後編
「神様に見捨てられた」後編です。
バッドエンド注意です。
「待って!凛!」
未来は凛を見つけて呼び止める。凛は、何?とでも言うような不機嫌な顔で振り返る。
未来はあふれる思いを凛にぶつけた。
「凛、あなたは私と組むなんて嫌かもしれないけど、私はアイドルを続けたい!凛と一緒にがんばっていきたい!だから・・・やめるっていったこと、取り消して?」
言い切った後、息をぐっととめた。
凛の返事をじっと待った。
重くて辛い沈黙が二人の間に訪れた。
しばらくして凛が口を開いた。
「あのさぁ・・・正直、ウザいんだけど」
その言葉を聞いて、未来は自分の何かが切れた音がした。
そしてしばらく頭がボーっとして、気がつくと凛が目の前に倒れていたのだ。
一瞬何が起こったのか理解できなかった。
でも凛が頬を押さえてうずくまっているところを見ると、なんとなく分かった。
自分が凛を殴ったのだ。
未来は自分が信じられなかった。
さっきまで一緒にがんばりたいと、友情のようなものを抱いていた相手を、殴ったのだ。
本当に自分は凜を大切に思っていたのか?
連れ戻すと覚悟して来たのにどうして殴ったのか?
色々考えて、未来は自分で自分がわからなくなって―――逃げた。
その場から走り去った。
さっきの未来と凛のやり取りを見て、そして撮影していた人がいることも知らずに。
―翌日―
未来は唖然とした。
朝起きてなんとなく新聞を手に取った。
その新聞にはなんと「フリージア、ついに解散か!?」という見出しが大きく載っていたのだ。
慌てて記事の内容に目を通すと、昨日の未来と凛のやり取りが詳しく載っていたのだ。
未来が凛に暴力をふるったことも。
「ど、どうしよう。え?どうしたら・・・」
うろたえていると、一本の電話がかかってきた。
電話番号を見ると、社長からだった。
心臓が跳ね上がった。ああ、これは覚悟しなくてはいけないのか。
決心して電話を手に取った。
「もしもし、永井です。あの、しゃちょ・・・」
「永井さん、今すぐ来てください。新聞に載っていたことについてお話があるので」
「・・・はい」
そして一方的に電話を切られた。
社長から言われることなんて大体想像がついたが、仕方なしに家を出た。
案の定、玄関で待ち伏せしていたマスコミたちを振り切って。
社長の話はこうだった。
「フリージアは解散」
「未来は1ヶ月テレビに出られない」
その話を聞いてから、未来は家に戻ろうと歩き出したが、急に足から力が抜けて道に座り込んでしまった。
これからのアイドル人生はもうない、と未来は思った。
フリージア解散は当然の結果だ。
1ヶ月テレビに出られないというのは思ったよりも軽いものだったが、1ヶ月してテレビにまた出ても、自分は以前と同じような人気を取れるだろうか?
いや、今回の事件で確実に自分のイメージは下がっただろう。
元から人気は少ないのに、さらに人気がなくなったら・・・もう自分のファンなんていないのかもしれない。
絶望的だった。
座り込んだまま空を見上げると、星があまりにもきれいに光っていた。嫌になるほどに。
そして思った。
『やっぱり神様は私なんかを救ってくれない』と。
急に背中に違和感を感じた。
次の瞬間、一気に激痛が走った。
「ああああああ・・・ッッッ!!!!」
そのまま前に倒れこんでしまう。
背中からドクドク血が流れるのを感じた。
朦朧とする意識の中、後ろから複数の人が話す声が聞こえた。
「こいつ、死んだか?」
「まだ息してるみたいですけど、じき死ぬでしょう?だって、あんなでかい包丁で背中を一突きですよ?」
「ざまぁみろ。凛ちゃんを殴った罰だ」
「凛ちゃんを殴るなんて、とんでもない奴だ」
「こいつの悪口言ったってどうにもならないだろ?だってこいつは死ぬんだから」
「それもそうか。ハハッ!」
笑いながらその人たちは未来から遠ざかっていった。
ああ、死ぬんだ。私。
アイドルでいられるために、一生懸命努力したのに。
努力の無駄だったのかな?
涙があふれてきた。
ぬぐいたいのに、もう手が動かなかった。
もう痛いという感覚さえ、なくなってきた。
もう一度空を見上げた。
星はやっぱりきれいで、きれいで、いやになって目を閉じた。
もう、たぶん、目を開けそうにない。
そして思う。
『私はやっぱり神様に見捨てられたんだ』と。
努力しても報われない。
そんな悲しさを表現したくて書きました。
未来が天国で報われるといいな、と思います。