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救いはない

作者: 黒田挙響
掲載日:2026/01/18

ある日――魔王が現れた。

その姿は凶悪かつ邪悪で、その強さは手を焼くほどの強大で、それは、国民、生物、全ての命を脅かす存在だった。


「勇敢たる諸君らに告ぐ――魔王を対峙し、再び世界の平和を取り戻してくれ」


王様の声が私達に掛けられた。

この日――我が軍隊が世界の希望となったのだ。


この世界に勇者はいない―――違う。我々が、我々こそが勇者なのだ。


天災の日。


「騎士長、なぜこんな日が祝日なのですか、今日は魔王が現れた日なんですよ、なんでそんな日がめでたい扱いなんですか」

廊下で女は怪訝そうに苦い顔をして騎士長に詰め寄った。

「知るかよ俺に言われても……。王様が決めたんだし、俺に聞いたって意味ないだろ」

「いえ、決めたのは騎士長と神官様と王様の三人ですよね、どうして我々軍まで祝日に合わせて鍛錬を休まなければいけないのですか」

「おほん、いいかね……騎士長と分かっているならば、その態度はいかがなものかと思うぞ」

「えっ、じゃあ……」

女は廊下で立ち止まり姿勢を正し始めた。それを見るや騎士長は瞬時に走り始めた。

「――ということで、お前もしっかり休むんだぞバイバーイ」

「……あーもう」

彼女の名はマクア、魔王が現れたことをきっかけに国のために戦うことを決意した騎士である。正義感が強く、皆に優しく、なにより――勇気を持っている。

もうそろそろ、あと三ヶ月で魔王を対峙しに行くってのに……。みんな緊張感なんてちっともなくて挙げ句、騎士長までも緩いんだもん。

魔王という恐ろしい存在がいるにも関わらず誰もが平凡と生活している光景に彼女は不安を抱えていた。

これから先――命の保証がないというのにどうしてみんな焦らないの?

そうだ、騎士長がダメなら次は王様よ、王様なら頼めばきっと軍隊くらい……。私はそう考えると廊下を真っ直ぐ進み、突き当りの右にある王室に向かった。王室前には大きな扉がそびえ立っている、私はそれを突き破るように思い切り押し出した。

「王様、どうして天災の日なんて作ったんですか。私は早くにも魔王が来るかもと焦っております、なのでせめて軍隊の祝日は取り下げてください」

王様は突然に話を振られたあまりに、目をパチパチと瞬きして固まっていた。王様は少し考えて理解すると安心できる笑顔で大きな白いひげを動かした。

「なるほど……君の言う通り確かにこんな日を祝日にするのはおかしな話である。でもその日は、君も知っての通り私が皆の衆に演説した日でもある。あの日こそ全ての国民が心を一致団結した日だとは思わないかい。私は思うよ、だからそれを記念にして祝日にしたのじゃ」

「でも軍隊に休みなど……」

「フフフ、そう急を要する事態には決してなりはせぬよ。魔王は確かに恐ろしいが、敵は一人じゃ、魔族も手下もこれっぽっちも見つかっておらん。それに、軍が休める祝日自体もとからそこまで多くないではないか、一年にたった三回しかない祝日くらい大事に休みを取り、次の鍛錬に準備すべきじゃ」

「……はい……分かりました。先程のご無礼失礼しました」

「フフフ、頑張るのじゃぞ」

マクアはしっかりとお辞儀をして、入ったときとは真逆の静かな動きで扉を閉じた。

私は焦りすぎたのか……。今までの自身の過剰な焦りが段々と恥ずかしくなってきて顔は赤面し始めた。

――うん、確かにそうかもしれない、祝日なのはたったの三日だけじゃないか。そうよ、そうならば私も休息に移ろう。


天聖の日。


この日は人々が聖剣に祈りを捧げる日だ。太陽が一番高く昇るお昼時――国民は町の中心にある聖剣に一斉に祈りを捧げ始めた。

「ずっと昔からこの国は聖剣に守られてきました。私達はこのことを感謝を込めて祈らなばなりませぬ」

神官様は聖剣の前に立ち、祈る国民に向けて言い放った。

「人類皆平和を祈ろう人類皆愛を分かち合おうではないか」

神官様はそれを太陽に向けて言い放ち涙を流した。大きく腕を広げて太陽の真っ白い光を全身に浴びたその姿はまるで人間とは言えない、まるで神のようなお姿だった。その姿に私含め国民は一斉に拍手を送り、神官様のご退場まで空間に響き渡っていた。

