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花のおとめ三国史  作者: 高梨いろは
夜之食国編
21/22

第二の課題

 私が堅州及び狐ヶ崎組を味方に付けたという話は瞬く間に大和三国を駆け抜けた。しかし私の生活に直接影響を及ぼすわけでもなく、帝都学院での私の立場は相変わらず低かった。

 一日のうちで口を利く相手と言えば、眞宏か廉翔くらいである。

 寂しいがこれは仕方のないことなのだ。どんなに努力をしようとも、私が葦原東街の落ちぶれた身分の娘という事実はどうやったって変えられないのだ。そんな私が帝都皇帝候補に選ばれ、指定暴力団である堅州を味方に付け、葦原帝の弟である眞宏や葦原御三家のひとり近衛家長子てある廉翔と仲良くしてたらそりゃあ、あの子なんなの? とはなるだろう。

 それは分かる。分かるのだけれど……。


 私はここまで一気に考えて、深々とため息をついた。


「とーうーこー、どったのー?」


 正当な葦原帝候補にしか現れないという黄櫨染色の髪の毛を持ち、赤縁眼鏡を着用したやたら派手な男ーー眞宏が背後から私の首に腕を回した。ちゃらんぽらんとしているが、これでもちゃんとした葦原帝雨宮雅仁の弟であり、葦原御三家のひとつ久我の養子なのである。つまりとても由緒正しい男なのだ。


「いや……黄昏たそがれてただけ。あと重いから離れてくれる?」


「やだー」


 眞宏は長身な男なのである。私よりも頭二つは背が高い。そんな男にのし掛かられて平気でいられるほど私は屈強じゃないと何度も言っているのに、この鳥頭は覚えてくれないのだ。

 だいたい眞宏は私に対してべたべたしすぎだと思う。いくら義妹いもうとといえども、私も眞宏も年頃の男女。もっと距離感を大切にしたほうがいいと思うのだけれども、彼はその辺に関してどう考えているのか。


「おい! 眞宏! 久我から離れろ」


「近衛くん!」


 廉翔が眞宏の襟首を掴んでぐいっと引っ張った。

 しぶしぶ私から離れた眞宏はぎろりと廉翔を睨みつけ、鼻で笑った。


「なあに? やきもち?」


「はあ?! 何意味分かんねえこと言ってんだよ」


「俺と灯子が仲良しだからやきもち妬いてるんでしょ。廉翔は灯子のこと大好きだからねー? でも残念でしたー。言っておくけど、廉翔に灯子はあげないから。絶対にね」


 早口言葉よろしく言い切った眞宏は、ふふんと偉そうにふんぞり返った。私の意志はまるきり無視である。


「喧嘩腰にならないで。しかも私を好きだなんて決め付けたら近衛くんに失礼だわ。ごめんね、近衛くん」


「いや、構わねえよ。つか、これから日色さまに会いに行くんだろ? 俺も行こうか?」


 そう。これから第二の課題を聞きに日色に会いに行くのだ。

 第一の課題は葦原帝雨宮雅仁のものだったから、身内の贔屓目があった。もちろん大変だったけど、自分の住んでいるところだったからとっつきはあった。けれど今度は中立の国である夜之食国の出す課題だ。あの国は国交がほとんどない神秘の国。どんな課題を出してくるのかも見当がつかない。


「ううん。眞宏も来てくれるって言うから、大丈夫」


「そうか? 何かあったら頼れよ」


「うん。ありがとう」


 日色との約束は放課後に第五図書館だ。正直、今日一日の授業の内容なんて頭に入らなかった。私の頭の中はどんな課題が出されるのか、そればかりが渦巻いていたのだ。

 心の準備など全くできなかったけれど、もうそろそろ行かないとならない。私は彼に借りた三国史古事記を持ち、図書館へと向かった。


 しん、と静まりかえる図書館。電気もつけずに窓際に佇む彼がいた。夕日を浴びながら佇む日色はとても神々しく見える。


「お待たせしてごめんなさい!」


「構わぬ。あんたが遅れてくるのは解ってた」


 相変わらずの無表情で淡々と告げる。

 紫の双眸は真っ直ぐに私を見つめている。隣に眞宏がいるのに、まるで私と彼と二人きりみたいだ。


「あの、それで……」


 私が口を開くと同時に、日色は私が持っていた三国史古事記を指差した。


「それの六十二頁を開け」


「えっ?」


 言われるがままに六十二頁を開くと、そこは変若水をちみづについての頁であった。



を-ち-みづ【変若水】

 変若水(おちみず、をちみづ)とは、飲めば若返りありとあらゆる病気の治るといわれる水に御座います。月の不死信仰に関わる霊薬の一つです。夜之食国に存在すると言われておりますが、その真偽については不確かであります。

 この妙薬、その作り方についても不明で、どのように作られたのか、どのような目的で作られたのか、はてまた誰が作ったのかも解らないのであります。



 変若水を説明する文章の隣には、細長い硝子の小瓶に入った桃色の液体が描かれている。

 一通り読み終えた私はゆっくりと顔を上げた。

 結局、何も解らなかった。


「それを、探して欲しい。それが第二の課題だ」


「変若水を? 夜之食国にあるのではないのですか?」


 そもそも本当に存在しているものなのか。


「数百年前は夜之食国にあったと伝えられている。しかし今は盗まれてしまったので、夜之食国にはない」


「盗まれた? 一体誰に……」


「解らぬ。あんたには変若水の行方を追って欲しい。そして取り戻して欲しい」


 元の持ち主たる夜之食国帝に解らぬことが私に解るはずなどない。しかしこの課題を拒否すると言うことは、皇帝への道を捨てると言うことだ。そんなことは出来ない。出来るはずなどない。


「分かりました。その課題、お受けいたします。そして必ず変若水を見つけてみせます」


 やれるか? ではないのだ。やるしかないのだ。

 私は精一杯の虚勢で、にやりと笑って見せた。

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