愛娘が自サバ女だった ー親バカ元騎士団長の場合ー
ローガイダー伯爵/元騎士団長
サヴァリア/ローガイダー伯爵の娘
ダン/騎士団長
ガーディアン・イースト/公爵令息
セレンティア/王女
娘のサヴァリアが王立騎士団の入団に落ちた。
「有りえない、何かの間違いだ」
ローガイダーはかつて騎士団長であったが、15年程前に退官し、現在は隠居の身である。
遅くに出来た一人娘のサヴァリアは、父である自分の目から見ても美しく、真っ直ぐな気性を持ち、芯の強い娘だ。
また、妻はサヴァリアが幼い頃に亡くなってしまい、男手一つ、大切に大切に育ててきた。
自分の跡を継ぐべく、女だてらに剣を持ち、騎士を目指している健気さ、ローガイダーはサヴァリアのためならば、どんな事でも出来る。
サヴァリアは今年、王立学園の騎士科を卒業し、王立騎士団へ入団する予定だった。最上位とは言えないが、実技も座学も、王立騎士団の水準を超えており、何より元騎士団長である自分の娘だ。身元も、資質も確かなものだ。にも関わらず、結果は不合格。
「パパッ! 酷い、こんなの信じられない!」
「大丈夫だ、サヴァリア。恐らく、事務手続きに不備があったのだろう」
気の強い娘がポロポロと涙をこぼす姿に、居ても立っても居られず、不合格通知を手に王宮へと向かった。
しかし、事務官に確認したところ。
「結果に間違いは御座いません」
「ならば、何故、娘が不合格だと言うのだ!」
「審査内容はいかなる理由でも公開は出来かねます」
「ええい、話にならん!」
あまりの対応に腹に据えかねて、ローガイダーは後輩である現在の騎士団長を訪ねる事にした。
「困ります、ローガイダー卿!」
「入るぞ!」
秘書官の静止を振り切り、扉を開けると執務机で書類を裁く男が顔を上げた。現在の騎士団長のダンは共に国を守ってきた仲間でもある。しかし、事務官と同様、審査内容は明かせないと言う。
「ならば監査委員会に掛けるぞ! サヴァリアが不合格など間違っている!」
そう言うとダンは諦めたかのようで、書類棚を開け、紙の束をローガイダーに渡した。
「これは写しだが、持ち出しは出来ない。ここで確認してくれ」
それにはサヴァリアの選考結果と調査報告が記されていた。ローガイダーはカウチに腰を下ろすと、書類をめくる。
内容は受け入れ難いものばかりだ。
[サヴァリア・ローガイダー]
素行、気質に問題あり。判断能力、思考能力、倫理観、常識の欠如……
「出鱈目だ! サヴァリアは騎士たる資質に溢れている!」
「その頁は結果だろう。調査内容を確認してくれ」
「だが!」
ダンは無言で見つめ返してくる。仕方なく、読み進めると信じられない記述ばかりであった。
学園でのサヴァリアは異性に対し過度な接触が多く、多くの男子生徒から敬遠されており、時には苦情として教師に報告される事も多々あったという。また、同性に対しては酷く侮辱的で高圧的な態度を取り、過剰な敵対行動が見られ、女性の友人は皆無であると。
「いや、サヴァリアには男友達が多いはずだぞ」
「それは一部の男子生徒のみだ。他の男子生徒からは遠ざけられている」
「気の合わない者は誰にでもおるだろう」
「それから、サヴァリア嬢は女は陰湿な者ばかりだと言って、気の合う男子生徒達と常に行動を共にしてたらしい。また“自分も男のようなものだ”と公言して、男子生徒と距離感のない関わりをしていたとある」
「それは仕方ない。サヴァリアは、女同士のベタついた付き合いが苦手なのだ」
「……男子生徒には、腕にまとわりついたり、腰に手を回したり、時には抱き合ったりしていたらしいが?それは“ベタついた”付き合いではないのか?」
そう尋ねられてローガイダーは言い返せず、ぐうと唸る。しかし、娘は正直な性格のため、親しくなった者には全身で親愛を表現するのだ。そうだ、そう言う事だ。しかし、ダンはさらに続けた。
