~魔王の間にて~
「それでおめおめと引き下がってきたわけか……」
「申し訳ありません……。(チッ)」
「貴様は何年、余に仕えておる。余が成果を果たさぬまま帰還することを許すと思っておるのか?」
「弁解のしようもありません……。(うるせーなー)」
「それでカノンの奴は、『白き魔法の杖』を持っていないと言ったのだな?」
「はい。(さっきからそう言っているだろ、禿!)」
「うぬぬぬ。どうなっておるのだ。大賢者の所には本当に『白き魔法の杖』はなかった。だとすれば、別の誰かが持っているのか?」
「さぁ……。(知るか、禿!)」
「しかし、憂慮すべき事態だ。『白き魔法の杖』の行方が分からず、カノンが魔法を使えるようになり始めている。あの男の予言どおりであれば、余はカノンの手によってまた封印されてしまう。それはなんとしても避けねばならん」
「御意。(魔王が予言を信じているんじゃねえよ!)」
「サリィよ。再び命じる。あの男の力を使って、カノンのいる世界へ行け。そして、カノンを倒し、『白き魔法の杖』を奪う、もしくは破壊してくるのだ」
「……(あー苛々する。鬱陶しい)」
「どうした?サリィ。さっさと行かんか」
「……いやなこった」
「ん?」
「いやなこったって言ったのよ。この禿!」
「は、禿!」
「前から思っていたんのよ。そのつるつる頭にうねうね動く足。蛸そのものよね」
「た、蛸?これは触手……」
「うわぁぁ。動かすな、気持ちの悪い」
「気持ち悪い?」
「みんなよく言ってるわよ。あの禿、魔王のくせいに威厳がないとか、あの蛸、たこ焼きにされても食えやしねぇとか」
「たこ焼き?食う?」
「だから触手動かすなって。寒気がする。ああ、行くわよ。行ってきてやるわよ。こんな蛸踊り見るぐらいなら、カノンをからかっている方が数倍面白い」
「お、おい。サリィ……」
「彼女は反抗期なのでしょうか?」
「おお、リンドよ。どうもあちらの世界に行ってこの方、おかしくなってしまったようだ」
「左様ですな」
「ところで、リンド。余は威厳がないか?配下の者どもは、余に悪態を吐いておるのか?」
「あの男、予言は適格ですが、やはり信用なりません。これより、調査してまいります。それではこれにて失礼」
「おい!リンドよ。我輩の質問に答えよ……。うむぅ。ここはどうやら、余自らが確かめねばなるまいか……」
魔王デスターク・エビルフェイズは、深遠の闇に向かってそう決意したのだった。




