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末娘のボディーガードですが、お嬢様は思ったより大人  作者: DxAsis


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3/4

Mission.3

 クローゼットの扉が勢いよく開かれた。


「さあソフィ、着替えるわよ! たくさんあるから見ていって」


 お嬢様は腕まくりをし、中に手を突っ込む。

 ぽい。

 ぽい。

 取り出されるのは、柔らかそうな布地の服や、色違いの寝巻。


「こんなに種類があるとは……」

「気に入ったのがあったら言って! あっ、これなんかどう? 私のお気に入りなの」


 そう言って、彼女はひらひらした布を掲げた。

 レース。フリル。どう見ても軽やかすぎるし……。


「それはさすがにやめてください」

「えー? 絶対似合うのに」

「戦闘においてメリットがありません」

「戦闘? ソフィったら~、私はアナタと寝るだけよ?」


 お嬢様は意味深にニヤニヤと言葉に裏を作ったてきた。

 これには私も呆れた声を抑えきれなかった。


「何を言っているのか分かりません。私はただ襲撃への備えの話をしているだけです」

「ふふっ、冗談よ!」


 無垢な笑顔を見せてから、お嬢様は別の服を引っ張り出した。


「これはどう?」


 差し出されたのは、淡い色合いのパジャマ。

 軽そうなキャミソールで、肌触りも良さそうだ。

 私は受け取ってみる。

 サイズもあって、戦闘においても問題なさそうだ。

 しかし……。


「なんだか透けていますが……」

「こういうものなのよ」


 きっと、本当にこういうものなのだろう。お嬢様の声にも、気配にも、悪意は感じられない。

 それでも、胸の奥に残る違和感は、簡単には消えてくれなかった。


「……色んな服があるのですね。そういうものを知る機会がなかった私には、判断がつきません」


 私がそう言うと、お嬢様は困った風にしゅんとした。慈悲の笑みを残したまま。


「じゃあ、その服アナタにあげちゃうわ」

「受け取れません! ……どうやら余計な話をしてしまったみたいです」

「余計なんかじゃないわ」


 跳ぶように一歩前に出て、お嬢様は私の手をつかみ取った。


「余計なんかじゃない。私はソフィの事がもっと知りたいの。少しでも離してくれると、すっごく嬉しくなるの」


 温かい手だ。このまま抱き締めたら、どれだけあたたかいだろうか。

 お嬢様の心に嘘偽りは存在しない。

 とても純粋な人だ。

 でも、だからこそだ。

 その優しさに付け入る人間(ヒト)をしっている。

 私の役目は、それを護ることだ。

 鎧を纏っていなければいけない。

 強い女でなければいけない。


「もう寝ましょう。これ以上、お嬢様の睡眠時間を奪えません」


 私は腕時計に目を向ける。

 針は――Ⅺ時Ⅶを指している。


「本来なら寝ている時間……。眠たくはないのですか?」

「スマホいじってるから!」


 てへっとスマホを見せつけた。どこか誇らしげなのがまた引っかかる。

 私は彼女と6歳離れしている。私は彼女の親ではないが、さすがに黙っていられなかった。


「いけません。ちゃんと寝てください」

「ええ~」

「睡眠不足は健康に悪いです。ホルモンバランスも崩れますし、判断力も落ちます。結果として、あらゆる面で支障が出ます」


 私が並べた理屈が次々とお嬢様に刺さっていったのか、彼女はうっと怯んだ。


「分かりましたら、その身を休ませてください」

「……これから私と一緒に寝てくれる?」

「お嬢様……それはさすがに――」

「そしたらちゃんと時間通りに寝るから!」


 私は、難しい立場に立たされてしまい、言葉に詰まった。

 胸の前で手を組み、目を潤ませるお嬢様は、心からお願いしている。


「直すため、ソフィの力を貸してほしいの」

「……考えさせてください」

「やった!」

「まだ何も言っていません」

「ふふふ!」

「笑いの理由が分かりません」

「いつか分かるわ! さ、寝ましょ!」


 私は本気で首を傾げた。

 考えると言っただけだ。

 承諾した覚えは、まだない。

 だが、お嬢様は違うのだろう。

 私が「考える」と口にした時点で、その答えがもう決まっていることを知っている。

 ――それを、このときの私は理解していない。

 だから、彼女がこぼした小さな笑いの意味も、分からないまま目をつむった。

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