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血塗られた大楽刀自  作者: 西季幽司
第一章「容疑者はロミオ」
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嫌われ者のジュリエット②

「副塾長親子は被害者を恨んでいた訳ですね。ところで、塾長夫婦は別居状態だったと聞きました。何があったのでしょうか?」

「ああ、よくある話です。原因は塾長の浮気です。それもね。相手はうちの事務員です。子供まで出来ちゃったもんだから、大騒ぎになりました」

 そう言って河村はべらべらと藤田真衣のことを話し出した。

 孝毅と真衣が不倫関係となり、孝敏という子供までいること。現在は、その関係は冷え切っており、孝毅はマンションで独身生活を満喫していることなど、包み隠さず話して聞かせた。

 長い話を終えて、河村は「ふう~」と息を吐いた。

 何故、河村が大楽家の醜聞を教えてくれるのか分からなかったが、「貴重なお話、誠にありがとうございました」と生長は丁寧に礼を述べた。

 河村は満足した様子で、「これでよろしかったでしょうか? あまり席を開けると目立ちますので、そろそろ失礼させて頂きます」と外の様子を伺いながら言った。

「ええ。ありがとうございました。ところで、大楽裕さんから話を聞いてみたいのですが、今、いらっしゃいますか?」

「ああ、おりますよ。呼んできましょうか?」

 河村は裕の上司に当たる。今は、職場にいるはずだという。

「そうして頂ければ助かります。この会議室、暫く使わせて頂きますよ」

「分かりました」と言って、河村は会議室を出て行った。


 大楽裕がやってきた。

 被害者、大楽玲の夫、孝毅の従弟だ。副塾長である直毅の次男で、大楽一族の一人だ。今時の若者らしく、左右、不揃いの長さの前髪を茶色に染めてある。細身で小柄、目が小さくて、鼻が長く、瓜のような顔立ちなのだが、孝毅同様、口が大きい。大楽一族の特徴なのかもしれない。

 小心者なのだろう。落ち着きなく、きょろきょろと辺りを見回している。目の前に座る生長たちと目を合わせようとしない。刑事に会議室に呼ばれて、生きた心地がしないのだ。

「大楽・・・裕さん。大楽玲さんの事件に関して、いくつかお聞きしたいことがあります」生長が口火を切ると、「刑事さん。僕は何も知りません。何もやっていませんよ」とすかさず答えた。

「先ずは事件当日のアリバイからお聞きします。あの日、あなた、何処で何をしていましたか?」

「あ、あの日ですか・・・あの日は・・・そうだ。いつも通りに出社した後、河村さんから夏期講習の生徒を募集して来てくれと言われて、近所の高校に営業に行きました」

 少子化で生徒が減ってきている。まだ夏休みには早かったが、塾は夏期講習の生徒を確保するのに懸命だった。早めに宣伝を打っておかないと、いざ開講してみると予定の生徒数を確保できなかったという結果になりかねない。生徒数が予定人数を割り込んでしまうと、講義が赤字になってしまう。

「そうですか。後程、河村さんに確認してもよろしいですか?」

「ええ。構いません」

「ところで、大楽裕さん。あなた、被害者である大楽玲さんとトラブルになっていたそうですね?」

「トラブル?」裕の顔色が変わった。

「おや、心当たりがありませんか? 被害者は夫の孝毅さんと別居状態にありました。ご存じですよね? 彼女が実家に戻っていたのを良いことに、屋敷の寝室に女性を連れ込んだそうじゃないですか。女性と痴態を繰り広げていたところを被害者に見つかり、大騒ぎになったとお聞きしました。そのことで、ひどく被害者を恨んでいた。違いますか?」

「ち、違いますよ! いや、違わないけど、確かに、恨んでいたけど、あの女を殺したのは僕じゃない!」裕は泣き出しそうだった。

「被害者は『あたなをクビにしろ!』と塾長である夫に迫っていた。そのことを逆恨みしていたのではありませんか?」

「ま、待ってくれ。待って下さい。僕を犯人に仕立て上げる気だな。え、冤罪だ~!」ついに、裕が叫び始めた。

「まあ、大楽さん。落ち着いて下さい」

 これでは事情聴取にならない。生長は裕が落ち着くのを待った。裕が落ち着くまでの間、「アリバイを河村さんに確認して来ましょう」と浅井が会議室を出た。

 運営部を訪ねると、河村が席にいた。

「すみません。もうひとつ確認させてください」と言うと、「刑事さん。職場に来てもらっては、困ります」と小声で言われた。

「事件当日の大楽裕さんのアリバイを確認したいのですけど」と言うと、「ああ。大楽君のスケジュールを確認したいのですね」と周囲に聞こえるように大声で言ってから、パソコンで部下たちのスケジュールを確認した。

「職場にいたはずですね」

「大楽さんは、あなたに頼まれて、近所の高校へ夏期講習の生徒募集に言ったと証言していますけど」

「えっ⁉ 私が? それは変だ。彼は外出させると直ぐにサボるので、なるべく外回りの仕事はさせていません。あの日は、気がついたら彼の姿が席になくて、戻ってきたのは昼過ぎだったと思います。何処で何をしていたのか分かりません」

「そうですか。ありがとうございます」

 会議室に戻って、「河村さんに確認しましたが、大楽さん、あなた職場にいたそうですね。気がついたら、姿が見えなくなっていたと言っていましたよ」と裕に言うと、「ば、馬鹿な! 僕は河村さんに言われて外回りに出たんだ! 罠だ‼ これは罠だ。僕を罪に陥れようとしているんだ~!」とまた、喚き始めた。

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