魔法少女マジカルカノン~完結編~
「これで最後よ!」
カノンは白き魔法の杖を構えた。息も絶え絶え、全身傷だらけになりながらもカノンの気力は衰えていなかった。白き魔法の杖の先に集まる強大な魔力をひしひしと感じていた。
「ば、馬鹿な……。余がここまで追い詰められるとは……。あり得ん、あり得んぞ!」
デスターク・エビルフェイズもまた満身創痍だった。触手はなくなり、角はへし折られ、もはや魔王としての威厳に満ちた姿はどこにもなかった。
「究極魔法!エターナル・シャイニング・ファイヤァァァァァー!」
白き魔法の杖の先から炎が迸った。その色はもはや赤色ではなく、金色に光り輝いていた。光り輝く炎は瞬く間にデスターク・エビルフェイズを包んでいった。
「この余が敗北するだと……。ははは……。だが、余は幾度も蘇るぞ。この世界に邪悪が存在する限り……。余こそ、邪悪の権現……」
負け惜しみとも聞こえる断末魔だった。カノンの放った渾身の究極魔法は、灰さえ残さぬほどにその身を焼き尽くした。
「勝った。勝ったのね、私……。みんな、ありがとう」
全身を支配していた緊張が一気に解けた。カノンは崩れるようにして膝を突いた。
「やったわ。これで世界は平和になる……」
遠のく意識の中、カノンはただただ勝利したことへの安堵感に満ち溢れていた。
デスターク・エビルフェイズが倒されて一ヶ月後……。
「本当に行くというのかね、カノン殿」
玉座に座る聖ホロメティア王国国王グレマス三世は、本当に残念そうに顔をしかめた。
「カノン殿は救国の英雄。我が国に留まり、後進の指導を行って欲しいのだが……」
本当に行かれてしまうのか、と再度カノンに問うた。
「はい。ご好意は感謝致しますが、各地を巡って魔王討伐に協力してくれた人達に会いたいのです」
彼ら、彼女達にあって直接魔王を倒したと報告したい。それがカノンに願いだった。
「そうか。救国の英雄が望むのであれば、致し方ない。しかし、旅を終えた暁には必ず帰ってきてくれ」
はい、とカノンは答えたが、それが何時になるかはあえて言わなかった。
「寂しくなるわね。カノン」
同じくグレマス三世との謁見を終えたレリーラがカノンの隣を歩いている。魔王軍との激闘の中、カノンを庇って死んだはずのレリーラだったが、奇跡的に一命を取り留めていたのだ。
「ええ。先輩も王都を離れるんですね」
「そうね。来週にはね。あの人は先に祖国に戻っているけど」
「リンド様も怪我癒えて何よりですね」
レリーラの婚約者であり、魔王に操られていたリンド・バオルムもまた、激戦の最中、命を落としたのだが、やはり奇跡的に一命を取り留めていたのだ。今は王に即位し、聖ホロメティア王国の援助を受け、祖国再興のために尽力している。
「是非、旅の途中によって頂戴ね。どこまでおもてなしできるか分からないけど」
「その頃には先輩は王妃様なんですね」
「改めて言われると照れ臭いわね。で、まずはどこから行くの?」
「そうね……」
話をしているうちに王宮の外に出た。雲ひとつない青空に太陽が燦々と輝いていた。
「気が向くままって感じかしらね。同じ空の下にいるんですもの。絶対、いつか、必ずみんなに会えますから」
カノンは空を見上げた。
きっとカノンに縁のある人達も、この青空を見上げていることだろう。そう考えているだけでもカノンは嬉しくなってきた。
きっと楽しい旅になる。カノンは胸踊りながら王宮を出る一歩を踏み出した。
魔法少女マジカルカノン END