第一回これからどうするよ会議~会議のはじまり~
「え~、第一回これからどうするよ会議ぃー。わー、ぱちぱちどんどんぱふぱふ」
今時どんどんぱふぱふなんて古いよな、と思いつつ、僕―新田俊助は、発言主であるイルシーをじとっと見た。そんなに見つめちゃ照れますよ、とイルシーが言うものだから、あっさりと視線を机の上のピザに移す。うまそうなピザだ。
八つに切られたピザが二つ。僕はまだ手をつけていなかったが、あれよあれよという間に減っていく。ぱっと横を見ると、カノンが口一杯にピザを詰め込みながらも、それだけでは飽き足らず次に詰め込むピザを両手に持っていた。
「そんなに食うなよ。僕はまだ一枚も食っていないんだぞ」
「いいじゃない。だって、これ美味しいんだもの」
自分勝手な理屈を言うカノン。お気に入りのDVDを買うために生活費を削りに削って溜め込んだ隠し資金から泣く泣く拠出して注文した宅配ピザだ。絶対に僕が一枚でも多く食べてやる。
「あー、シュンスケ君は私よりもピザの方に興味があるんですね。いけないピザです。食べちゃいます」
イルシーが一気に三切れ取り上げ頬張った。こいつの提案で始めた会議なのに、なんで僕が出費を強いられないといけないんだ。
「うわぁっ!待て!」
瞬く間にピザが一枚消滅した。二千円以上の高価な食物が僕ではない人間の胃袋に納まってしまった。
僕は『女子にバカウケ!マルガリータピザ』を一摘まみする。本当は『肉のヘビーローテーション!ビーフポークチキン全部乗せピザ』を食べたかったのだが、今や見る影もなかった。
こいつらが来てからまったくもってろくなことがない。僕の人生は完全に翻弄され続けている。
カノンは、僕が生み出した小説『魔法少女マジカルカノン』のヒロインだ。しかし、単に生み出しただけで、僕が作り上げたカノンとは全くの別人となってしまった。胸がない、凶暴、そして致命的なのが魔法が使えない。
これは僕に責任があるわけではなく、僕以外の誰かが『創界の言霊』という世界を変えてしまう力で僕の世界とカノンの世界をぐちゃぐちゃにかき乱しているからだ。断じて僕が貧乳好きで、暴力を振るわれるのが好きなM男だからではない。絶対だ!
ちなみにカノンが僕のいる世界に現れたのも、その誰かの仕業らしい。まったく余計なことをしてくれたものだ。
そしてイルシーは、『創界の言霊』を悪用するもの達を取締り、様々な世界を監視、管理している慈善団体(?)である『那由多会』のメンバーである。僕とカノンにいろいろと教えてくれる説明係だが、まだまだ謎が多い。ちなみに声は永遠の十七歳声優そっくりでどうやらコスプレ好き。今は何故か僕の高校の制服(当然女子)を着ている。主にこの二人が僕の人生を翻弄している。
こいつらに会うまでの僕は、慎ましやかな生活を送る至って健全な少年だったのに、今やこいつらのことで神経をすり減らす毎日である。一体何の罪があってこんなひどい罰にあっているのか、神様に抗議したいぐらいである。
しかし、僕はめげない。僕も『創界の言霊』を使い、誰かが滅茶苦茶にした世界を修復することに決めたのだ。全ては平穏な僕の生活のために。
「決意を新たにしてくれるのはありがたいですけど、もうなくなっちゃいますよ」
イルシーが親切に教えてくれた。気がつくとピザはもう一切れしかない。うわ、まずい、と思って手を伸ばそうとしたが、最後の一切れを掠め取ったのはカノンであった。
「てめぇ、カノン!居候なんだからちょっとは遠慮しろ!」
「いいじゃない。今日は私の歓迎会ってことにしておきなさい」
カノンは、躊躇うことなく最後の一切れを口の中に押し込んだ。
こうしてアニメDVD一枚買えるぐらいの値段がしたピザ二枚は、ほとんど僕の胃袋の中に収まることなく、地上から消滅してしまった。
カノンへの怒りを抑えつつ、仕方がないのでカップラーメン食することにした。台所でお湯を入れたカップラーメンを持ってくると、カノンが物欲しそうな目でこっちを見ていた。無視だ。無視。
「ところで、イルシー。ひとつ聞きたいことがある」
「何ですか?ピザのお礼に何でも教えてあげますよ」
「『創界の言霊』は世界を変える力があるって言っていたな。でも、ケロベロスの時も、サリィの時も、物語のような展開しないといけなかった。それは何故だ?」
『創界の言霊』が本当に世界を変えることができる力なら、わざわざ物語のような展開を考えなくても、単純に敵を消すだけでいいはずだ。どうして物語のような展開に拘泥されるのか。ケロベロス、サリィとの戦いを通じて浮かび上がってきた疑問だ。
「それははっきり言って分かりません。我々も乱れた世界を正す時にいろいろと試したんですが、物語っぽくしないと駄目なんです。だから、その物語の作者が世界を正すのがいいみたんです」
原因は分からないのか。経験としてそう判断したのか……。
「今、さらっと言ったけど、我々も乱れた世界を正すって、お前も『創界の言霊』が使えるのか?」
「そうですよ?言ってませんでした」
それが何か、と言いたげに平然としているイルシー。
「そうですよ、じゃない!そんな重要なことをどうして早く言わない!」
「別に言う必要はないでしょう。だって、私の力はそんなに強くありませんし、この世界とカノンちゃんの世界に及ぼす力はとても低いんです。まさか、私にやってもらおうと思ったりしましたか?」
図星である。『創界の言霊』があるならお前がやれよ、と一瞬思ってしまった。ちぇっ。
僕は不貞腐れながらカップラーメンを啜る。きらきらと目を輝かしてこっちを凝視するカノン。やらん、絶対にやらんぞ。
「それで、これからどうするよ会議なんだから、これからどうするか建設的な意見を聞かせてくれ。こっちは『創界の言霊』使いの新人なんだから、何をどうすれば万事解決するのか皆目検討もつかないんだ、イルシー先輩」
「やだぁ。先輩だなんて、ちょっと学園ドラマっぽい感じ、エロティックですね。でも、『お姉さん』の方が好きなんですけどね」
皮肉のつもりで先輩と言ったのに、まるで堪えていないイルシー。こいつも『創界の言霊』の使い手だけに妄想は半端ない。
「この前も言いましたが、シュンスケ君は、カノンちゃんの世界から送り込まれてくる魔物やら敵を倒して、世界の融合を阻止してください。その間に私達がこの世界を操っている犯人を見つけ、逮捕しちゃいますから」
逮捕しちゃうぞです、と改まっておどけながら言うものだから、僕は一抹の不安を感じずに入られなかった。勿論『那由多会』にはもっとまともな奴がいると信じているが、イルシーを見ているとちょっと、ね?
「う~ん。なんだかあんまり信用されていないようですね」
妙に鋭いイルシー。不満そうに唇を尖らせる。可愛い仕草をしやがって。永遠の十七歳声と妙に合ってやがる。
「まぁ、よしとしますか。とりあえず……」
唐突に制服を脱ぎ出すイルシー。お、おい!それは駄目だろう!かなり嬉しいけど……。




