表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血塗られた大楽刀自  作者: 西季幽司
第二章「名家と名探偵」
41/50

猫に宝石②

「あの女を恨んでいたと言っても、過去の話だ。最近は、別に何とも思ってなんかいなかった。大体、あの男が今更、妹と結婚など、するはずがない。妹のことなど、ほったらかしで、塾の若い講師に入れあげているそうだ」

 孝毅が野口綾子に入れあげていることは、公然の秘密になっているようだ。

 真衣が子供を妊娠したと分かった時、藤田は孝毅のもとに談判に乗り込もうとした。だが、真衣から「兄さんが乗り出して来ると、話がこじれてしまう。私たちのことを考えてくれるなら、余計なことはしないで!」とヒステリックに怒鳴られてしまった。

「ろくでもない奴だと思ったけどね。ちゃんと真衣と子供の生活が成り立つようにしてくれている。生活費も毎月、きちんと振り込んでくれているそうだ。最近は、真衣が良ければ、それで良いと思っている」

 藤田は諦めに似た表情を浮かべた。

 藤田にも真衣と孝毅の仲が終わっていることは分かっているようだ。見捨てることなく、生活の面倒を見てくれているだけで満足しているらしかった。

「真衣も真衣だがな・・・」と顔をしかめる。

 大楽家からの援助に頼って、働こうとしない真衣に苦々しさを感じているようだった。

「それにね――」と藤田が話を続けた。「甥の孝敏を、大楽家が引き取ってくれることになったそうだ。あの女の子供は、女の実家が引き取るんだろうな。実家はデカい病院だろう? 金持ちなので、不自由はしないだろう。孝敏はね。大楽家に行って、将来、大楽塾を継ぐんだ。どうだ、悪い話じゃないだろう?」

 藤田は嬉しそうに言った。

「妹さんの息子さんが、大楽家の跡取りになるというのですか⁉」

 これには驚いた。大楽家が藤田孝敏を引き取ると言う話は、捜査本部が掴んでいない情報だった。

「そうだ。うちの孝敏の方が、あの女の子供より出来が良かったということだ」と藤田はご機嫌な様子で言った。

 最後に田中陽介のことを尋ねてみたが、「知らないね」と一言で片づけられてしまった。

 藤田からの事情聴取を終えると、確認の為に林家に向かった。

「バッテリーがもうダメなんだろうな」

 林家の主人は、人の良さそうな笑顔を浮かべながら、四月十三日の朝に藤田から車を借りて夫人を町まで乗せて行ったことを証言した。

 田中陽介についても、「知りません」という答えだった。

「藤田真衣の子供が、大楽家の跡取りになるなんて、意外でしたね」

 県警へ戻る車の中で浅井が言った。

「ああ、確かに。だが、考えてみろ。大楽怜が生きていれば、そんなことにはならなかったんじゃないかな。となると――」

「藤田兄妹には大楽怜殺害の動機があることになりますね」

「そうだ。二人にとって大楽怜はやはり邪魔者だったはずだ」

「でも、アリバイがあります。それが厄介ですね」

「厄介だ。厄介だが、鉄壁のアリバイっていうほどじゃない。隣家の人間が車を借りに来た時に家にいたというだけだ。妹にしても、近所の公園で子供と遊んでいたというアリバイしかない。何処かに穴があるのかもしれない」

「チョウさん。ハンドルを握りながら、考え込むのは止めていただけますか?」

「ああ、悪い。県警に戻ってから、考えてみよう」

 軽く頭を振ると、生長はハンドルを握り直した。


 大楽玲と美祢市の事件、ふたつの事件に共通してアリバイの無い人間が第一容疑者と言えるはずだ。大楽玲の事件については、アリバイ聴取を終えていたが、美祢の事件について、大楽塾の関係者のアリバイを調べる必要があった。

 生長と浅井は大楽塾に向かった。

 大楽裕が塾にいた。先ずは裕から話を聞くことにした。会議室に来てもらって話を聞いた。

「一カ月前?そんなの覚えていないよ――」

 アリバイを尋ねられた裕は泣き言を言った。

「大事なことです。思い出して下さい。でないと、あなたを逮捕しなければならなくなりますよ」と脅され、裕は懸命に記憶をまさぐった。

 そして、「この日だったか、翌日だったかはっきりしないけど、前の晩に飲み過ぎて、朝起きたら二日酔いで気分が悪かった。それで一日、休みを取った日だったと思う。ママに確認してくれよ」と証言した。

 生長と浅井が大楽塾に確認したところ、裕の証言通り、田中陽介殺害事件当日に塾を休んでいたことが確認できた。後日、別の捜査員が母親と家政婦の長沼から、大楽裕が一日、家にいたことを確認している。だが、身内の証言だ。信憑性に乏しかった。

 大楽裕はアリバイが無いに等しかった。

 大楽裕からの事情聴取を終えた生長と浅井は、塾長の孝毅に面会を申し込んだ。暫く待たされた後、秘書の女性から、「塾長は今、お忙しいのでご用件だけお伺いしておきます」と面会を断られてしまった。

 何時も暇にしている孝毅が仕事で忙しいはずがない。

 結局、秘書を通して確認したところ、孝毅は三月四日の前々日、二日から広島に開校した予備校の視察に出かけていることが分かった。事件当日、美祢市はおろか山口県内にいなかったのだ。

「あの塾長のことですから、視察にかこつけて広島で遊んでいたのかもしれませんね」

 浅井は孝毅の広島での行動を確認するために、秘書から広島校の担当者の連絡先を聞き出した。そして、広島校の担当者に電話を入れて確認を取ったところ、孝毅は確かに広島に来ていたと証言した。

 三日に開校式があり、孝毅は開校式に出席していた。昼食を広島校の講師や職員と一緒に取り、翌、四日の夕方には、塾主宰のパーティに主賓として出席していた。無理をすれば往復できない距離ではなかったが、広島と美祢を往復して田中陽介を殺害したと考えることは難しそうだった。

 大体、大楽孝毅に田中陽介を殺害する動機がない。接点がまるで無いのだ。

「塾長はみなと食事をしたり、パーティに出たりして、精力的に活動をされていました」広島校の担当者は孝毅を弁護するように言った。

 孝毅が精力的に活動していたとは思えないが、ずっと広島にいたことは間違いなさそうだっ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