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妄想ファンタジスタ  作者: 弥生遼
その十二、ぎこちないスクエア
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近づいた?距離

 「何よ、カノンちゃんの親戚ならそう言いなさいよ」

 夕食を囲む席で、美緒がレリーラに優しげな視線を送りながら言った。さっきまでカノンと死闘を繰り広げていた人物とは思えないほど穏やかな、仏のような表情であった。

 つい数十分前、千草さんのまさかの行動でレリーラの存在が発覚してしまい、修羅場の一歩手前でまで事態が発展してしまったのだ。

 絶句し、呆然とする美緒。

 今ひとつ状況が飲み込めず無反応な千草さん。

 額に手をやり、ため息をつくカノン。

 騒がしさに覚醒し、涎を手の甲で拭うレリーラ。

 『まさか、アニメキャラに飽き足らず、幼い子供に手を出すなんて……』

 茫然自失の状態から立ち直った美緒が、とんでもない誤解発言をしながら、今にも僕に飛び掛らんとしていた。

 だから僕は、この混沌とした事態を収めるべく、言ってしまったのだ。

 『こ、この子は、カノンの親戚なんだ』

 言った瞬間、視界がぐにゃりと動いたから、久しぶりに『創界の言霊』を発動させてしまったようだ。またイルシーに怒られるかもしれないが、仕方がない。僕の命がかかっていたのだ。

 おかげで美緒も千草さんも、妙な誤解をせず、すぐにカノンの親戚の子とだと納得してくれたが、ひとつ問題があった。それはレリーラの年齢である。

 見た目は幼女だが、実際にはカノンの先輩、つまりカノンより年上なのである。その事実を告げるとまた何事か誤解させそうなので、レリーラの年齢は、五歳ということした。

 ともかく、どうにか美緒を納得させ、夕食を作ろうと一階へ戻った。その際レリーラが背後から、

 『兄ちゃん、いつかぶっ殺したるけんなぁ』

 とどすの聞いた声で呟いたが、すぐに忘れることにした。以上、回想終了。

 

 「本当に可愛いな、レリーラちゃん。ねぇ、妹にしていい?」

 美緒がレリーラの頭をなでなでする。レリーラは作り笑顔を浮べながらも、時々僕の方を鋭く睨む。後が怖いが、無視だ無視。それよりも今は千草さんを接待することが先だ。

 「どうですか?千草さん。今日のカレーは会心の出来なんですが……」

 「美味しいです。こんな美味しいカレーってはじめてです。ちゃんとメモしておいてよかった」

 僕の斜め右、食卓のお誕生日席に座る千草さんが感嘆の声をあげた。やった!千草さんが褒めてくれた!今すぐにでも歓喜の踊りを踊り出したいほどだ。

 「そりゃそうよ。私が伝授したんだから」

 「そりゃそうよ。私が味見しているんだから」

 美緒はともかく、カノンは偉そうに言えんだろう。まぁ、そのやり取りを聞いていた千草さんが面白そうに微笑んでいるからよしとしよう。

 こうして楽しい夕餉はあっという間に終わった。時計を見てみると八時前。そろそろお開きといったところだろう。

 僕がそのことをみんなに告げると、

 「あ、本当ですね。遅くなるとバスがなかなかこなくなりますから、そろそろ失礼させてもらってもいいですか?」

 一飯の恩義とばかりに洗物をしていた千草さんが、手についた泡を水で流しながら言った。

 「勿論ですよ。洗物なんて後はカノンがやりますから、どうぞ遅くならないうちに帰ってください」

 ありがとうございます、と言いながらも、千草さんはカノンの方をじっと見ていた。きっとカノンの許諾が必要だと思っているらしい。心配ありませんよ、千草さん。この家では僕がルールブックだし、洗物はいつもカノンの仕事なんですから。

 「いいわよ、帰って。遅くなると危ないでしょう」

 ぶっきら棒に言い放ち、黙々と洗物を続けるカノン。こ、こら、千草さんに対してなんて失礼な態度を!

 「ごめんなさい。じゃあ、失礼します」

 本当に申し訳なさそうに頭を下げる千草さん。いえいえ、逆にこっちが申し訳ない。

 「おら、美緒。お前も帰れよ」

 僕は、帰り支度をする千草さんの隣でレリーラと戯れている美緒に声をかけた。

 「私はもうちょっとだけいる」

 美緒は、レリーラのわき腹をくすぐりながら答えた。あかん、オレわき腹弱いんや、と悶絶するレリーラ。幼女に天敵が増えたことは喜ばしい限りだが、こいつにも早々に退場して欲しい。

