Mission.1
「お姫様、お怪我はありませんか?」
壊れ物に触れるみたいに、そっと彼女の手を取った。私の大事なプリンセスだ。
逆に彼女が私を力強く抱き締める。桃色の髪から果実の香りがした。
「ソフィったらかっこいい! アクション映画のワンシーン間近で観ている気分だったわ!」
お嬢様のはしゃぎ様に思わず私は頭を抱えた。
「……もっと危機感を持ってください、お嬢様。あなたの命が狙われているのですよ?」
「でも、アナタが護ってくれるでしょ? だったら大丈夫よ!」
「そういう話じゃ――!」
「あっ、そういえばこの辺に新しいアイス屋さんがあるの! いきましょ!」
ぐいっと腕を引っ張られた私は、呆れつつも抵抗せず彼女についていく。
私達を襲ってきた黒服の連中は公園に放置していく。清掃員には余計な仕事を押しつけてしまうことだろう。悪く思う。
命を狙われて、つい先ほど武装した集団に襲われたというのが噓みたいな笑顔で、お嬢様は街角のお店でアイスクリームを買った。
「はい、ソフィのアイスよ!」
「お受け取りできません。まだ敵が近くに潜んでいる可能性がある以上、警戒を怠ることはできない」
私は的確に返して、周囲を睨みつけた。
「いいから、受け取って!」
「っ! お嬢様!」
「美味しいから食べて。せめて一口」
無理やり押し付けられたら、手に取るしかない。
集中を戻すためにも、受け取った以上は食べるべきだろう。
雪山のように白く、冷たそうなアイスクリームの尖端に舌を滑らせた。
アイスクリームなんかに興味はない。味にも期待していない。
けれど、舌に広がった甘さに、張り詰めていた注意が溶かされた。
「どう? おいしい?」
「……ああ、おいしい」
「初めてアイスクリーム食べような顔」
お嬢様はくすくすと嬉しそうに私を見て笑った。
初めじゃない。
ただ。
そうだな……。
「長い間、食べなかった」
そう。
アイスクリームとは、味覚があることに感謝すら覚える味をしている。忘れていた。
子供の頃の記憶が過ると、不意に肩の力が抜ける。
警戒を解いてはいけない。つねに周囲に警戒しつつ、お嬢様を守り抜かねばならない。
それなのに。
目の前にあるお嬢様の笑顔と、口を満たす甘さに、世界が眩しく見えて。
視界から、彼女以外のすべてが消えていく。