「親しくもない男子生徒にも馴々しく体に触れ、本人が“止めろ”と伝えても取り合わず、時には、男子生徒の婚約者との交流に乱入するなどの迷惑行為も行っていた。学園から報告と注意があったのではないか?」
「う、それは……」
確かに学園から異性への、特に婚約者がいる男子生徒への振る舞いを慎むよう連絡がきた事があった。しかし、それは人気者のサヴァリアへの嫉妬による誤解であると判断し、取り合う必要はないと考えていた。
「サヴァリア嬢の突飛な行動に眉を顰めるのは、男子生徒だけでなく女生徒も多かったらしいが、注意した令嬢に対し、酷い物言いをし、怒鳴り返したともある。それだけではなく、親しい男子生徒と一緒に、たまたま通り掛かった下級生の令嬢の容姿を貶め、笑い物にしたそうじゃないか」
「いや、きっと、冗談だったのであろう」
サヴァリアは誰であろうと己の意見をハッキリと言う。父である自分に対しても鋭い言葉をぶつける事もあるが、それがまた小気味良いのだ。きっと、その時は、少々ジョークが行き過ぎてしまっただけだろう。
しかしダンは、それを否定する。
「相手を泣かすような言葉は冗談にはならんよ。ローガイダー卿、騎士は紳士淑女となり他者の模範となるべきだと思わんか?」
「確かに、そうあるべきだが、サヴァリアはまだ若い。周囲の人間が導いてやればいい」
「ならば、何故、婦人会と決別したのだ?」
「婦人会だと? それが何の関係があるのだ」
婦人会とは騎士の妻や母親による女性達の集まりだ。ローガイダーの亡くなった妻も、生前は所属しており、茶会やサロン、慈善活動などに精を出していた。
サヴァリアもローガイダーの娘という事で、招待を受け、彼女達と交流をしていたが。
「あのオバサン達サイテー! もっとお淑やかにしろとか、マナーを守れとか、気遣いが出来ないとか、慎みを持たないと結婚出来ないとか嫌味ばっかり!」
夫人達からすると、女だてらに騎士を志すサヴァリアを快く思えないのだろう、随分と意地の悪い指導を受けたようだった。
無理に招待を受ける必要はないとサヴァリアに伝え、その後は全てローガイダーが断った。しかし、生前、妻と親しかった夫人がしつこくサヴァリアの振る舞いについて物申してくるので「これ以上、娘に構うのは止めて頂きたい」とハッキリ拒否してからは静かなものだった。
「ローガイダー卿の奥方は婦人会の友人達に娘が道を外れそうになれば、導いて欲しいと頼んでいたそうだ」
「私がいるにも関わらずか?」
「ローガイダー卿は信じた者をとことん信じ、守り抜くからな」
「私は父親だ! 娘を信じて何が悪い!」
ローガイダーが叫ぶと、ダンは書類の最後の一枚を読むよう言った。
そこにあったのは「不敬罪」という言葉。
「……まさか、嘘だ。真実ならばサヴァリアは処罰されてるはずだろう!」
「公式ではないからな」
「どういう事だ」
「そこに全て書かれている」
再び、ダンは書類を読み進めるよう促す。
サヴァリア・ローガイダーは王家の至宝とも言える末姫、セレンティア王女殿下に対し不敬を犯したとあった。
不敬罪。
騎士を目指し努力し続けた我が娘が……
「馬鹿な、サヴァリアはセレンティア殿下の専属護衛騎士を希望していたのだぞ」
セレンティア王女はただの姫君ではない。
今年13歳になるまだ幼い王女だが、高い神聖力を持ち、幼少の頃から神殿にて修行を行っており、いずれは我が国の大神官長となる方だと目されている。その神聖力は歴代の大神官長の中でも最上位となりえると言われ、王太子殿下と同等の重要人物だ。
そのため、先日、国防の要である二大公爵家の一つ、イースト公爵家ガーディアン公子との婚約が正式に発表された。
ガーディアン公子はサヴァリアと同じ18歳になる文武両道、眉目秀麗な令息で、学園卒業後は王立騎士団に所属する事が決定している。王女とは五歳ほど歳が離れているが、幼少の頃より親しい間柄であるという。
「一体何が起きたのだ」
