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血塗られた大楽刀自  作者: 西季幽司
第三章「美しき容疑者」
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謙道の系譜④

「先月、三月四日は塾にいらっしゃったと言うことですが、そのことを証明してくれる人はいますか?」

「先月の三月四日ですか?」

 河村は胸ポケットから手帳を取り出すと、三月の予定を確認した。

「はい。出張はなかったようですので、ここにいたと思います。ただ、運営部は外回りや会議が多いので、一日、塾にいたことを証明しろと言われましても・・・運営部の人間に聞いて回れば、誰か、私が塾にいたことを証言してくれる人間がいるかもしれません」

「大楽玲さんが殺害された日も塾にいらっしゃったとお聞きしていますが、この日は外出なされたのではありませんか?」

「ああ、あの日は・・・」と河村は考え込むと、「あの日、大楽裕君に外回りに行くように言ったような気がします」とぬけぬけと答えた。

 大楽裕は河村より「近隣の高校に夏季講習の生徒募集に行ってくれ」と言われて外出したと証言したのだが、河村が「そんなことを頼んだ覚えはない」と証言したことから、裕に疑いの目が向けられた経緯があった。

「それは貴方自身が否定されたのではなかったですか? 実際、近所の高校に確認してみましたが、大楽裕氏が夏季講習の生徒募集に来たという事実がないことが分かっています」

「そうですか。あの日、塾にいたことは間違いありません。探せば証人はいると思いますが、会議や外出で席を空けた時間もありますので、ずっと塾にいたことを証明してくれる人間はいないかもしれません」

「当日、社有車の出庫記録に河村さんの名前があったようなのですけどね」

「ああ、そうだったかな。じゃあ、外回りに出たのかもしれません。ああ、思い出した。近所の高校から大楽裕君が顔を出していないと聞いて、慌てて出かけたような気がします」

 証言が二転三転してあやふやだ。

 生長はじろりと河村を見ると、「靴のサイズはおいくつですか?」と尋ねた。

 河村は一瞬、不思議そうな顔をすると、「私、偏平足なものですから二十六か二十六・五センチの靴を履いています」と答えた。

 隣でメモを取っていた浅井が、「やった!」という顔をした。

 生長は軽く頷くと、「運動靴などは二十六・五センチを履いていたりしませんか?」と重ねて尋ねた。

「ええ。二十六センチだと靴擦れしてしまいますので、運動靴は二十六・五センチを買うようにしています」

「なるほど~なるほど」と生長が二度、頷いた。

 ついに現場に残されていた足型に一致する容疑者を見つけ出した。

「ところで河村さんは、趣味でクロスボウをやられたりしていませんか?」

 美祢市で殺害された田中陽介は背中にクロスボウの矢を受けた傷跡が残っていた。犯人はクロスボウの矢を射て、田中の行動の自由を奪い、最後はシアン化カリウムを用いて毒殺するという面倒な手順を踏んでいた。

「クロスボウですか? 高校時代は弓道部に所属していました。家内は弓道部の後輩でして、全国大会にも出たことがある腕前でしたけど、私はからっきしダメでした。若い頃に、クロスボウも多少たしなんだことがあります。でも、もう十年以上前の話です」

 河村はクロスボウの経験もあった。

「クロスボウは今でもお持ちですか?」

「さあ、家のどこかにしまってあるのかもしれませんが、最近は見た記憶がありません。家内がどこかになおしてしまったか、もう処分してしまったかもしれません。クロスボウがどうかしましたか?」

「いえ、何でもありません。お宅にクロスボウがあるかどうか確認して頂けませんか?」

 河村は「はあ。家内に聞いておきます」と不審気な表情で頷いた。

 動機の解明、アリバイ崩しなど、まだまだ捜査が必要だが、状況証拠は河村を犯人として指していた。

「さて、鬼牟田さん。他に、何か聞きになりたいことはありますか?」

 河村への質問が尽きたので、生長が圭亮に声をかける。「はい。あの、先ほど河村さんは奥様が大楽家と縁があるというようなお話をされていたと思いますが、どういったご縁なのでしょうか?」

 圭亮の問いかけに、河村は「ああ、その話・・・」と言って首をひねってから言葉を続けた。

「家内から二、三度、話を聞いたんですけど、すいません。よく覚えていなくて・・・家内のご先祖の『かみやま』何とかという人が、昔、昔、大楽塾でお世話になっていたそうです。そのご縁で、家内の実家と大楽家とはずっと付き合いがあると言っていました」

「大楽源太郎が故郷の防府に敬神堂という私塾を開いたのは、幕末から明治初期にかけてですから、昔、昔と言うのは、その頃のことでしょうか? それとも大楽源太郎没後に大楽家が山口に移って来て私塾を開いて後のことでしょうか?」

 圭亮は大楽家の歴史を一通り頭に入れていた。

「さあ、そこまでは私も詳しくありません。それも家内に聞いておきましょう」

「是非に――」と圭亮は身を乗り出した。

 圭亮以外の人間は歴史に興味が薄いとあって、興味が無さそうだった。「生長さん。他にはありません。河村さんの奥さんから、話を聞いてみたいものです」と圭亮が言うので、「河村さんは塾の敷地内にある職員用のアパートにお住まいですよね。河村さん、後で我々、ご自宅をお伺いして、直接、奥さんから話を聞いても良いですか? ご自宅にクロスボウがあるかどうかも確認しておきたいので。よろしいでしょうか?」と横から生長が河村に尋ねた。

「ええ、まあ。今日は、家内は家にいるはずですから、電話をしておきます」

 河村は不承不承と言った感じで頷いた。

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