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四季の聖女  作者: 篠月珪霞


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2

出逢ったのは、5歳の誕生日だった。

緩やかなウエーブのかかった白金の髪、明るい緑の目をした少女。

街で見かけた人形のような少女がにっこり笑うと、覚えたばかりだというカーテシーを披露した。微笑まし気に見守る大人たち。

お互いに挨拶を交わし、にこにこしている少女をじっと見る。父に聞かされていた、未来のお嫁さんはこの子なのだろうかと。

その時点では候補に過ぎなかったらしいが、何度か会ううちに、問題なさそうだと両親たちは正式に婚約を決めたとか。


エアリノスは聖女だから、謂れのない悪意や害意にさらされるかもしれない。

聖女の証である腕輪をしているが、普通の女の子だから。

守ってあげなさい、と父からはよく言われたものだ。


理由があろうとなかろうと、彼女の背景に何があろうと、シエルには関係なかった。

春の日差しのような笑顔を。

幸せに重ねていく日々を。

ただ守りたいと、そう思っていた。








「…シエル様…!!」


鍛錬場に息せき切って現れたのは、プランタン家の御者だった。


「エアリノス様を、エアリノス様と、ご一緒ではなかったのですね?!」

「……エアがどうした?」

「いつもの時間にお迎えに上がったのですが、一向にお見えにならないのです!! こんなことは初めてで、」


さっと顔色が変わるのが自分でもわかる。最後まで聞かず、走り出した。


始終一緒にいられるわけではないから、決して1人にならないようにとは言い含めておいた。だが、友人でも一瞬の隙なく共にいることは難しいだろう。狙っている者からすれば、絶好の隙となる。

何事もなければそれでいいが、と行動範囲から探し、手当たり次第に残っている学生に聞く。


いない。

いない。

ここにもいない。


粗方探しても探し人は見つからず、焦るばかりのシエルの視界に、見たくもない男の姿が立ちふさがる。第二王子。殴りつけたくなるのを堪え、無視して通り過ぎようとしたシエルに、男の嘲笑う声がする。


「いいカラダだったぞ、お前の女」

「…な、に…?」


何を言っている?

理解することを無意識に拒否していた。


「お高くとまった生意気な女だが、身体だけは最高だったな!」


あはははは!と心底愉快そうに笑う声より、その内容に目の前が真っ赤に染まる。

まさか、と。

ヴットの歩いてきた方向へ駆け出す。


繁みの奥の方。

無惨な姿のエアリノスを見つけたのは、それから間もなくのことだ。






「申し上げにくいのですが、お嬢様は、…その、…女性としての尊厳を…」

「…何者かに、…辱めを受けた、と…?」


伯爵の問いにこくりと頷く、プランタン家お抱えの医師。

意識のないエアリノスを抱き上げ伯爵邸まで送り届けたシエルは、予想していた最悪の事態に天を仰いだ。


「お嬢様、エアリノス様が、何で、こんな…!」


姉妹のように育ったという、侍女のナディールが泣き出す。誰も、何も言えなかった。

重い沈黙だけが、横たわった。






後ろ髪を引かれつつも、伯爵邸に残るわけにもいかず、暗澹たる思いで自宅へ戻る。

夕食は不要と告げ、照明を点けず、そのままベッドへ身を沈める。暗闇の中、きつく目を瞑ると、青白い顔をしたエアリノスが浮かぶ。


「……」


目を離すべきではなかった。エアリノスではなく、無能なくせにプライドだけは高い、あの第二王子と周辺から。

国の盾とも称されるアルトストラトュース侯爵家と婚約しているという意味を考えもせず、衝動的に行動を起こせる愚か者。

あの愚か者は、自分だけが感情を持った人間だとでも思っているのだろうか。いや、人を踏みにじっている自覚すらないだろう。あの手の人種は。


後悔と怒りが渦巻いていて、苦しい。

傷ついたのは、エアリノスだ。シエルではない。それでも。


どれほど怖かっただろう。

どれほど、傷ついただろう。


─────報復と抗議はいつでもできる。このままでは済ませない、決して。


今は復讐より、身も心も深く傷つけられたエアリノスを支えてやりたい。


明日は、彼女の好きな花を持っていこう。






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