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出逢ったのは、5歳の誕生日だった。
緩やかなウエーブのかかった白金の髪、明るい緑の目をした少女。
街で見かけた人形のような少女がにっこり笑うと、覚えたばかりだというカーテシーを披露した。微笑まし気に見守る大人たち。
お互いに挨拶を交わし、にこにこしている少女をじっと見る。父に聞かされていた、未来のお嫁さんはこの子なのだろうかと。
その時点では候補に過ぎなかったらしいが、何度か会ううちに、問題なさそうだと両親たちは正式に婚約を決めたとか。
エアリノスは聖女だから、謂れのない悪意や害意にさらされるかもしれない。
聖女の証である腕輪をしているが、普通の女の子だから。
守ってあげなさい、と父からはよく言われたものだ。
理由があろうとなかろうと、彼女の背景に何があろうと、シエルには関係なかった。
春の日差しのような笑顔を。
幸せに重ねていく日々を。
ただ守りたいと、そう思っていた。
「…シエル様…!!」
鍛錬場に息せき切って現れたのは、プランタン家の御者だった。
「エアリノス様を、エアリノス様と、ご一緒ではなかったのですね?!」
「……エアがどうした?」
「いつもの時間にお迎えに上がったのですが、一向にお見えにならないのです!! こんなことは初めてで、」
さっと顔色が変わるのが自分でもわかる。最後まで聞かず、走り出した。
始終一緒にいられるわけではないから、決して1人にならないようにとは言い含めておいた。だが、友人でも一瞬の隙なく共にいることは難しいだろう。狙っている者からすれば、絶好の隙となる。
何事もなければそれでいいが、と行動範囲から探し、手当たり次第に残っている学生に聞く。
いない。
いない。
ここにもいない。
粗方探しても探し人は見つからず、焦るばかりのシエルの視界に、見たくもない男の姿が立ちふさがる。第二王子。殴りつけたくなるのを堪え、無視して通り過ぎようとしたシエルに、男の嘲笑う声がする。
「いいカラダだったぞ、お前の女」
「…な、に…?」
何を言っている?
理解することを無意識に拒否していた。
「お高くとまった生意気な女だが、身体だけは最高だったな!」
あはははは!と心底愉快そうに笑う声より、その内容に目の前が真っ赤に染まる。
まさか、と。
ヴットの歩いてきた方向へ駆け出す。
繁みの奥の方。
無惨な姿のエアリノスを見つけたのは、それから間もなくのことだ。
「申し上げにくいのですが、お嬢様は、…その、…女性としての尊厳を…」
「…何者かに、…辱めを受けた、と…?」
伯爵の問いにこくりと頷く、プランタン家お抱えの医師。
意識のないエアリノスを抱き上げ伯爵邸まで送り届けたシエルは、予想していた最悪の事態に天を仰いだ。
「お嬢様、エアリノス様が、何で、こんな…!」
姉妹のように育ったという、侍女のナディールが泣き出す。誰も、何も言えなかった。
重い沈黙だけが、横たわった。
後ろ髪を引かれつつも、伯爵邸に残るわけにもいかず、暗澹たる思いで自宅へ戻る。
夕食は不要と告げ、照明を点けず、そのままベッドへ身を沈める。暗闇の中、きつく目を瞑ると、青白い顔をしたエアリノスが浮かぶ。
「……」
目を離すべきではなかった。エアリノスではなく、無能なくせにプライドだけは高い、あの第二王子と周辺から。
国の盾とも称されるアルトストラトュース侯爵家と婚約しているという意味を考えもせず、衝動的に行動を起こせる愚か者。
あの愚か者は、自分だけが感情を持った人間だとでも思っているのだろうか。いや、人を踏みにじっている自覚すらないだろう。あの手の人種は。
後悔と怒りが渦巻いていて、苦しい。
傷ついたのは、エアリノスだ。シエルではない。それでも。
どれほど怖かっただろう。
どれほど、傷ついただろう。
─────報復と抗議はいつでもできる。このままでは済ませない、決して。
今は復讐より、身も心も深く傷つけられたエアリノスを支えてやりたい。
明日は、彼女の好きな花を持っていこう。