昨年行われた王立学園主催の剣技会で事件は起きた。
その剣技会は特に武術に優れた者が選出された大会で、ガーディアン公子も出場予定であった。外部からの見学者も多く来場し、当日の学園は非常に賑わっていた。
当時、公式発表はされてはいないが、すでにセレンティア王女とガーディアン公子との婚約は噂になっており、ほぼ確定であると社交界では知られていた。
セレンティア王女は神殿での修行のため、公式行事に出席する事は少なく、姫君の容姿を見た者は少ない。だが、貴族であれば、主要な王侯貴族の髪や瞳の色、身体的特徴を把握している。たとえ、目にした事がなくとも身元の予測がつく。
実際、セレンティア王女が、お忍びで剣技会に訪れていても、生徒も来場客も騒ぎにならぬよう適切に距離を置いて礼節を守っていた。
生徒や来場者は、それとなく王女と思われる少女を観察していたが、彼女はガーディアン公子の演舞と試合の見学が目的であるらしく、二人が会話をする姿が見られたため、セレンティア王女である事は間違いないだろうと、公子に憧れていた令嬢達も二人に遠慮し、近寄る事はなかった。
ただし、サヴァリア・ローガイダーを除いて。
正確にはサヴァリアとその取り巻きの数名の男子生徒達だ。
その日、セレンティア王女は親衛隊はおらず、侍女を二名のみ伴っているだけであった。
護衛騎士を伴っていないのは、非公式の訪問である事と、元々学園の警備水準は高く、外部から来場者が訪れるとの事で、王宮からも騎士が派遣されており、当日の警備はより厳重なものとなっていたためだ。
当然、多数の王家の影が姫君を護衛していたのだが、一見すると分からない。
セレンティア王女は、よく見れば非常に上質な素材で出来たドレスを身に着けていたが、控えめな意匠だった。
サヴァリアの目には地味なドレスを着て、侍女を二人しか連れて来ていない少女が、自分よりも高位の存在には思えなかったらしい。
学園の中でも最高位の爵位を持ち、騎士科でもその実力は上位に入る。容姿も才能も権力も兼ね備えたガーディアン公子が、見たことも無い下位貴族の子供を構っている様子は、サヴァリアを苛立たせた。
入学してから、ずっとサヴァリアはガーディアンと親しくなろうとしていたが、全く相手にされておらず、むしろ、公子はサヴァリアを嫌悪する生徒の筆頭であった。それでもサヴァリアはめげずにガーディアンにまとわり続けていた。
男だと思ってくれれば良い、同じ騎士科なのだから友人だろう、などと言って。
だが、卒業直前の今に至るまで1mmとて、距離は縮まらない。
そんな憧れのガーディアンにまとわり付く子供。
「何なの、あのガキ? ムカつくわ」
「誰か知ってる奴いるか?」
「分からん、見た事ねぇな」
「高位貴族っぽくはないなあ」
サヴァリアだけでなく取り巻きの令息も、セレンティア王女の正体に気が付いていなかった。
普段なら公子の周囲には、一門の令息達で固められており、近付くのも容易ではないが、この日に限ってガーディアンの側には子供と、その召使いのみ。逆にこれは、好機ではないか。昼食を取る二人の元に同席しようと試みる。
剣技会のために準備された仮設の休憩所は、野外の開かれた場所にあるため、席についてしまえば、こちらのものだ。
しかし……
「私がいつ、君達に同席を許可した? 迷惑極まりないな、すぐに席を外してくれ。それから、ローガイダー嬢、君に“ガーディ”などと、愛称を呼ぶ事を許した覚えはないし、今後も私の愛称や名前も口にする事は認めない」
それは、それは、こっ酷く拒絶された。
生徒達だけでなく、他の来場者もいる前で恥をかいたサヴァリアの怒りは、ガーディアン公子の側にいた少女に向けられた。
公子が午後の出演のためセレンティア王女と別れ、姫君も観覧席に移動しようとした時だ。
サヴァリアはセレンティア王女に食ってかかった。
