Mission.2
ルミエール家の三女にして末娘のアリシアお嬢様。
彼女のボディーガードとして、私はこの家に雇われた。
近頃、この家を狙う者達の動きが活発している。
何故こんな事になっているのか、彼女自身と私の身分上、詳細は私達の身に下りてこない。
まあ、理由が何であろうと関係ない。
私は、お嬢様を護るのみだ。
ガチャっと背後に置くドアが開いた。
「ソフィ? 部屋の前で何してるの?」
「護衛です」
「え?」
短くそう告げると、お嬢様は目を丸くした。
そして、彼女は右、左と視線を巡らせた。
私達の左右には、氷紋のような反射を見せる黒曜石の床が広がっている。
月明かりを浴びて、通路はどこまでも長い。
「幽霊でも襲ってくるの?」
お嬢様のその言葉は、怯えから出たものではなかった。
この静まり返った廊下に、敵らしき姿は見えない。気配もしない。
それをあえて茶化すように口にしたのだ。
「それはどうでしょう。仮に幽霊が出てくるのだとしたら、あいにくと私の専門外です」
私は即座に返す。
「ソフィ!」
お嬢様が声を張る。
軽くあしらわれたことへの不満と、それでも守られているという安心が、ない交ぜになった声だった。
「もう! ここにいたらダメ! 中へ入って。あったかいから」
「それはできません。あなたのボディーガードとしての役目……そして、お嬢様の部屋への入室は許可されて――あっ!」
言い終えるところで、腕を掴まれ、部屋へ引き込まれた。
闇に慣れていた目が部屋の灯りで焼けそうになる。
「部屋の見張りをするなら、部屋の中でして」
「ですが、あなたをお守りすることが私の役目」
「だからって、アナタを暗くて冷たい場所にはおいていけないわ。絶対に許さない。これは命令よ!」
――命令。
その言葉を使われるのは、毎回、私を守る時だけだ。
それを今、ふと思い出す。
ずるい言葉だ。反論のしようがなくなる。
それでも私は負けまいと、彼女の前で何か方法を考えた。
しかし、こちらを見つめる緑色の瞳は真っすぐで強く。
折れる以外の選択はないと、突きつけられていた。
「分かりました。ここであなたをお守りします」
すぐに状況へ適応するため、私は周囲を見回した。
まず目に入るのは、部屋の奥に据えられた大きなベッド。
白を基調とした天蓋付きで、柔らかな布が垂れ、寝具は一切の乱れもない。
戦場とは程遠い、安らぎだけを許された場所だ。
壁際には大きな窓があり、厚手のカーテンは月明かりの侵入を拒絶している。
天井から下がる照明は柔らかく、目に優しい光を放っていた。
「窓際に構えてもよろしいでしょうか? お嬢様の睡眠の邪魔はしないよう最善はつくしますので」
「あら、何言ってるのかしら! そこで立って見張れなんて、本当に私が許すと思う?」
「……?」
「服を脱いで、ソフィ」
「……またご冗談を」
「冗談なわけけないでしょ。着替えるのよ、パジャマにね!」
いやいやいや、それは絶対にダメだ。
色々と問題がありすぎる。
「お嬢様……それはできません」
「むむっ!」
「不都合が大きすぎる故、任務にさしつかえかねません」
戸惑いはあったが、言葉は揺らがせなかった。
それでも、お嬢様の緑色の瞳は、真っすぐで、強い。
その瞬間、私は彼女が喉の奥に留めている言葉を見抜いてしまった
「これは命令……だと言うのですね」
「理解がはやーい! さすがプロね!」
皮肉にしか聞こえないのだが?
やれやれ。お嬢様は寝癖が悪いと聞く。
本当に大丈夫なのだろうか……。