 「じゃあ、お先に失礼します。今日は、本当に楽しかったです」

 ぺこりと丁寧にお辞儀をする千草さん。本当に仕草ひとつひとつが美しくて可愛らしい。

 「こちらこそ。お気をつけて帰ってくださいね」

 と僕が言った時だった。後頭部に何かが当たった。結構大きく、それなりに重量のあるものだ。

 「何だよ!」

 振り向くと台所用洗剤が落ちていて、投げたのはカノンであった。

 「痛いじゃないか!」

 「気が利かないわね、馬鹿。せめてバス停まで送って行きなさいよ、馬鹿」

 カノンが泡のついた手でしっしと手を振る。え?あ、うん。そうだね。夜道は危ないもんね。

 「ありがとうございます。じゃあ、学校の前のバス停まで……」

 「あ、じゃあ私も帰る」

 はい、と手を上げる美緒。その隙にレリーラが逃げ出し、二階へ駆け上っていった。

 「ミオ。このお皿拭いてくれる」

 カノンがシンクに脇に濡れた皿を置いた。

 「え~。帰らないと……」

 「いいでしょう。シュンスケと幼馴染で家が近いんでしょう?」

 ぬうぅ、と悔しそうに口を歪ました美緒であったが、反論できない以上手伝うしかないと判断したらしく、立ち上がってキッチンへ向かった。

 「行きましょうか、千草さん」

 「は、はい。それじゃ、すいません。失礼します」

 何度も何度もぺこぺこと頭を下げながら、後ろ髪を引かれる感じの千草さん。僕が行きましょうと促して、ようやく玄関へと歩みを進めた。


 「なんだか申し訳ないです。私だけお手伝いできなくて」

 夜道を歩きながら、ぽそっと千草さんが呟いた。やっぱりそのことを気にしていたようだ。

 「気にしなくていいですよ。千草さんの家が遠いのは事実ですから」

 「でも、楠木さんも遠いんでしょう?」

 「千草さんほどじゃありませんよ。それにあいつは、遅い時なんて十時ぐらいまでいますから」

 「そうなんですか……」

 とちょっと寂しそうに俯く千草さん。やはり、自分だけ先に帰ることに罪悪感と寂しさを感じているのだろう。よし、ここは会話を盛り上げないと。

 「きょ、今日は本当に楽しかったです!ま、また、やりましょうね、勉強会」

 「ええ。でも、あんな小さな女の子までいるとは思わなかったです」

 くすくす、と笑う千草さん。ちょっとは気分が良くなったようだが、まさかレリーラが話題に出てくるとは……。

 「すいませんね、騒がしい奴で。勉強の邪魔になってもあれなので、僕の部屋に閉じ込めていたんです」

 「小さい子供って、騒がしいものでしょう?楠木さんじゃないですけど、あんな可愛い子なら妹にしてみたいです」

 「僕も、実際に妹がいるんですが、そのさらに下に妹が出来たみたいです」

 勿論、千草さんに話を合わせただけだ。あんな凶暴極悪幼女、妹と思っただけで身震いがする。

 「え?本当に妹さんがいるんですか?」

 「は、はぁ。今、両親と一緒にアメリカにいるんです。たぶん夏休みには帰ってくるんじゃないのかな」

 そういえば最近メールチェックを怠っているな……。うん。恐ろしいことは、今は考えないようにしよう。

 「そうなんですか。じゃあ、帰ってこられたら、ぜひ紹介してください」

 「え?あ、はぁ……」

 紹介して欲しいとはどういうことなのだろうか?ひょっとして家族を紹介して欲しいとうのは……その……なんだ。千草さんは、僕に……。まさかまさか……。

 「私、アメリカに行ったことなんですよね。でも、憧れている国の一つなんで、ぜひお話を聞かせて欲しいんです」

 ですよね。千草さんが僕に気があるとか、実は好きだなんてそんなことありませんよね。ちょっとがっかり。

 「まぁ、妹に話しておきますよ」

 「はい。よろしくお願いします」

 あり得ない期待をしがっかりしている僕とは対照的に、千草さんがとても嬉しいそうだった。

 「ふふ。なんだか一気にお友達が増えた気がします」

 「気じゃなくて、実際にそうなんじゃないですか?」

 「それもそうですね」

 屈託のない千草さんの笑顔を見ていると、がっかりしていた自分が馬鹿らしく思えてきた。こうして憧れの千草さんとお近づきになって、お友達になれたんだからそれで充分じゃないか。それ以上のことを望むと罰が当たりそうだ。

 「これからもよろしくお願いしますね、新田君」

 そう言ってもらえるだけで、本当に充分なんだ。

 

 

短編ということで、勉強会ネタをお届けしました。

ラノベやアニメではよくあるシチュエーションですが、実際どうなんでしょうね?

筆者は誰かと一緒に勉強した経験なんてほとんどありません。逆に気が散って仕方がないと思うんですけどね。

さて、次回からは長編です。ついに?俊助の妹、秋穂が出てきます。お楽しみに。

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