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妄想ファンタジスタ  作者: 弥生遼
その十一、戦いの果てにある夢
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アイドルの憂鬱

 「ワン、ツー、ワン、ツー。そこでターン!千尋、遅い!」

 ダンスコーチの厳しい叱責が飛び、曲が止まる。あーあ、やってしまった。これで三回目だ。しかも、同じところだ。

 「どうしたの、千尋?あなたらしくないわよ」

 ダンスコーチが怖い顔をしながら近寄ってくる。狭いダンススタジオだ。わざわざこっちに来なくてもいいのに。

 「すみません」

 「体調が悪いのなら言って頂戴。体調管理もプロの仕事なんだかね」

 「は、はい」

 大きくため息を吐いてから、休憩、と宣言するダンスコーチ。はーい、とダンス練習をしていたメンバー達が壁際に散らばる。その一瞬、ニヤニヤしているユッコと目が合った。そんなに千尋が怒られたのが嬉しいのか。

 「ふうぅ」

 壁にもたれ、腰を下ろした。体はだるくない。それでも上手くいかないのは、きっと精神的にやられているのだろう。

 原因は分かっている。自分が作ってきたオタクキャラを見事に看破された挙句、アイドルである自分を知らないと言われた。その張本人は新田俊助。奴は、千尋のアイドルとしての矜持を傷つけた。

 以来、自分は人気アイドルではないのだろうか?今までファンだといってきた連中は、自分のことをあざとい似非オタクだと嘲笑していたのだろうか?、と密かに不安に思い続けている。その不安が千尋の体を鈍重にしていた。

 「こんなことで悩むなんて……」

 自分をオタクキャラにした秋月プロデューサーを恨みたかった。もうこれ以上、オタクキャラを演じることはできそうもなかった。

 「でも、アイドルやめたくないな……」

 休憩終わり、とダンスコーチが叫ぶ。気持ちを引き締めないと。千尋は、パシッと頬を自分で叩いた。

 しかし、その後も千尋は二回ミスをし、さらにダンスコーチに叱責されたのであった。

 「千尋。ちょっと!」

 ダンスレッスンが終わり、メンバーが三々五々解散していく中、マネージャーが千尋を呼び止めた。

 「何ですか?」

 自分でも驚くぐらい暗い声だった。

 「喜びなさい!あなたのソロデビューが決まったわよ!」

 ええっ、と驚きの声をあげたのは、周囲のメンバー達だった。口々におめでとう、よかったわね、と声をかけてくれる。ユッコは、忌々しげに睨んでいた。きっと舌打ちをしているに違いない。

 「ソロデビュー?私が?」

 俄かに信じられなかった。ずっとグループでやってきて、人気ナンバーワンのユッコですら、まだソロデビューしていないのに……。沈んでいた心が一気に急浮上していった。

 「そうよ!しかも、今秋放送されるアニメとのタイアップで、今度行われるアニメのイベントで発表会があるのよ!」

 アニメとのタイアップ?イベント?

 もう、マネージャーが何を言っているのか聞き取れなかった。急浮上した心が再沈下していき、足元が崩れ去る音を聞いたような気がした。

 

 「あーあ。どうしようかな……」

 翌日、学校の昼休み。紗枝ちゃんにお昼を誘われたが、それを断り、後者の屋上に来ていた。見晴らしがよく、心が落ち着く場所だった。

 昨日告げられた、突然のソロデビューの話。『ふゅーちゃーしすたーず』の中で最初のソロデビューだ。それ自体は嬉しいし、誇らしくも思う。

 しかし、悩みの種はその中身だ。アニメのタイアップ曲。アニメイベントでの発表会。よりにもよってオタクキャラについて自信をなくし、懊悩としている時に、そんな話が来るなんて……。

 「断っちゃおうかな……」

 だが、断ればアイドルとしてのチッヒーは全てを失う。そんなこと分かりきったことだ。

 千尋は、制服の胸ポケットから小さく折り畳まれた紙片を取り出した。マネージャーから貰った資料だ。こんなものを後生大事に持ち歩いているのだから、やはりソロデビューへの執着心は強いのだろう。

 「曲名『サクラオトメジェネレーション』。タイアップアニメ『メイドと執事のあれやこれ第二期(仮)』ね……」

 千尋は資料を読み進める。人気アニメの続編らしいが、当然千尋は知らない。またこのアニメを勉強しないといけないんだろうな……。

 「本当、どうしよう……」

 脱力するようにため息を吐く。すると突如突風が吹き、持っていた資料が飛ばされた。

 「わ、わわわわ!」

 ま、まずい。こんなもの他人に見られたら完全にアウトだ。

 幸いにも資料は外に向かって飛ばず、屋上の入口付近に落ちた。しかし、ちょうど入口のドアが開き、屋上に出てきた人に拾われてしまった。

 「ご、ごめんなさい!見ないでください!」

 慌てて駆け寄る千尋であったが、拾った人物を見て、凍り付いてしまった。

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