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血塗られた大楽刀自  作者: 西季幽司
プロローグ
5/19

ジュリエットの死⑤

 香美は屋敷を出ると、アパートに向かった。

 通学路に出るには塾の敷地を回って正門から表通りに出るのが正規のルートなのだが、塾内にある職員用のアパートを抜けて通りに出た方が近い。アパートと大楽家はレンガ造りの壁で仕切られているが、暗証番号式のドアがついていた。通用門だ。大楽家側からはドアノブを回すだけでアパートに抜けられるが、アパートから暗証番号を知らないとドアが開かない仕組みになっている。

 アパートに出ると真一がいた。香美を待っていたようだ。香美の姿を見つけると、喜色を浮かべて子犬のように駆け寄ってきた。

(いやだ)と香美は思った。

 真一と一緒に学校に行けば、「香美ちゃん、あんな子と仲良しなんだ」と友達に陰口を言われてしまう。暗い顔でニコリともしない真一は、学校で浮いた存在だった。気味悪がって、誰も近づこうとせずに、いつも孤立していた。

「別に仲良しなんかじゃないわ。家が近所なだけよ」毎回、そう友達に言い訳しなければならかった。

 正直、鬱陶しかった。だが、香美以外、友だちのいない真一を見捨ててしまうのは、かわいそうな気がした。

「おはよう」香美が声をかけると、真一は明るい口調で、「うん、おはよう。今日は良い天気だね」と饒舌に返事をした。

 その屈託のない笑顔を見ていると、(人の気も知らないで――)と悪意が湧いてしまった。

「最近、大丈夫みたいね?」釘を刺すように言うと、真一がびくりと体を震わせた。

 真一が晴れ晴れとした顔をしているのは、母親からの虐待がこのところ無いからだ。そのことは、容易に想像がついた。真一の馴れ馴れしい態度を少し懲らしめてやりたくて、母親の虐待を匂わせたが、効果はてきめんだった。

 真一は「うん」と返事をするのが精いっぱいだった。真一の顔が曇ったのを見た香美は、それで満足した。足を速めてずんずん歩き始めた。

 真一が転がるように、香美を追いかけてきた。

 足早に歩き去る香美とそれを必死で追いかける真一。二人の様子をアパートの窓からじっと監視する目があったことに、二人は気が付いていなかった。

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