を通すくらい簡単に暗殺できるだろう。針の穴に糸を通すのって簡単だよね?

それよりも僕は眠い。

眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い

「おやすみ」

誰に告げたかも知らず意識を誰かに預けた。


Go black 。





◇ ◇






「ん、ん~~ん。ふぁ~あ」


思わず欠伸が出てしまった。


「おきたー?」


「うん、起きた起きた」

そう言い僕はソファーから降りた。

窓の外を見るともう日はすっかりと暮れていた。


「じゃあごはんつくってー」


「…………今何時?」


「うんとねー……ごじ。ごじはん」


5時半か。昼は彼女と僕は基本抜くから昼ご飯を作っていないのはいいとして、ちょっと寝すぎたな。大体六時間くらい寝たかな?


「リクエストはある?」


「りくえすと?」


「何か食べたいものはある?」


「肉!」


「はいはーい。承知しました」


聞かなくてもよかったな。冷蔵庫に豚肉があるから角煮でいっか。


「ちょっと待っててねー」


「はぁい」





◇ ◇


「まだー?」


「…………待っててねー」


予想以上に時間がかかったな。

角煮はあと30分煮込むだけだけだ。

あとは明日用の蜂蜜の檸檬煮……じゃなくて

檸檬の蜂蜜煮を作らないといけないし

まだ他の晩ご飯の野菜の浅漬けも用意していないしアサリの炒めものも作ってない。


「おそいおそいおそいー」


「待ってて、あと少し、あと少し」


どうもかなり彼女はお腹が減っているようだ。


「まだーおそいーおなかへったーはらぺこーおそすぎるーいそげー」


わがままモードに入った。


「おーそーいー」


彼女は僕に抱きついた。

彼女のとてもささやかな胸の感触が伝わる。

続けて、彼女は僕の肩にあごをのせた。



「むー」


「あと少しだからね」


「いーそーげー」


彼女が体を揺すり始めた。

結構強い。うえ、気持ち悪い。


「おそすぎるー」


そんなこと言われても。


「こうなったら」


「なったら?」


「にかーをたべよう」


「!!」


まじか!!


「がーぶ」


「おおっと!」


なんとか彼女の甘噛み(という名の無自覚感染口撃)を回避した!しかし次が避けれない!


「つぎははずさない♪」


「くっ」

僕は思わず感情が声に出てしまった。

どうしよう。手は一つしかない。

……ごめんなさい。

僕は心の中で彼女に謝ると彼女の頭に包丁を突き刺した。

「………………………………」

よし。動かなくなった。これで料理に集中できる♪






◇ ◇








「いただきまーす」


「ゆっくり食べてね」

あのあと、料理を作り、作りおわったら彼女から包丁を抜いて、縫い合わせて直した。

彼女に刺された記憶は無い。

彼女はゾンビ。なのでたまに緊急回避方法として息の根を止めることがある。(まあ息の根は既に止まっているが)


「うまーい」


「良かった良かった」


「ごちそーさまー」


「はやっ!」


もう食べたか!


「うそうそ」


「……嘘をいう口はこの口か!」


「ごめんなふぁい」


彼女の口をつねった。伸びる伸びる。

もぐもぐごっくん。もぐもぐ。

がつがつ。むしゃむしゃ。バキバキ。


「何噛んだ!」


「あさり」


「ならいい」


「のかいがら」


「ぺっしなさい!消化できないでしょう!」


「はーい」ぺっ


「ごちそーさまー」


「お粗末さまでした」

ふう、驚いた。


「アイス食べる?」


「食べる!」


「味は?」


「ペッパーミント!」


「ペパーミントね。じゃあ僕はバニラで」


冷蔵庫からペパーミント味とバニラ味のアイスクリームをだした。カップのやつ。


「どうぞ」


「どうもー」


彼女はアイスクリームを嬉しそうに受け取った。

そして食べた。わずか三秒の出来事だ。

「あまーい♪」


「あんまり量ないから味わって食べてよ」


「りょうかい!」


二人でアイスクリームを食べる。

ふと気まぐれに彼女のペパーミント味のが食べてみたくなった。


「なあ、ちょっと分けて」


「いいよー」


そう言って彼女はカップを寄せた。

僕は少しだけ彼女のカップからアイスクリームをすくい、食べた。


独特のミントの味が口に広がる。

あえて表現するなら歯みがき粉の味。

やっぱり苦手だ。彼女はどうして好きなんだろうか?生前の記憶が影響されているのだろう。

じゃなきゃこんなの好きな訳ない。


「そっちのもちょうだい」


「あいよ」


自分のカップを彼女のほうに寄せた。

「…………」

でも、彼女はまったく取ろうとしない。

どうしてだろう?


「取らないなら食べるぞ」


そう一応言い、自分の分のバニラを取って食べ


「もーらい♪」


「あっ」


すくったアイスクリームを僕が食べる前に彼女が口を前に出し、食べた。けっこうもっていかれた。


「ふふん」


すごい嬉しそうに味わう彼女。

見てるこっちが嬉しくなる。でも、


「まったく、いってくれればいいのに」


再び食べ始めた。うん、うまい。










半分ほど食べ進めたぐらいで異変が起こった。


「がっ」


「どうしたー?」


頭が痛む。さすがに食いすぎというわけではないのに。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

そして、それ以上に寒い。どうしたんだ一体。

何をした。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

痛みでアイスを持っていられない。

思わずアイスを下にぶちまけてしまった。

「…………………」

彼女の言葉が耳にはいらない。


そして、目の前が暗くくずれていった







「にかー、どうしたの?にか?」


「……………………」


「なんでうごかないの?」






今回は短編小説のつもりなのに長いですが

次も読んでくれるとうれしいです。

次は Restart のほうを更新するつもりなので、

ちょっと空きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