第四話
セフィリアからの説明を引き続き受けた俺は、今は自分の能力確認の為に中庭に案内してもらっているところだ。
力になると言った後、セフィリアは感極まったのか大粒の涙を流して泣き出してしまった。
美少女が口元を手で押さえ、涙を流す様はなかなか絵になるものだと思う。
ハンカチを出して目元を拭い、涙を止めたセフィリアが説明の続きをしてくれた。
その内容は、四種族の容姿や現在の協力体制、それから侵略者の情報について、だった。
ちょっと頭の中でおさらいをしておこう。
まず四種族は見た目で判断できる、らしい。
分かりやすく考えるため、元の世界の意味での人間、つまりは自分を基準にする。
鬼族は額の中心からに一本の角が生えているいて、四種族一強靭な体が特徴の種族。
角の長さはだいたい大人の手ほどもあり、螺旋状の紋様が刻まれている。
ごく稀に角が二本もしくは三本持つ鬼族もいる。
複数本の角を持つ鬼族は、強靭な体を持つ鬼族の中でもさらに強靭な体を持つ。
次に獣族だが、簡単に言えば獣人だな。
人間に獣の耳、尻尾を持つ者から獣が二足歩行している者まで、一口に獣族と言っても見た目は多岐にわたる。
見た目が多岐にわたる獣族に共通していることとして、鋭敏な感覚がある。
五感である視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚に加え、第六感である勘のいずれかが四種族一鋭敏になっているらしい。
いずれかが、というのはどの感覚が鋭敏なのかというのは本人の自己申告によるものらしく、どの間隔が鋭敏なのかを他者が判別する方法はないようだ。
亜族は耳のとがった人間、といった印象だ。
総じて美しい容姿を持つものが多く、知識や知恵に優れた種族らしい。
寿命も長く、外見上は二十歳代程度まで成長すると死ぬまで変わらないそうだ。
元の世界のエルフのイメージが一番近いだろうか。
「それにしても、異世界の魔族、か…」
自らの右手に視線を落とし、掌を開いたり閉じたり動かして見る。
最後にセフィリアたち魔族。
セフィリアの外見は俺がよく知る元の世界の人間とほとんど変わりはない。
魔族の特徴は他の三種族に比べ、より多くの魔力を持つこと。
魔力は魔法の元らしく、その辺は元の世界の小説やマンガと同じだ。
セフィリアから魔族の説明を聞き、俺は本当に異世界に来てしまったんだな、と思ったよ。
「ヨウさま、こちらです」
俺の数歩先を歩くセフィリアが足を止めて振り返り、右手を挙げて指し示す。
振り返ると同時にスカートが舞い揺れ、セフィリアの可憐さに目を奪われかけたのは心の中にしまっておこう。
「あ…ああ、ありがとう」
我に返った俺はセフィリアに示された入口をくぐり、中庭へと足を踏み入れる。
中庭と言われた場所は芝生のように刈りこまれた草が茂り、建物との境には垣根のようなものがあった。
ざっと見ただけだけでもサッカー場程もある広さの場所が中庭らしい。
「ここは第三中庭だ。他に第一、第二、第四中庭があり、有事の際は避難場所や延焼を避けるために使われる予定になっている」
呆けたように立っている俺に左側からセフィリアではない女性の声が説明をしてくれた。
女性の声が聞こえた方を向くと、真紅の髪を高い位置で結わい、ポニーテールにした長身の女性が足を揃えて立っていた。
その女性は鎧を着ていた。
俺の眼から見ても変則的だと思われる鎧を。
右足は太ももの中ほどまであるブーツのような形状、左足は膝下までのブーツ状、胴体はほぼすべてを覆っているが左肩から左胸部にかけては鎧がなく黒い服が見えている。
右腕はほぼすべてがおおわれているのに対し、左腕は指先から肘までしかおおわれていない。
重装の右半身と、軽装の左半身。
女神と見まがうほどの美貌は深い緋色の瞳から発せられる眼光により、見る者に美しく鋭利な刀を連想させる。
「あたしはアリーシャ・ラーヴァトム。アークラルド皇国騎士団一番槍隊々長をやっていた」
アリーシャと名乗った女性は鎧同士が接触して発する金属音を一切出さず、こちらに歩み寄ってきた。
そして俺の前に立つと再び直立し、右の拳を胸の前に当てた。
雰囲気から敬礼のようなものだろうと判断する。
「これからあんたを叩きのめす者の名前だ。覚えときな」