毎年行われる天聖の日――いつもは何気ない日常に感謝を祈っていたが、今年は違う。私はこの日、無事に誰もが死なずに魔王を倒し平和を迎えることを祈った。

祈りを終えて国民が一斉に祝日を楽しむ頃、未だマクアは聖剣に向かって祈りをやめなかった。その姿を見た神官様は微笑んでマクアに話しかけた。

「今日も無事に終えることが出来て本当に良かったよ」

「――神官様、本日もありがとうございました」

「いえいえ、私の仕事なんてこんなものしかありませんから」

「そんな……皆さんの悩みをいつも聞いてあげてるじゃないですか」

「それくらいしか、私に出来ることはありませんからね……。そうだ、大分祈っていたので気になってね、なにか悩みとかあったら聞くよ」

「ありがとうございます。でも私悩みなんてありません、いつも精一杯頑張ってるので」

「それじゃあ、あんなに祈るのは別に……?」

「はい、実は私――騎士をやっていて、それでみんなの無事を祈っていました」

「そうでしたか、騎士様でしたか。それはそれは――」

「様なんてやめてくださいよ、神官様の方が十分に」

「いえ、そんなことはありませぬ、役職はあくまでも仕事であってそれで立場を作るなどおかしな話なのです」

「あっ……すみませんでした」

マクアがお辞儀をすると神官様は優しく微笑んで肩に手を置いた。

「いえいえ……気にしないで下さい。そうだ、私もご一緒して無事を祈ってもよろしいですか」

「……ぜひっ」

マクアと神官様は二人して聖剣に祈りを捧げた。太陽の光は二人を照らして白く輝かせる。その姿は聖剣にも負けず美しい程だった。マクアは目を開けて横を見ると、未だに深い祈りをしている神官様がいた。

なんて慈悲深いお方だ……。マクアは到底自分には持ち合わせない清い心に尊敬してしまった。

「さあ、あまり外にいると体が冷えてしまう。今日はゆっくりしなさい……」

「―――はい、ありがうわぁ」

神官様に感謝を伝える手前、石に躓いてしまい前に傾いた。しかし、このままでは神官様にぶつかってしまうと思い、マクアはあえて横に倒れて転んだ。

「おやおや大丈夫かい」

「あっはいっ」

「気をつけるのだよ……」

神官様は心配そうな顔をしていた。やはり神官様は偉大な人だ。

私は横の聖剣の刺さった岩を掴んで立とうとしたとき、神官様は慌てて私の体を持ち上げた。

「ああ危ない、聖剣はね強力な力を持っているの、触ると危険だから気をつけなさい」

「ああっはいスミマセンでした」

私の馬鹿――神官様に迷惑になるな、もう。神官様が聖剣と共に私の帰る姿を見届ける間、私は赤面して冷えるどころか熱くなっていた。


次の日の早朝、私は町を走っていた。

日課の鍛錬だ。残り一ヶ月もない魔王討伐までにできるだけ強くならねばならない。そうして今日も残りのランニングをいつも通り終えようとしていた。

「はあ、はあ……今日も終わり……」

スタートとゴールは丁度町の中心、そこから八の字に走ると丁度五十キロのコースになるのだ。

そういえば、昨日は天聖の日だったな……。私は聖剣の前に立ち、姿勢を整えた。

「今日は祈っておこうかな」

この時間は朝早く誰もいない、静かな空間は心を落ち着かせてくれて整えてくれる。

私はそっと両手を合わせて聖剣にゆっくりと頭を下げた。

「ふう……いつも私達を見守ってくださり、ありがうわぁ」

足が滑ってしまったのかつい、前に転んでしまい聖剣にぶつかってしまった。

私は支えの聖剣を掴んでゆっくりと体を起こして……ゆっくりと……聖剣を……聖剣を……。

「しまった……」

私は触ると危険と言われていた聖剣につい、しっかりと触ってしまった。

えっ……うそ……死んじゃうの?

