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血塗られた大楽刀自  作者: 西季幽司
第四章「殺人鬼の正体」
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殺人鬼の正体①

 山口から戻り、三日が経った。

 事件について動きは無かった。河村慶子が逮捕されたという情報は無かったが、生長や浅井たちが証拠を固める為に走り回っているであろうことは、容易に想像がついた。

 取材旅行で得た情報を、一刻でも早く公の電波に乗せたくて、西脇はうずうずしていた。大楽家の事件は、連続殺人鬼による凶行のひとつであったことを、番組で特番を組んで流す日を手ぐすねを引いて待っていた。

 だが、警察の許可なく、それをやってしまうと、折角の協力関係が崩れてしまう。特に圭亮は須磨との間に確固たる信頼関係を築いている。それを捨て去ることは、西脇始め、サクラ・テレビにとって、決して有益ではないはずだ。

 そろそろ動きがある頃では――と期待していたところに、圭亮から電話があった。

「たった今、須磨さんが尋ねて来て、話を聞くことができました」と圭亮が言う。

「事件のこと、話してくれたのですね?」

「はい」

 律儀な須磨は事件解決の目途が立つと、毎度、圭亮のマンションに足を運んで捜査状況を説明してくれる。テレビでコメンテーターを勤めている圭亮への事件解決に協力したことへの配慮だろうが、与える情報を管理することにより、テレビを通して世論を操作しようとしているふしがある。

 須磨と圭亮はギブ・アンド・テイクの関係にある。

「電話ではなく、直接、話が聞きたいですね」

「では、今からお伺いしましょう」

「お越し頂けますか。そろそろ週末の番組の事前打ち合わせをする頃ですし」

「了解です」と圭亮は電話を切った。

「サタデー・ホットライン」への出演が決まり、長い間勤めた商社を退社した時、圭亮は海外駐在で溜まっていた貯金で都内に事務所兼用の住居としてマンションを購入した。サクラ・テレビからほど近い場所にあり、地下鉄で三十分程度の距離だ。

 きっかり三十分後に圭亮がフロアに現れた。

「先生。こちらです」と西脇は長身の圭亮を引きずるようにして会議室に押し込んだ。

 早く捜査の結果を聞きたい。はやる気持ちを押さえつつ、先ずは圭亮に好物のコーヒーを振舞った。圭亮が来たら、コーヒーを出すように秘書に頼んでおいた。

「やあ~コーヒーですね」と相変わらず子供のように喜ぶ。

「さて、須磨さんから聞いた話を教えてください」

「はい。突然、須磨さんから電話があって、時間はありますか? と聞かれたので、ありますよ~って答えたら、では、一時間後にお邪魔しますって言うんです。須磨さんが一時間後って言うと、きっちり一時間後に姿を現します。コーヒーを淹れて、須磨さんの来訪を待っていました」と圭亮が長々と説明を始めた。

「はいはい。それで?」と話の先を促す。

「須磨さん、毎回、コーヒーは結構ですと決まり文句のように言んですけど、気を遣っているだけだと思います。決してコーヒーが嫌いな訳ではないみたいです。コーヒーを煎れてあげると、何時もきっちり飲み干していますので」

「単に気を使って飲み干しているだけなのでは? 先生。そろそろ事件のこと、教えてください」

「ああ、すみません。須磨さん、先日は山口まで足を運んで事件捜査にご協力頂き、ありがとうございました。お陰様で被疑者を逮捕することができました。事件の概要が明らかになりましたので、今日は、その報告にやって来ましたと言って、捜査結果を教えてくれました」

「だから、それを話して聞かせてください」

 西脇も焦れてきた。

「河村家を家宅捜索したところ、物置からクロスボウが発見されましたそうです。犯行後も捨てるのが惜しくて、取っておいたようです。また、河村慶子が持ち歩いていたバッグから、シアン化カリウムの入った瓶が見つかっています。この二つが証拠となって、河村慶子を逮捕することができたと言うことでした」

「それは良かった」

「はい。僕の推理が間違っていなくて、本当、ほっとしました」

 圭亮が一番、心配していたことだ。

「逮捕後、河村慶子は素直に事情聴取に応じているようです。河村慶子は殺人衝動を抑え切れなくなっていて、そのことを恐れていたのかもしれません。だから、逮捕されてほっとしているのでしょう」

「怖いな。動機なき殺人だったのですね」

 時系列を追って説明しましょう。先ず、埼玉県で発見された白骨遺体の事件からです」

「よろしくお願いします」

「河村慶子の自供によると、白骨遺体は彼女自身、名前も知らないような浮浪者だと言うことです。河村慶子は反社会性パーソナリティ障害を抱えたサイコキラーと言えます。心の中で、殺人衝動が徐々に膨らんで行き、ある日突然、それが爆発する。その時、選ばれた相手は縁もゆかりもない無関係の人物でした。ただ、彼女の殺人衝動を満足させる為だけに殺されたのです。

 河村慶子は近所の公園で一人、ポツンといた浮浪者を見つけました。彼を見て、ああ、この人を殺してみたいと強く思ったそうです。そして、工場からシアン化カリウムを盗み出すと、食べ物に混入して、浮浪者に与えました。彼が苦しんで死ぬのを傍らで眺めていたそうです。

 やがて、浮浪者が息絶えると、遺体を自動車のトランクに積み込み、埼玉県の山中に埋めたと言うのです。河村慶子は体格の良い女性でしたが、女性の細腕で浮浪者とは言え大の男を山の中に運んで埋めるのは大変だったことでしょうね・・・」

 圭亮は妙な感心をした。

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