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血塗られた大楽刀自  作者: 西季幽司
第四章「殺人鬼の正体」
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殺人鬼の正体②

「全く、大した執念ですね」

「一連の事件の発端は、この浮浪者の殺人でした。そして、工場からシアン化カリウムを持ち出したことを管理者である柏木さんに気づかれ、慌てて、柏木さんを殺害しました」

 シアン化カリウムを保管してある金庫の鍵は、柏木と社長の夫、信次郎の二人が持っており、金庫の暗証番号も二人だけしか知らないはずだった。だが、当時、経理の手伝いに来ていた慶子は、信次郎が『暗証番号何だっけ?』と柏木に尋ねている現場に、居合わせたことがあった。信次郎はよく金庫の暗証番号を忘れて、柏木に尋ねていた。慶子は金庫の鍵の保管場所を知っており、暗証番号を知っていた。微量のシアン化カリウムを盗み出して、浮浪者を殺害することが出来た。

 ほんの僅かな量だったが、シアン化カリウムの管理を任されている柏木は日々、計量を行っていた。そして、シアン化カリウムが減っていることに気がついた。シアン化カリウムを持ち出せるのは、自分と社長の信次郎しかいない。信次郎に尋ねても、『知らない。単なる思い過ごしだろう』としか答えない。

「ひょっとしてと、柏木さんは慶子を疑った。ある日、事務所で慶子と二人切りになった柏木さんは、慶子を問い詰めました。無論、慶子は、『私は知りません』と白を切りました。

 事務所は工場の二階にあったそうです。一階は工場スペースになっており、事務所を出ると、アルミ製の長い階段が壁に設けられていました。

 慶子を疑ったことを詫びた柏木さんは事務所を出ました。柏木さんに続いて事務所を出ると、階段の踊り場で、柏木さんが靴の紐を結びなおしていました。慶子は、その背中を見た途端、考えるより先に体が動きました」

 河村慶子は階段から柏木を突き落とした。階段から転げ落ちた柏木は、まだ息があったが、周囲に人気がないことを確認した慶子は、工場からシアン化カリウムを持ち出し、柏木も毒殺した。

 長い話になった。圭亮が一息ついて、冷たくなったコーヒーに口をつけた。

「河村慶子は柏木さんの死体を車で運んで、何処かに埋めたのですか?」

「はい。柏木さんの遺体は浮浪者と同じように、自動車で埼玉県の山中に運び、埋めたと言うことです。河村の自供に従って、埼玉県警が山中を掘り起こしたところ、白骨遺体が昨晩、発見されたそうです。遺体の検死が行われていますが、柏木さんのものと見て、間違いないでしょう。間もなくニュースとして流されます」

 残念だ。今日が放送日なら、他局に先駆けて遺体発見のニュースを流すことができたかもしれない。西脇は唇を噛みながら、「恐るべき殺人鬼ですね・・・」と呻いた。

 西脇の脳裏には、もがき苦しみ死んでゆく被害者の表情を恍惚として顔で見つめている慶子の姿が浮かんだ。

 圭亮が話を続ける。「慶子はシアン化カリウムで人を毒殺することに異様な快楽を覚えました。柏木さんを毒殺した時点で、シアン化カリウムを使って人を毒殺する快感から逃れられなくなってしまった。抑えが効かなくなった訳です。殺人鬼の血が目覚めてしまった。そして、西口さんの事件です」

 圭亮の話は豊島区で起きた西口周作の殺人事件へと移って行った。「柏木さんの殺害から暫くの間、慶子は大人しくしていました。ある夜、工場の納税申告に手間取ってしまい、夜中に車で帰宅している途中に、公園で酔って寝ている男性を見つけました。幸い、辺りに人気はありませんでした。河村慶子は介抱を装い、男性を車に乗せると、日頃から目をつけていた空き家に連れ込みました」

 西口周作は居酒屋で同僚と酒を酌み交わした後、居酒屋を出たところで同僚と別れた。地下鉄に乗ろうと駅に向かったが、駅に向かう途中、公園のベンチで眠り込んでしまった。

 格好の獲物だった。

「泥酔状態で前後不覚の状態だった西口さんは、慶子に言われるがままに行動しました。慶子は西口さんを廃屋に連れ込むと、台所の椅子に座らせ、手足をロープで縛りました。そして、西口さんにシアン化カリウムを無理矢理飲ませて、苦しみながら死んでゆくのを見守りました」

「西口さんの事件から、河村慶子は若干、手口を変えていますね。それまでは毒殺した死体を山中に埋めていました。ところが、西口さんの遺体は空き家に置きっぱなしでした」

「はい。流石に女性の身で、大の男の死体を山に埋めに行くのは重労働だったようです。時間もかかります。夫に疑われては、元も子もありません。そこで、犯人が男であると見せかけるために、夫のために買った運動靴を履いて、犯行現場に足跡を残しておくことにしたのです。毎度、使用した運動靴は犯行後に燃やしたり埋めたりして、処分しています。大の男が椅子に縛り付けられ、現場に男物の運動靴の足跡があれば、誰も犯人は女だと思わないだろうと考えたようです」

「確かに今まで河村慶子は常に嫌疑の外にいたみたいですね」

「はし。但し、豊島区の事件では、死体が見つかったことから、死因がシアン化カリウムであると特定され、成分から河村鍍金鉱業所に疑いの目が向けられてしまいました。慶子は微妙な成分の違いから使用元を特定できるとは思っていなかったのでしょう。シアン化カリウムの管理責任者である柏木さんは殺害して、死体を処分してしまいましたので、犯人と疑われることはありませんでしたが、工場は信用を失い、倒産の憂き目に遭ってしまいました。工場の倒産は河村慶子にとっては想定外の出来事だったことでしょう」

「工場の倒産、夫の転職、そして山口への移動。生活の激変が、河村慶子の犯行を抑制していたのですね」

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