「ガーディ様が優しいからって、勘違いするんじゃないわよ! 今年は学園最後の剣技会なのよ、アンタなんかに構ってる暇なんて、ないんだからね。本当は迷惑してるの。ああ、何、その顔? アタシ、サバサバしてるから、ガーディ様が困ってるのを黙ってらんないのよね。分かったら、図々しく居座らないで、さっさと帰りなさいよ!」
侍女の静止を振り切り、サヴァリアは思うままに言葉を姫君にぶつけた。
背後では取り巻きの令息達はニヤついた顔で「あんまり言うと、また泣かせるぞー」などと揶揄している。
すると、セレンティアは前に進み出ると答えた。
「本日の事は、前々からお約束しており、ご迷惑でない事は確認済みです。ガーディアン様は難しい場合は、正直に仰る方ですから、貴方の考えは的外れでしょう。残念ながら、わたくしは、初対面の貴女よりも、幼少の頃より親交のあるガーディアン様の言葉を信じておりますので、ご意見は受け入れられません」
理路整然と反論されたサヴァリアは激しく逆上し、セレンティアに掴みかかる……
寸前で、複数の騎士科の生徒達に取り押さえられた。
ガーディアンが家門の令息に命じて、セレンティアを護衛させていたのだ。また、それ以外にも、休憩所のやり取りを目撃していた騎士科の生徒が、何かあれば動けるようにと自発的に警護していた。
こうしてセレンティア王女に怪我は無く、無事に剣技会は幕を閉じた。
だが、不敬罪は未遂であろうとなかろうと適用される。もちろん発言もだ。例え、王族がその身分を隠していたとしても関係はない。
ローガイダーの疑問に対しダンは答える。
「セレンティア殿下は己の認識の甘さもあったと、自身の戒めのために不問とすると仰っているが、実際は学園やガーディアン公子への配慮だろう。だが、この一件は国王王妃両陛下、並びに王太子殿下をはじめとした王族も神殿関係者も共有している」
「ならば、何故、サヴァリアは処罰されなかった?」
「ローガイダー卿、貴方のこれまでの功績を慮っての事だ」
ローガイダーはローテーブルに書類を置くと、額を手で押さえる。
不敬罪、我が娘が不敬罪など。
「だが、不問とされているが許された訳ではない。王家がサヴァリア嬢を騎士として……いや、たとえ下働きとしてでも受け入れる事はないだろう」
ダンの言葉を聞いて、気付いた。
これ以上、騒げば、この一件は公にせざるを得ない。そうなればサヴァリアは……
***
その後、ローガイダーは爵位を返上し、王都から娘を連れて故郷に帰る事にした。領地は所有していなかったため、手続きは滞りなく終わる。しかし。
「アタシは絶対に騎士になる!」
何物にも折られない強靭な精神は遺憾なく発揮され、親心子知らずな娘は、父親の制止を振り切り家を飛び出した。
サヴァリアは家出の後、ある美形の男と行動を共にしていたが、男が様々な系統の美女や美少女の同行者を増やした事に不満を持ち、痴情のもつれによるトラブルを連発。その集団はすぐに分裂し、サヴァリアの消息も分からなくなった。
妖怪:鯖女
特徴:アタシ、サバサバしてるからと言いながらデリカシーのない言動を繰り返す。同性の友達はおらず、雄と行動を共にして隙あらば喰らう。
鰤女とは、一見、似てないようで、根本的な性質は近しい。鰤女も同性の友達はおらず、隙あらば雄を喰らう。
鯖女や鰤女に魅入られた雄は大抵、社会的に死ぬ。
それは、実の父親であろうと同様である。
鯖女と鰤女を同じ空間に入れた実験の記録があれば、ご紹介頂きたい。
【ご紹介】
鯖女と鰤女を題材に検証結果を執筆してくださった作品をご紹介致します。実験結果が気になる方は、是非ご覧下さい。なるほど!といった結末が待っていますよ。
作者:紡里 様
ブリ女とサバ女に婚約者を取られた侯爵令嬢へ「その男、返品してはいかがですか?」と助言した結果
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