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血塗られた大楽刀自  作者: 西季幽司
第三章「美しき容疑者」
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悲しい過去②

「商社時代の同期から、ある人物を紹介されたのです」と圭亮が言う。

「ある人物?」

 西脇は足元に置いてある段ボールに足を乗せながら、椅子にふんぞり返るようにして圭亮からの電話に答えた。圭亮からの電話は長い。今日も長くなりそうだ。

「大楽直方さんと言います」

「大楽? すると、あの――」

「はい。大楽家の関係者です。僕に頼みたいことがあるらしい。悪いな。うちの顧客なんだ。話だけでも聞いてあげてくれないか。話を聞いて、嫌なら断ってくれて良い。むこうさんがそう言っていると同期に頼まれ、話を聞きました。

 同期入社なのですが、とにかく頭の良いやつで、出世頭です。ある日突然、やって来ては難題を解決して帰って行くというイメージがあって、僕も世話になったことが、一度や二度ではありません。彼に頼まれては、嫌と断れないのです」とくどくど同期の説明をした。

「へえ~それで」と西脇は面倒臭そうに相槌を打った。

 本題まで、まだ暫くかかりそうだ。

 一時間ほどして、大楽直方から電話があった。「はじめまして。大楽直方と申します。山口で小さな会社を経営しています。今回、突然で申し訳ありませんが、こうして鬼牟田先生にお電話をさせて頂きました。本来であれば、直接、ご挨拶に出向かなければならないところですが、山口におりますもので、電話にて失礼いたします」と丁寧に挨拶され、恐縮したと言う。

 しっかりとした人物のようだ。

「で、その大楽直方という人は、大楽家とどんなつながりがあるのですか?」

「現塾長、大楽孝毅さんの甥っ子だそうです。先代塾長、大楽治毅さんの弟、直毅さんの長男が直方さんです」

「ははあ~」と西脇は言ったが、頭に入っていない。要は大楽家の人間だということは理解できた。

 大楽直方は山口で会社を経営しているということで、大楽家を出ているようだった。その直方が「実家で不幸がありまして、それも、殺人事件です。鬼牟田先生なら、ご存じかと思います」と切り出した。

「ああ、大楽塾の事件ですね。大楽家は大楽源太郎の御子孫なのでしょう?」と歴史オタクの圭亮が尋ねると、「おや。大楽源太郎をご存じですか」と直方が感心した。

「確か・・・禁門の変に参加した志士で、維新後は私塾を開いて、そこから総理大臣が出ているんじゃなかったでしたっけ?」

「よくご存じですね。『敬神堂』という私塾を開いて、そこから総理大臣を務めた寺内正毅が出ています。そうそう。殺された孝毅の奥さんも、大村益次郎の子孫を称する家の出です」

「大村益次郎ですか~! 流石は山口ですね。維新の大物の名前が、まるで近所の叔父さんのことのように、バンバン出てきますね~」

「はは」と直方は笑って聞き流すと、「実家で殺人事件が起きてしまい、学習塾ですから、親御さんが怖がって、生徒が減っているようです。私は家業とは距離を置いていますが、父や弟は塾で働いています。塾のことは、他人事ではありません。気をもんでいたところに、良い人がいると紹介されたのが鬼牟田先生でした。テレビで拝見して、鬼牟田先生の卓見には何時も感心させられていました。鬼牟田先生、実家の危機を救って頂けないでしょうか?」と用件を切り出した。

「私なんか、足手まといになるだけです」

「ご謙遜を。それに、鬼牟田先生のことを、父に話したら、『直ぐに連絡を取って、山口に来てもらえ』と煩いのです。親父のことです。鬼牟田先生がテレビのコメンテーターだと知って、災い転じて福となす――で、塾の宣伝になるのなら、何でも利用したいのだと思います。この殺人事件でさえ、塾の名前が売れるのなら、それで良いと考えているような人ですから」

「商魂たくましいですね~」

「山口に来て頂けるのでしたら、失礼ですが、謝礼も含めて、私の方で全て面倒を見させて頂きます。是非、お願いします」

「はは。謝礼はともかく・・・」

 西脇に相談してみる価値はありそうだと思い、西脇に電話を掛けて来たのだ。

 豊島区と山口県の美祢市で起こった殺人事件と大楽塾の殺人事件との間に関連性が見られるという話を兼重から聞いたばかりだ。

「山口まで取材に行ってみましょう」と言う西脇に、返事を保留したままになっていた。

 山口県は歴史の宝庫だ。現金なもので、維新の志士に連なる一族の悲劇となると途端に興味が湧いて来た。

「先生。やっとその気になってくれましたね。兼重先生の頼みを断るつもりなのかと思っていました」と西脇は受話器に向かって大声で言った。

「べ、別に、兼重先生は我々に山口に取材に行ってくれとは頼んでいなかったと思いますよ」

「我々に相談があった以上、誠意を以て、それに応えるべきではありませんか? 山口に取材に行くくらいの覚悟と誠意は見せる必要があるでしょう」

「はあ・・・そう言われてしまうと、返す言葉がありません。返す返す、申し訳ありません。色々、とっかえすっかえしていましたもので――はは」

「とっかえひっかえでしょう? 先生、余裕がありますね」

「そんな・・・」

「取材旅行、OKですよね」

「はあ。覚悟と誠意を、せいいっぱい見せたいと思います」

「ああ、そうだ。取材に行くとなると、須磨さんに連絡をお願いしますよ」

 西脇の言葉に、「ああっ!須磨さん。そうでした!」と圭亮は悲鳴を上げた。

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