鬼牟田圭亮②
勝算が立ったところで、圭亮に電話をした。
肝心の圭亮に断られては、元も子もない。テレビ出演で顔が売れたものだから、国際経済に関する講演の依頼や雑誌へのコラムの執筆などの仕事が次々と舞い込んできているようだ。番組で探偵だと持ち上げられたお陰で、圭亮のことを私立探偵か何かだと勘違いした者も多かったようで、浮気調査から尋ね人の捜索依頼まであるということだった。
無論、そういった依頼は丁寧に断っている。
「ああ、西脇さん。今週の打ち合わせは明日ですよね。どうしました?」と何時も通り、圭亮の呑気な声が聞こえてきた。
「実は、兼重先生から相談がありまして――」と言うと、「兼重准教授!」と圭亮が悲鳴を上げた。朴念仁の圭亮でも、美人の兼重に興味があるようだ。
「そうですよ。兼重先生から、是非、鬼牟田先生のご意見をお伺いしたいと言われています」
「そ、それは光栄です」
「会いに行きますか。直接、話を聞きたいでしょう?」
「いいえ。そんな。西脇さん、意地悪しないで、教えてください」
「ああ、はい」と西脇は兼重から聞いた話を圭亮に説明した。
三年前に豊島区の廃屋で男性の遺体が発見された。被害者の名前は西口周作、豊島区内の設計会社に勤務していたサラリーマンだった。仕事を終え、職場の同僚と飲みに行き、居酒屋を出たところで同僚と別れて、その後、行方が分からなくなった。
失踪から二週間後、廃屋となっていた民家で、西口の遺体が発見された。廃屋の居間で、椅子に縛られ、殺害されていた。
「椅子に縛られて殺されていたのですか⁉」圭亮が驚く。
「はい。死因は毒殺でした」
西口は行方不明になった当日に殺害されていた。遺体が見つかった廃屋の持ち主である小林家と被害者の間に交友関係はなく、警察では西口は同僚と別れた後で拉致され、見も知らぬ家に連れ込まれて殺害されたと見ていた。
「兼重先生がこの事件に注目したのは、殺害にシアン化カリウムが使用されたこと、そして、犯行現場に二十六・五センチの運動靴の靴跡が残されていたことでした」
「二十六・五センチの運動靴の靴跡ですか⁉」
「今から一月ほど前に、山口県の美祢市で起きた殺人事件でも、二十六・五センチの運動靴の靴跡が見つかっています」
被害者の名前は田中陽介、美祢市で農業を営んでいた。昼食後、『トマト畑に行く』と言って家を出たきり戻って来なかった。
付近の住人が捜索を行ったところ、トマト畑からほど近い山林で、遺体を発見した。ナイロン・ロープで両手両足を縛られ、背中にはクロスボウで射られたと見られる傷跡があった。
「今度はクロスボウですか⁉」
「はい。ですが、検死の結果、背中の傷は死因ではなく、死因はシアン化カリウムによる中毒死によるものだったようです。犯人は二種類の凶器を用いて田中さんを殺害した訳です」
「またシアン化カリウムによる毒殺ですか――」
「田中さんの殺害現場はトマト畑だと思われ、そこから、犯人のものと思われる靴跡が見つかっています。市販の運動靴でサイズは二十六・五センチでした」
「何と! 二十六・五センチですか‼ 二つの事件が繋がりましたね」
「それに、今回、大楽家で起きた殺人事件でも、犯行現場から二十六・五センチのサイズの運動靴の靴跡が見つかったと兼重先生から聞きました」
「東京と山口の事件が繋がったみたいですね」
「まだ分かりませんが、三件の殺人事件には、共通点があるような気がします。埼玉県で発見された白骨遺体からもシアン化カリウムが発見されたようです。兼重先生はその事件も係わりがあるのではないかと睨んでいるようです」
「兼重先生でなければ気がつかないことかもしれませんね。素晴らしい着眼点です。関連性があると兼重先生が睨んでいるのなら、事件は繋がっているのでしょう」
圭亮が直ぐに賛同する。
「恐ろしい殺人鬼が東京と山口を股にかけ、警察の捜査の網を掻い潜りながら、犯行を繰り返していることになりますね」
「恐ろしいことです」
「ああ、それに先生・・・実は・・・いえ、あの・・・もう良いです」
「何ですか? 言いかけて止められては気になります」
「すみません。実は、また夢を見たのです」と言って、西脇は山口の事件の被害者らしき夢と今朝、見たばかりの大楽家の被害者の夢らしきものの内容を圭亮に伝えた。
圭亮は「へえ~」、「それは」と相槌を打ちながら、西脇の話に耳を傾けた。圭亮は常に、真摯に人の話を聞く。馬鹿げた話だと思いながらも、西脇は熱を込めて夢の話をした。
話が終わると、「西脇さんはイタコの末裔ですからね~きっと死者からのメッセージなのですよ」と何時もの台詞を言った。
「そうですかね」
「西脇さんの夢で分かったことがありますよ」
「何でしょう?」
「大楽家の奥さんは刺殺だと報道されていましたが、毒殺の可能性がある訳ですね」
「ああ~そうか。ひょっとして・・・」
「シアン化カリウム――そう思いますね」
「やっぱり」
「それにもうひとつ」
「まだあるのですか?」
「夢の中で被害者は、『あなた、誰?』と言っていたのでしょう」
「はい。そう言っていました」
「と言うことは、犯人は被害者が、よく知らない人物だということになります。知り合いであったとしても、顔もうろ覚えの人物なのでしょう」
「ああ~なるほど」
夢の話なのだが、圭亮の推理に大仰に頷いてしまった。