…………。

マクアの体にも聖剣にも何の変化もなかった。


天軍の日。


いよいよ魔王討伐の前日になった。

この日は軍隊が初めて結成された日だ。今も残る城の傷跡は当時敵軍から守り抜いた勲章であり名誉である。それを記念した祝日、しかし、今年の騎士にとってこの日は最後かもしれない家族と過ごす悲しい日でもあった。

「いよいよ行くんだね……」

「――うん」

「母さんも父さんも行方不明になって、次はマクアまでいなくなると……家が広く感じるわ」

「お婆ちゃんごめん……けど」

「大丈夫と――決めた道……やもんね」

お婆ちゃんは覚悟を決めたのか、私の言葉を止めて優しい笑顔で答えた。

でも、違うよ――お婆ちゃん。私は絶対に生きて帰るから……。

「そうだ、マクアに渡すもんがあるからちょいと待ちな」

お婆ちゃんはそう言うと自分の部屋に戻っていった。

戦いを目の前にして心は落ち着かない。明日死ぬかもしれないという日に家族と気を置かずに話すことなんて出来やしない。

「あった、ほらっ、マクアこれお守り」

お婆ちゃんは紅い真珠の付いたネックレスを渡した。

「なにこれ、いくらしたの」

「大したことないって、ほんの数百銀貨よ……」

「数百って……」

「別に宝石目的じゃないのよ、実はこれね魔石なのよ」

「魔石……そんなのがあるの」

「そうなのよ、この国じゃ流行ってないけど外国の商人が売ってくれてね」

「いや、それダメだから犯罪だから……。まあ、見なかったことにするけど」

この国では外国との売買を禁止していた。とうとうお婆ちゃんも出るとこまでいったなと思って呆れてしまったが、私を思って買ったのだから、怒るに怒りきれなかった。

「この魔石はね、血を入れた人の状態が分かるのよ、もしも何かがあったら分かるように……」

「へぇー……すごいじゃん」

「婆ちゃんは入れたよ。次、婆ちゃんの魔石のにマクアの血を入れてくれないかい」

そういうと、お婆ちゃんはもう一つ同じネックレスを取り出して私に近づけた。私は親指を噛んで魔石に向けて血を垂らす。すると――魔石は小さく光りだしてやがて光が消えだした。

「あっ、もうこんな時間、夕ご飯の用意しなきゃ」

「私も手伝うよ」

お婆ちゃんは台所に歩いて料理の支度を始める。続いて私も台所に向かった。


討伐開始。


「えーとじゃあ……。第一派突入」

騎士長のやる気のない人声に第一軍が魔王城へと進軍した。魔王との戦い方はこうだった、魔王の強大な力の前に誰も勝てる相手はいない、全軍で挑めば全滅するのは間違いない。そのため、合計六つの軍に分かれて六時間おきに徐々に追い込む作戦だ。つまりは――六つの軍のうち、五つの軍は全滅覚悟で挑むのだ。支援も救援ない覚悟の進軍だ。そして私は、その一軍を任された。

「よし、みんな行くぞ」

一軍団長の掛け声のもと、私含む一軍たちは馬に乗って走り出した。


魔王城はここから一山越えた先にある。

私達は今、国から一二時間進んだ場所にある休憩所にいる。休憩所といっても嘗て天軍の日に襲った敵軍が殺し回った村の残骸のことで、崩壊した建物と焼け跡を除いて何もない。薪を起こして今日の晩を越えようとしていた。


「今頃二軍がこちらへ向かっている頃だろうな。いや、日が暮れてるし、もっと手前の跡地だろうな」

「しかし、六時間置きとは、結構間が空きすぎてませんか」

「騎士長いわくな、魔王は何十キロって距離を焼け野原にするほどの恐ろしい魔法を使うんだってよ」

「ほへぇー……すげぇなそりゃ」

団長と軍の一人が魔王について会話をしていた。私自身魔王のことをよく分かっていなかった。自身が怠らずに鍛錬を頑張れば、ある程度戦えるものかと思っていた。しかし、その強さを聞き、どうにかできる相手ではないと改めて思い知らされた。

「では、やはり戦うのは弓なのでしょうか」

「……いや、剣で戦う」

「剣……でもさっき、たしかに何十キロを焼け野原にすると聞こえて……」

「実はね、魔王城ってやつぁ、結界が張られているみたいでよ、飛び道具が弾かれちまうんだ。『戦いたいなら正々堂々だー』ってか?とにかく剣でしか戦えないのよ」

おのれ魔王め、なんて恐ろしい―――。私は魔王の強さを思い知らされる一方、そんな相手が逆にこちらに進行してくることを考えると恐ろしく、必ず倒さねばならないと覚悟した。

