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血塗られた大楽刀自  作者: 西季幽司
第四章「殺人鬼の正体」
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自供④

 山口県警を出るとすっかり陽は落ちていた。夜風に冷たさを感じた。

 何時ものことだが、推理を披露してしまうと厄介者に成り下がってしまう。圭亮たちは会議室に放っておかれた挙句、「申し訳ありませんが、今日は一旦、ホテルにお引き取り下さい」と浅井に追い出されてしまった。圭亮の推理だけで、河村慶子を逮捕できる訳がない。生長たちは証拠固めに走り回っているのだ。

 忙しい生長たちに代わって、埼玉県で発見された白骨遺体の身元について、失踪中の柏木の可能性があることを、圭亮から警視庁の須磨に連絡を入れておくことになった。

 圭亮たちはミニバンに乗り込むと菊本の運転でホテルを目指した。

 ミニバンの後部座席に腰を降ろすと、圭亮は須磨に電話をかけた。何時まで経っても須磨と会話をすることが苦手な圭亮だが、少しでも躊躇うと、ずるずると電話をかけることができなくなってしまう。考えるより早く、電話番号をダイヤルした。

「ああ、鬼牟田さん」須磨が直ぐに電話に出てくれた。

「今、よろしいでしょうか?」と前置きをしてから、圭亮は山口での捜査状況をかいつまんで説明した。そして、埼玉県で発見された白骨死体が柏木のものではないかという推理に至ったことを伝えた。

 須磨は山口県警から逐一、報告を受けているようで、呑み込みが早かった。

「ご心配ありがとうございます。埼玉県の白骨死体に関しては、死因がシアン化カリウムであり、豊島区の事件と関連性が出て来た時点で、豊島区の事件の容疑者であった柏木と身元照合を含めて関連性を探っています」

 白骨死体からDNAを抽出するのに時間を費やしてしまったが、既に柏木との照合結果が上がって来ていると言う。

「流石は須磨さん!」圭亮が感心するのを、「別に私が指示した訳ではありません」と軽く受け流してから、「結論から申し上げましょう。埼玉県の白骨遺体は柏木のものではありませんでした」と須磨は意外な返事をした。

「えっ!」と圭亮が驚く。

「鑑定をやり直した結果、白骨遺体は当初の見立てよりも若干古く、死後五~六年が経過していました。時期的に柏木が失踪する前に死亡しています。柏木の遺体ではありませんでした。但し、死因となったシアン化カリウムは成分分析を行ったところ、河村鍍金鉱業所で使用されていたものとみて間違いありません」

「白骨死体が柏木さんのものではなかったのですか・・・」圭亮が絶句する。

 自分の推理が間違っているのではないかと危惧しているのだ。

 そんな圭亮の心の内を見透かすかのように、「鬼牟田さん、そう悲観する必要はありません。白骨死体は柏木とは別の被害者かもしれません。工場のシアン化カリウムを盗み出して、その人物を殺害したことを柏木に悟られた。河村慶子は、柏木を毒殺し、その死体を処理してしまった。そうとも考えられます」と抑揚のない口調で自らの推理を披露した。

「ああ! なるほど・・・彼女は連続殺人鬼です。他に被害者がいても不思議ではない。柏木さんが最初の被害者ではなかったかもしれない訳ですね。やっぱり須磨さんだ」と圭亮が唸る。

 まだ圭亮の推理が的外れだったとは言えないようだ。

「山口県警は鬼牟田さんの推理のお陰で忙しくなったようです。鬼牟田さんには申し訳ありませんが、山口県警より、明日以降、捜査への同行は遠慮してもらいたいと要請を受けました」

 須磨が淡々と言った。

「分かりました。少しでも、皆さんのお役に立てたなら光栄です。明日は適当にこの辺を観光して東京に戻ります」

 人の好い圭亮は、事件さえ片付けば、それで良いとまるで気にしない。それより、自らの推理が外れていないか、もし外れていたら、生長たちに無駄足を踏ませることになってしまう――とそればかり気にしていた。

 圭亮が電話を終えると、西脇や藤代が圭亮の代わりに、「あんまりだ! 鬼牟田先生、少しは怒った方が良いですよ」と憤慨してくれた。

 無口な菊本でさえ、「ひどいなあ~」と腹立たしそうに呟いていた。

「まあいいじゃないですか。山口と言えば歴史の宝庫みたいなところです。時間があるなら萩に行ってみたいものです。松下村塾を訪れたのは、学生時代じゃなかったかなあ・・・下関まで足を伸ばせば、壇之浦もあるし、宮本武蔵と佐々木小次郎が対決した巌流島もありますよね~」と既に観光気分だった。

 圭亮が正気に戻ったと聞いて、「今から行きます! 待っていて下さい」と大楽直方が駆けつけて来ると言う。

 今晩は楽しい食事になりそうだ。

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