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妄想ファンタジスタ  作者: 弥生遼
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決戦!エビルパレス!

 深い闇はどこまでも深く、そして果てしなかった。

 この闇の先に待っているのは絶望か、あるいは死であるかもしれない。

 それでも、しっかりとした眼差しで先を見つめるカノンの瞳には、迷いも恐れもなかった。

 倒すべき敵がそこにいる。

 改めてそのことを胸に刻むと、ただただ闘志の炎だけがめらめらと燃え上がるのであった。


 この世に破壊と絶望をもたらす魔王デスターク・エビルフェイズ。

 その居城、エビルパレスに辿り着くまで、どれほどの犠牲を払ったことか。

 ロンダリス島を守護する邪神兵との戦いに散っていった神聖龍騎士団のみんな。

 最後の結界を解くために生命の灯火を燃やし尽くした大賢者の末裔ノスルトゥー。

 そして、カノンを庇って命を落としたレリーラ・エドワルズ。

 エビルパレスの回廊を進むカノンの脳裏に、この戦いで犠牲になった者達の顔が浮かんでは、回廊の闇に消えていった。まるで魔王デスターク・エビルフェイズのいる場所へと誘っているように。

 「大丈夫よ。みんなの敵を取るんだから!」

 カノンは、ぐっと右手に持つ杖を握り締めた。この杖こそカノンの切り札。かつて大賢者達がデスターク・エビルフェイズを封印した『白き魔法の杖』だ。

 「みんなの思いがこの杖に入り込んでいる。だから、私は負けるわけにはいかない!」

 一陣の風は吹き、回廊を灯していた無数の蝋燭の炎が激しく揺れた。

 カノンの気合がさせたわけではない。この風を起こした正体を、カノンはすぐさま感じた。

 「ぐふふふ…」

 地響きのような笑い声がした。命を賭して戦ってきた者を愚弄するかのような嘲笑。

 カノンにとっては忘れたくても忘れられない声であった。村のみんなが、そして両親が地獄の業火に焼かれたあの日。絶望し、生きる意味を見失っていたカノンに容赦なく浴びせかけてきたあの笑い声だ!

 「姿を見せない!デスターク・エビルフェイズ!」

 「愚かなり。愚かな小娘よ」

 デスターク・エビルフェイズの声だけが回廊に響く。姿を見せないのは余裕からか、それともカノンのことを愚弄しているからか。

 「卑怯よ!デスターク・エビルフェイズ!私を愚かな小娘と思うのなら、姿を見せて堂々と勝負なさい!」

 カノンは挑発しながらも、内心は焦れていた。デスターク・エビルフェイズを封印するのは、奴の実体に埋め込まれた魔神石から悪しき心を吸い取らなければならないのだ。

 「ぐふふふ、卑怯とな?悪の権化には相応しい褒め言葉だな。それで余を挑発したつもりか?」

 カノンはさらに焦りを募らせた。こちらの意図を見透かされたのではないだろうか。

 「まぁよい。小娘ながらここまで辿り着いた褒美だ。我が姿、見せてやろう!」

 やった、とカノンが心の中で小さく叫んだ次の瞬間であった。それまでカノンが歩いていた狭い回路の風景が突如として消え、石柱に囲まれた大きな空間が周囲に現れた。

 「幻覚?」

 回廊を歩いていたつもりであったが、実はデスターク・エビルフェイズの操る幻覚魔法で、ずっと同じ場所を歩かされていたようだった。まるで気付かなかったカノンは、デスターク・エビルフェイズとの力の差を思い知らされた。

 「フフフ、恐怖しろ小娘。これが余の姿ぞ」

 カノンの正面、備え付けられた巨大な玉座には、まさしく魔王という名に相応しい異形のものが鎮座していた。

 十本あまりの角が生えた頭部に、大きく開いた三つの目。虎のように裂けた口には巨大な牙。カノンの身長の三倍以上はあるであろう全身は、緑色の硬質な鱗で覆われていた。手と足がそれぞれ四本ずつあり、背中からは無数の触手が生え、絶え間なくうねうねと蠢いていた。

 誰も見たことはない魔王デスターク・エビルフェイズの姿。一目見たカノンの体が自然と震えだした。

 『恐怖?いや、違う。これは武者震いよ!』

 自分に言い聞かそうとしたカノンであったが、鳥肌が立ってくるのはどうしようもなかった。

 「どうした、小娘?恐怖で動けんか?」

 「そ、そんなことないわ!私は、絶対あなたには負けないわ!」

 「ふははははぁ。殊勝なことを言う小娘よ。どれ、少し楽しませてもらおうか」

 デスターク・エビルフェイズの触手が数本、目にも留まらぬ速さで動いた。どうすべきか判断する間もなく、触手たちがカノンの両腕、両足に絡み付いてきた。

 「い、いやぁぁ!」

 完全に行動の自由を奪われたカノンの体が宙に浮いた。

 「ふははははぁ。こうなっては白き魔法の杖も役目を果てせまい。存分に楽しませてもらうぞ、小娘!」

 不愉快なぬめりのある触手が、足首から太もも、そして上半身へと巻きついてくる。

 「い、いやぁぁぁ…」

 もはやカノンの全身は恐怖と絶望に支配されていた。さっきまで抱いていた勝利への執念や復讐心など微塵も残されていなかった。ただこれから迎えるだろう恐怖と、全身を這い回るデスターク・エビルフェイズの触手の不快感だけがカノンの全てであった。

 「怖いか?怖がれ!それこそが余にとって最大級の楽しみだ!」

 「い、いやぁぁぁぁぁっ!」

 触手がカノンの乳房に力強く巻きついてきた。衣服は脆くも破れ、豊満な乳房が露になった。


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