「それにうちの国はーほらっ、聖剣祀ってるでしょ、聖剣伝説を考えたらまあ、剣でしょって」

「そんなのおとぎ話ですよ、嘘ですよ嘘――」

「言うなよそれは、こういうの信じると士気上がるだろ……」

そうして今夜は幕を下ろした。


魔王城前。


「なんじゃあ、あれー」

軍の一人が山を駆け、誰よりも先に魔王城を見て目を見張った。まるで、酔っ払いが永遠滝のような嘔吐している姿に驚くような、それと気持ち悪さを同時に見る顔だった。

「ほれっ……ほれっ、見てみろこれ、ありゃやばいだろーが」

その声に私は駆け上がり山を越えて直ぐ様魔王城を見ようとした。その魔王城と言うものが一体どんなものか、どれほどに悍ましいのか、私は唾を飲み込んで緊張しながらも……。


紫色だった――……。


魔王城は一見何の変哲もない城であるのに、その周囲には湯気のように立ち昇る禍々しい、邪悪な紫色の何かがあった。


「あちゃー、ありゃマジもんだな」

「どうするんですか、もう入るんですか」

「そうするしかないだろ……」

団長も軍の人たちもそれを見た途端に冷や汗と苦笑いを起こした。今まで命など惜しくもないと言わんばかりに強気だった者共もまるで、友だちの家だと思って扉を叩くも実は知らない家で他人が出てきて驚くように脚を一歩引いていた。それ程に魔王と人間では差が大きすぎていて例えるなら、赤子と大熊の群れが戦うようなものだった。

「お前らー、恐れるなよ俺達はもう死んだも同然……覚悟決めろよ」

団長は息を呑み覚悟を決めて言い放った。私達も続いて覚悟を決めなければならない。勿論、誰もがそうできることではなく何人かは未だ後ろへと下がり続けていた。

「……まあいいか、弱虫は俺の次に来い、お前らが来るまでは死なないでおいてやる……。よーし、他っ、決めれたなら!行くぞー」

そうして、団長の声に続いて私達は魔王城に乗り込んだ。山を全速力で下って止まらず魔王城へと近づいた。


「こいつが……魔王なのか」

魔王城で団長が見たのは……魔王……いや……人間だった。

「どういう……あっああ……」

その時、みんなして魔王城に入った人は悲鳴を上げ始めた。

みんな、なんで―――あっ……あああ――。頭に何かがよぎる……。

そうだ、私も思い出した。我が国は――この国は――もう死んでいたんだ。

「きたか……君たち、もう出られないよ」

軍の何人かは魔王城に出ようとしたが出られなかった。閉じ込められたのだ。

「どうして……」

「お前らも知ってるだろ、ハメられたんだよ」

「思い出した――でもどうして……」

男の正体は勇者だった。それも去年に敵国を倒しに出発したはずの……。

なのに、私はどうして忘れていたのだ……。

「王様――いや、魔王の仕業だよ……」


ある日、この城には魔王と二体の魔族がいた。三体は強大な力を持っていて人類には到底歯が立つものではなかった。三体はある村、ある町――一つの国を滅ぼした。

今は世に知れ渡っていないが、支配を目論む三体はいずれ人類を全滅させようと考えた。

だが、一つの国を滅ぼした時――魔王は思った。

もしも全人類を終わらせてしまえば……奴隷も、上手い食料も、便利な物も、無くなってしまうと……。

幸いにも他の国々は魔王の存在をまだ知らない。そこで魔王は策を考えた……。


それは――洗脳である。


滅ぼした国の生き残りを魔法で洗脳して長い時を掛けて繁殖と文化を植え付けたのだ。

洗脳の効果は絶大で、破壊した城の跡は敵軍から守り抜いた証として、聖剣の持つ洗脳を解く浄化の力は進行と恐れを持たせることで触らせないように、人間以上の食欲は人を喰らい行方不明にすることで隠蔽した。

しかし、これだけではやはり物足りなくなった魔王は次に、大きな支配を行う為に、つまりは金のために計画を立てた。その計画はでっち上げの敵国を作ることだった――。

魔王は反抗的な国という嘘の存在を糧に金を得ようとしたのだ。まずは、敵国の存在を自国に洗脳の形で課題評価と吹聴を繰り返して餌巻きを行った。それに食いついた国々が栄誉を手に入れるために魔王城に向かい、それを魔王達が全滅させる、すると国々は協力という形で集まりだして倒そとする。そこで自国が登場して、もともと国に残っていた聖剣伝説を道具に出資させてもらう形で金を得た。しかし、これだけでは終わらなかった。敵国に挑む勇者として数人向かわせた後、一人を残して殺害し、今度はその勇者を魔王に仕立てあげて、新たにまた餌巻きを初めたのだ……。

