表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想ファンタジスタ  作者: 弥生遼
その十六、兄と妹
103/183

目覚めた?力~後編~

 【新田俊助は、魔法が使えるようになった】

 イルシーは、『創界の言霊』は世界そのものを変える力があると言った。その力があまりにも危険だという説明もしていた。だから、自分自身に対してはモキボを使ってこなかった。しかし、今はそんな悠長なことを言っている場合ではないのだ。

 僕の力は不完全らしいから、あるいは成功しないかもしれない。だが、今はこれしか手段がないのだ。

 「何をしているか知らんが、喰らえぇぇぇ!」

 デスターク・エビルフェイズが大きな火の玉を振りかぶって投げてきた。

 「ええい!魔法を跳ね返すシールド!」

 咄嗟に魔法の名前が思い浮かばなかったので、妙に説明臭い魔法になってしまった。

 「シュンスケ!あんた原作者なんだから、もっと魔法の名前を……」

 カノンの言葉が止まった。僕の前にちょうど等身大の黒いオーラを放つ物体が出現していたのだ。

 「な、なんや、あれ?月にあるやつか?それとも声しか聞こえへん、補完計画的なあれか?」

 レリーラ……。お前、その知識をいつ仕入れ来たんだ。僕もそう思わんでもないが。

 デスターク・エビルフェイズが放った火の玉が近づくと、その物体は黒いオーラを広げ、火の玉を包み込みそのまま握りつぶすように消してしまったのだ。

 「何だそりゃ?!反則だろ!」

 キャラを忘れ、憤慨するデスターク・エビルフェイズ。これでどうだ、と無数の火の玉を投げつけてきた。

 「うわぁっ!何とかしろ、物体X!」

 僕が叫ぶと、物体Xから無数の黒い筋状のオーラが伸び、その先端が手の平のように広がり、次々と火の玉を受け止めていった。そして、そのまま火の玉を握りつぶしていく。

 「凄い……。これって、シュンスケの魔法なの?」

 僕の魔法……。どうなのだろうか?確かに僕は【新田俊助は、魔法が使えるようになった】とモキボに入力した。そして、呪文と言うよりも説明に近いことを叫ぶと、この物体Xが出現してきた。物体Xは、僕が命じたままに働いてくれた。魔法といえば魔法なのかもしれないが、僕の『創界の言霊』の作用とも言えなくもない。どちらにしろ、イルシーの言ったとおり、『創界の言霊』の力は絶大だ。使いこなせれば、何でもありになってしまう。

 「とにかく今はデスターク・エビルフェイズをやっつけないと……」

 僕は妄想する。物体Xから伸びた黒い無数のオーラが拳を作り、デスターク・エビルフェイズをぼっこぼこにするのだ。

 「いけっ!」

 命ずると、僕が妄想したとおり、物体Xから勢いよく黒いオーラがデスターク・エビルフェイズに向かって伸び、拳を作ってデスターク・エビルフェイズに襲い掛かった。

 「ふふん!こんな攻撃で負ける余ではないわ!オラオラオラオラ!」

 デスターク・エビルフェイズも拳を繰り出す。物体Xの拳とデスターク・エビルフェイズの拳がぶつかる度に激しい衝突音が響く。

 「何よ。これじゃ格闘ものじゃない」

 呆れ顔で言うカノン。お前が言うな!

 「オラオラオラ……ぐほっ、ぐはっ、げほぉぉ!」

 最初は互角に物体Xと拳を交えていたデスターク・エビルフェイズだが、次第に押されるようになった。一発、二発と立て続けに物体Xの拳を喰らい始めると攻撃することもできなくなり、デスターク・エビルフェイズは、ただ只管蛸殴りにされるだけであった。

 流石に弱者をいじめている様な気分になってきたので、それそれを終わらせてあげることにした。

 「物体X!止めだ!」

 複数あった黒いオーラが一つに集まった。その先端が大きな拳となり、デスターク・エビルフェイズに迫った。

 「うわっ!ちょ、たんま!」

 「人の妹を拉致っといて、たんまも糞もあるか!」

 僕の怒りが物体Xの拳に乗り移ったようにさらに巨大化する。そのままデスターク・エビルフェイズの全身にぶつかった。

 「ぐはぁぁぁぁぁぁぁ!」

 衝撃でぶっ飛ぶデスターク・エビルフェイズ。そのスピードは目で追うことができなかった。どかんどかんと壁をぶち破る音と、お兄さんと仲良くするんだよ、というよく分からない断末魔の叫びだけが聞こえた。

 壁が壊れた時に生じた砂埃が収まると、デスターク・エビルフェイズの姿はなく、壁の壊れた部分から外の景色が見えていた。

 「や、やったの?」

 「殺ってはいないと思うけど、やっつけたんだろうな」

 ひとまず安心。僕がひと息つくと、それを察したかのように物体Xは、蒸発するように消滅した。

 「結局何だったの、あれ?」

 「分からん。ま、それは後で考えよう。それよりも、カノン。足は大丈夫か?肩を貸すぞ」

 「いらないわよ。それよりもアキホでしょう」

 「分かっているよ。でも、お前だって足を挫いているんだろう?」

 「分かってないわね。今、あんたが介抱するのはアキホ。私は大丈夫よ。いざとなったら、先輩の肩を借りるから。届くかどうか分かんないけど」

 「どういう意味や!オレ、そこまで背低くないで!」

 冗談ですよ、と笑うカノン。うん。その元気さがあれば大丈夫かな。

 「先に帰っているわよ」

 「兄ちゃん、すき焼き頼むで」

 レリーラの頭に手を置き、足を引きずるようにして歩くカノン。痛々しかったが、確かに今僕がすべきは秋穂を連れて帰ることだろう。

 「家の救急箱に湿布薬あるから貼るんだぞ」

 分かったわ、とカノンの声が響いた。

 「さてと、帰るとしますか、お姫様」

 僕は秋穂の傍にしゃがみ込み、彼女の背に負ぶった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