前編
バッドエンドです。
あと読み終わった後、もやもやした気持ちになるかも知れないです。
観客の歓声が響くステージ。
そこで歌うのは二人の女の子だった。
美しく、よく通る声。
二人は『フリージア』という二人組みのアイドルだった。
一人は永井未来という。長い金髪をポニーテールにした、明るい女の子だ。その明るさを生かして、バラエティ番組に出ることも多い。
もう一人は神谷凛という。ポニーテールの子とは正反対の黒髪でおとなしい雰囲気の女の子だ。どちらかというと歌番組にでたり、モデルとして活躍することが多い。
この二人が組んでいるのは、正反対な見た目、性格の二人を組ませたら売れるだろう、という社長の思いつきだ。
そして社長の思惑はあたった。いまや『フリージア』は大人気のアイドルだ。
―ライブ終了後の楽屋にて―
「ちょっと、どういうことよ、凛!」
未来がすごい形相で凛につめよっていた。
「・・・仕方ないでしょ」
凛は落ち着いた様子で返答する。その声には感情の起伏が全く見られなかった。
「仕方ないってなによ!いきなりアイドルをやめるなんて!いい加減にして!」
もう未来は爆発寸前だった。
ライブ終了後、凛が未来に言ったのだ。『アイドルをやめる』と。
それが未来にとって納得いかなかったのだ。
それも仕方ない。いきなり言われて納得する方がおかしい。
だが未来が納得いかないのはもっと別の理由だった。
凛がアイドルをやめれば『フリージア』は、自分は、どうなるのだと。
当然『フリージア』は解散になる。
そして未来はその後、ソロ活動をやっていける自信がなかった。
だって今、未来が『フリージア』でアイドルをやっていけるのは、ほとんど凛のおかげだった。
番組のオファーが来るのも、ファンレターの数も、何もかも凛のほうが多かった。
だから未来はずっと凛の腰ぎんちゃくのように生きてきた。
でもそれでもよかったのだ。
アイドルが続けられるなら。
それなのに今、凛がやめると言い出したのだ。
許せない。
許せない。
許せない。
許せない。
未来は怒りと絶望に押しつぶされそうだった。
不意に凛が口を開いた。
「・・・とにかく私はやめるから。アイドルなんてつまんないことやってられない。あ、社長に私がやめるって言っておいて」
そう言って、未来を突き飛ばして去ってしまった。
未来はその場に呆然と立ち尽くしていた。
もはや追いかける気力も無かった。
「なんで凛はつまんないなんて言うの?私なんかアイドルになるために死ぬほどの思いをしたのに」
自分で言って自分で情けない気持ちになって、唇をかみ締める。
しばらくその場で思考をめぐらせていた。
ソロ活動はどうやっていけばいいか?
いやその前に凛がやめることを社長にどう伝えようか?
いやいやその前に・・・凛がやめてもいいのか?
ダメだ。
未来はぶんぶん首を横に振る。
長い間二人で一緒にアイドルとしてやってきた。
本当はソロでやれるのがよかったなと思いつつも、凛と一緒にがんばろうと思う気持ちもちょっとずつ増えてきた。
凛のほうは、そんな気持ちは微塵も無かったようだが。
気がつくと未来は走り出していた。
凛をやめさせるわけにはいかない。
引き止めないと。
また一緒にアイドルをやっていくために。