「そんなことが……」

「ああ、あの魔王……閉じ込められたのをいいことに教えてくれたぜ」

私は絶望した――忠誠を誓ったはずの王様達が実は魔王で我々の国はもうとうに死んでいたことに――。

それは苦痛で吐き気を起こした。


数時間後――。

「……みんな落ち着いたか?」

軍のみんなは正気に戻っていた。つらい現実ではあるが皆受け止めたのだ。

「そういえば、勇者さんってこんな場所に閉じ込められてどうやって生きてるのでしょうか、それと洗脳も……私達も洗脳が解けましたが、別に解く必要ないと思いません?」

「ああ……ここの閉じ込める魔法は特性上、洗脳や時間による変化を止めるらしいぜ……」

「そうでしたか……。私達はこれからどうなるのでしょう」

「さあな、魔王次第だろうな」

「なあ、みんな……」

団長の声に一斉に皆が振り向いた、その顔は不思議そうな顔をしていて入口を見ていた。

「後から来るやつはどこいった?」

そのとき――私のネックレスの魔石が割れ始めた。

「うん、いいね、餌がいっぱいだ。教えるよ、ちょうどね、洗脳が終わった頃なんだ、だから出発した軍をあらかた食べに行ってたんだ」

入口に突如として騎士長、いや、魔族が現れた――。

「最近人を食えてないからね、神官様や王様も何人か食ってる頃だろうね、私がここに来たのは軍の片付けと魔王城の餌を見に来たんだ」

その魔族はよだれを垂らしてまるで食べ物を見るかのように、舐め回すように城内を見渡した。

「うん、この量なら一人は食えそうだね」

そのとき、私に向かってニタニタとした笑顔を見せてきた。

「ずっと男ばっかだし、今度は女をいただこう」

私は恐怖で体が震えた、今目の前にいるのはもともと倒そうと目指していた魔族だ。

けれど、その存在は城の瘴気よりも圧倒的なほどに殺意と魔力を放って、あまりにも人間の相手に出来るものではなかった。

「いただきまーす」

魔族は瞬時に私を掴んで食べようとした。その時だった……。

「うがああああぁぁああ」

魔族の掴んだ腕が、噛もうとした顎が溶け始めたのだ。

「なにこれ………」

「そうか、お前、まさか聖剣に触れたな」

勇者は驚いた表情で私に問いかけてきた。

「ちょっと前に触れました……でも、私別に洗脳なんて解かれてないし――」

「そうか、お前、剣を背負って祈ったな、聖剣伝説ではその場合、その聖なる力はお前じゃなく剣に宿ったんだ。いざという時――いや、このために!」

聖剣伝説は嘘ではなかった。そのことに少し戸惑ったが今はいい。

聖剣は私に希望を与えてくださった―――それだけで分かればいい。

「しかし、聖剣如きが私の体を溶かす力なんぞ」

魔族は恐怖と怒りを聖剣に向かって吐き出した。

「いーや、あるんだよこれが、お前らが毎年祈らせたお陰でな」

「このー!!」

魔族は私に向かってその大きな手を振りかざそうとした。私はすかさず剣を抜いて魔族を切り裂いた。

魔族は浄化され、溶けて無くなった。

「私、行くよ」

「なあ、俺も言っていいか」

彼女が口にすると、俺も、私も、僕も、と軍が勇者が皆口を揃えて立ち上がりだした。

するとマクアの剣がいや、聖剣は強く輝き出した。そして周囲に立ち昇る魔力は一気に浄化を始めた。


彼女の名はマクア、魔王が現れたことをきっかけに国のために戦うことを決意した騎士である。正義感が強く、皆に優しく、なにより――勇気を持っている。


「勇敢たる諸君らに告ぐ――魔王とその仲間を対峙し、再び世界の平和を取り戻してくれ」

王様は再び国を洗脳し、武装させて国民を向かわせて来るだろう。

この国には救いはない、でも彼女がいる。


「私がみんなを救う――救ってみせる!」


今、彼女達は国を救うべく馬に乗りだし、故郷へ向かった。

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