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妄想ファンタジスタ  作者: 弥生遼
その十六、兄と妹
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目覚めた?力~前編~

 オキバから疾風のように地元に戻った僕達は、休むことなくデスターク・エビルフェイズが待つ三丁目の工事現場に急行した。千草さんが攫われ時と同じ場所だ。

 柵の乗り越え敷地内に入ると、相変わらず不愛想なコンクリートむき出しの建物が乱立していた。千草さんを救出した時と時刻的にはそれほど変わらないが、真夏だけにまだ陽が高く、薄暗くて困るようなことはなかった。

 「まったく!同じ場所で同じ行為とはな。これがラノベなら作者の構成能力の無さを非難するところだ」

 「事実は小説より奇なりってことでしょう。ハチャメチャなことをさられるよりはいいわ」

 妙に難しい言葉を知っているカノン。あ、そうか。こいつには僕の知識を与えたんだった。最近ではすっかり現代日本での生活に馴染んでいるので、そういう設定を忘れるところであった。

 「ま、そりゃそうだな。でも、ここは結構広いぞ。どこにいるか分かるか?」

 「今日は強く感じるわ。先輩、分かります?」

 「おお。いかにもここにいますって言わんばかりや」

 千草さんの時とは違い、今回はレリーラがいる。幼女ながらモキボなしで魔法が使えるのでとても心強い。

 「近いわね。上じゃない、一階?」

 「秋穂がいるから上階まで行けなかったんだな。秋穂!」

 僕は、秋穂の名前を叫んだ。

 「兄さん!」

 秋穂の声が返ってきた。互いの声が聞こえる距離だから、それほど遠くはないはずだ。

 「兄ちゃん!あそこ!あの建物の向こう側や!そこから聞こえた」

 レリーラがすぐ近くの建物を指し示した。内装も外装もまるで施していなかった。

 「秋穂!!そこか!」

 僕達はその建物に入った。中庭を挟んだ反対側の空間に人影が見えた。僕は走りを一層加速させる。

 回廊を回り、人影のあった空間に入る。中心にデスターク・エビルフェイズが立っており、秋穂が壁にもたれかかるようにして倒れていた。

 「ふははははっ!よく来たな!愚か者供よ……ちょ、ぐはぁぁぁ!」

 デスターク・エビルフェイズが両手を広げ悪役っぽい台詞を吐こうとしていたが、言い終わる前に僕の鉄拳が奴の頬にめり込んでいた。

 「ぶごぉぉぉぉっ!」

 蹲り、転げまわるデスターク・エビルフェイズ。本当に痛そうだったが、今日ばかりは容赦はしない。

 「てめぇ、人の妹を拉致っとおいてただで済むと思っているんじゃないぞ」

 「あ、悪役が名乗っている時は黙って聞いているのが礼儀だぞ……」

 「あ゛あ゛?お約束ってやつか?そんなものは、創作の中でのことだ。立てよ」

 ひ、ひどい、と涙ぐみながら立ち上がるデスターク・エビルフェイズ。泣き謝っても絶対許さないからな。

 「シュンスケ。さっさと魔法を使えるようにしてよ。一瞬に蒸発させてあげるから」

 「その前にオレの風で細切れ肉や!そして今日の晩飯はすき焼きや!」

 「そうよ!夏でもすき焼きよ!」

 いつにも増してやる気のカノンとレリーラ。うん。そのやる気はありがたいが、すき焼きはまた今度な。

 「おのれ!好き勝手にいいやがって!」

 デスターク・エビルフェイズが右手の中指でずれた眼鏡の位置を直した。ごおっと音を立ててデスターク・エビルフェイズの周りに炎が巻き起こった。

 「魔王をなめんなぁ!」

 涙声でデスターク・エビルフェイズが叫ぶ。拳大の火の玉が次々と発生し、こちらに飛んでくる。

 「兄ちゃん!カノン!さがれや!」

 ここは普段から魔法を使えるレリーラの出番だった。僕とカノンの前に立つと、大きく手を広げた。

 「風のカーテンや!」

 風が吹き荒れた。丁度、レリーラの前を右から左へと間断なく突風が吹き、デスターク・エビルフェイズが繰り出す火の玉を吹き飛ばしていく。

 「レリーラ!」

 「先輩!」

 「やっぱ、こいつ……禿げてても魔王や。そうもたん!」

 レリーラが苦しそうにうめく。よし。レリーラが時間を稼いでいる間にカノンに魔法を使えるようにしないと……。

 「カノン!準備はいいか?」

 「ええ、大丈夫よ」

 僕はモキボを出した。さてどうしたものかと考える。カノンは基本的には炎系の魔法を使うわけだが、この前は光系の魔法も使えたし、魔法剣めいたものも使えた。ということは、基本的には何でもありのはずだ。

 「デスターク・エビルフェイズが炎系なら、この際カノンを氷とか水系の魔法使いにしてしまおうか……」

 どうせ僕の考えたカノンからかけ離れた別人なのだ。変更したところで怒る奴なんていないだろう。

 「に、兄ちゃん。もう……あかん!」

 切羽詰った声を上げたレリーラ。デスターク・エビルフェイズの攻撃を防いできた風が弱まった。レリーラの目の前で火の玉が爆ぜ、爆風でレリーラが飛ばされた。

 「レリーラ!」

 僕は飛ばされるレリーラを受け止めた。しかし、その衝撃は凄まじく、バランスを崩して後に倒れそうになった。

 「シュンスケ!」

 その僕をカノンが支えようとした。だが支えきれず、僕諸共将棋倒しのように倒れこんだ。

 「あ、あれ?勝っちゃった?い、やった~!やればできるじゃないか、自分!」

 地面に転がっている僕達を見て早々に勝利宣言をするデスターク・エビルフェイズ。く、くそっ。あいつ、あんなんだけどやっぱり魔王だ。強い。

 「すまない、カノン。僕が迷いすぎた。さっさと反撃しよう!」

 「う……うん。あ、痛っ!」

 立ち上がろうとしたカノンが、痛そうに顔をしかめ座り込んだ。

 「どうした?」

 「足、ぐねったみたい……」

 いかにも痛そうに右の足首をさするカノン。確かに赤く腫れていた。

 「おやおや?今日は私の完全勝利?え、え~と、こういう場合は……ふははははは!虫けらども!余に逆らった報いぞ!」

 デスターク・エビルフェイズが完全に調子に乗ってやがる。く、くそぉぉぉ。とてつもなく悔しい。

 しかし、カノンは立てないし、レリーラは魔力を使い切ってグロッキー状態。まとも戦える奴がいない。万事休すだ!

 「ふははははっ!冥土で余に逆らったことを後悔するがいい。あ、でも殺さないよ、お嬢さんが悲しがるからね」

 でもちょっと痛い目にあってもらうよ、と完全に怪しい人が吐きそうな台詞をのたまうデスターク・エビルフェイズ。い、痛い目は嫌だし、こいつに負けるのもすごく嫌だ。

 「もう!やけくそだ!」

 こうなればやぶれかぶれ、奇跡を信じるしかない。僕はモキボに入力した。

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