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妄想ファンタジスタ  作者: 弥生遼
その六、女神の帰国
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幾日過ぎて~顕子~

 シャルル・ドゴール空港を飛び立った飛行機が関西国際空港に降り立ったのは、午後八時二十分。予定よりも約五分ほど遅れての着陸であった。

 夜の空港というのは、本当に雰囲気があって好きだった。特に着陸前、高度を下げてから見えるネオンに彩られた街並み、そして滑走路のガイドランプ。とても幻想的で、ロマンチックだった。十日間という長いようで短い旅の疲れを癒してくれた。

 「もう十日か……」

 千草顕子は、その長いのか短いのかよく分からない日数のことを思った。

 十日前だから日本を出たのは始業式直前。だから顕子は、高校二年生になってから一度も学校に行っていないことになる。

 勿論、理由がある。顕子は幼少の頃よりピアノを習っていた。どうも才能があったらしく、小学生にして国内のコンクールを総なめにし、現在では海外のコンクールにも参加できるようになっていた。

 今回は、フランスで国際的な名誉あるコンクールがあり、それに参加していたのだ。結果は残念ながら入賞できなかったが、世界レベルの実力を体感できたのは何よりもの収穫であった。

 やがて飛行機にタラップが横付けされた。その時になってようやく、隣で寝ていた母が起きだした。

 「お母さん、着いたわよ」

 「分かってますよ」

 だから起きたのよ、と言わんばかりであった。

 顕子は、この母のことがあまり好きではなかった。嫌い、ということではなく、どうも好きになれないのだ。

 顕子の母は、所謂『教育ママ』で、顕子が望む望まぬ関係なく、小さい頃からいろいろなお稽古事をさせてきた。現在では才能を開花させたピアノ一本に絞り、他のお稽古事はやめさせられたが、その熱の入れようは、当事者である顕子ですら時として当惑するほどであった。

 では、ピアノが嫌いかといえばそうではない。やはりピアノを演奏するのは好きだし、楽しいのだ。

 しかし、本当に自分が好きで始めたことではない、という違和感、いや後ろめたさのようなものがあった。

 「私、何がしたいんだろう……」

 時折そう思うことがあった。わざわざ学校を休んで、海外のコンクールに参加した時―まさに今なのだが―は、特にそう感じることがあった。

 親の敷いたレールの上を歩くのが嫌だ、などとおこがましいことを言うつもりはない。一学生である以上、親の敷いたレールの範囲内で生活するのは当然なのだ。だけど、多くの同年代の女子男子が自分で好きなことを見つけ、それを楽しんでいる姿を見るとどうにも羨ましく、翻ってわが身を思うと、虚しく感じてしまうのだった。

 「どうするの、顕子?明日、学校休む?」

 座席上の棚から荷物を取り出す母。目がとろんとしている。まだ寝たりないのだろう。あるいは、自分が明日ゆっくりしたいからそんなことを言ったのではないだろうか。

 「いえ、学校行きます」

 時差ぼけでつらいかもしれないが、無性に学校に行きたかった。顕子は、そのぐらいは自分の自由にさせて欲しいと思った。

 

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