表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血塗られた大楽刀自  作者: 西季幽司
第一章「容疑者はロミオ」
30/37

モンタギュー家の家宝④

「はい。何度もすいません。事件の日のことについて、もう一度、教えて頂けませんか?」

「分かりました。あの日は・・・午後から講義がありましたので、午後から出勤予定だったのですが、塾長から『ちょっと話をしたいことがある』と言われ、塾に顔を出しました。十時頃だったと思います」

 玲の死亡推定時刻は午前八時から十時の間だ。綾子は市内の自宅マンションを出て、塾に向かっている途中だ。

「そうですか。そういうことはよくあるのでしょうか? いきなり呼び出されるような――」

 生長の質問に綾子は「ええ、まあ――」と曖昧に答えた。

「どういったお話をされたのでしょうか? 差支えなければお聞かせ頂けませんか」

「最近の講義の様子だとか、何か不便なことはないかといったことを聞かれました」

「大楽さんは、そういったお話をよく講師の方とされるのでしょうか?」

「いいえ、そういうお話は、あまり聞いたことがございません」と綾子は正直に答えた。

「では、野口先生だけ、特別と言うことでしょうか?」

「それは私には分かりません。ただ・・・」綾子が言い難そうに言葉を切った。

「ただ――何でしょう?」生長が食い下がる。

「いえ。先代の塾長さんが、私をこちらの塾に呼んで下さいました。先代の塾長さんと母は、高校時代の同級生で、幼馴染みでした。そのこともあって、先代の塾長さんには母共々、随分、目をかけて頂きました。今の塾長さんも、お父様に倣って、私のことを気にかけて下さっているのだと思います」

 どうだろう。単に、下心があるからにしか思えない。

「お母様と大楽塾の先代塾長が、高校の同級生だったのですね?」

「はい。そうです。ご存じの通り、私の家は色々ございましたので、先代の塾長さんに、色々、お世話になったようです」

「色々・・・」綾子の言う「ご存じの通り――」の意味が生長には分からなかった。今度は浅井が生長の横腹を突っつく番だった。

 事前に耳に入れておけば良かった。後で何があったのか、生長に教えなければならない。

 綾子は明るくほほ笑むと、「そろそろ、講義の準備がございます。よろしいでしょうか?」と言った。

 生長と浅井は追い立てられるようして部屋を出た。

「大楽孝毅は野口綾子に夢中のようだな。彼女の話だと、母親と大楽塾の先代塾長が高校の同級生だったようだ。一応、確認しておいてくれ。ところで彼女が言っていた『色々あった』って、何のことだ?」

 早速、尋ねて来た。

「やっぱりチョウさん、知らなかったのですか?」

「何をだ?」

 浅井は得意そうに、「チョウさんは野口綾子のことを知らなかったのですから、無理はないですね。野口綾子の父親は東京で人を殺めて逮捕され、服役中に亡くなっています」と答えた。

「人を殺したのか?」

「駅のホームで喧嘩となって、相手を線路に突き落としたようです。相手は列車に跳ねられて亡くなっています」

「へえ、そんなこと、よく知っているな」

「野口綾子の黒歴史として、知る人ぞ知る事件です。まあ、地元の警察官として、知っていて当然の事件ですけどね」

「悪かったな。知らなくて――」

 生長の言葉に浅井は「えへへ」と笑った。

 地元の著名人で、類まれなる美貌の持ち主、野口綾子だ。若い警察官の間で、有名な事件だった。

 野口綾子の部屋を追い出された生長と浅井は、孝毅が口走った直毅と玲との間のいざこざについての情報を求めて、塾の関係者を聞き込んで回った。だが、副塾長を巡るスキャンダルとあって関係者の口は重かった。

「さあ、知りません」、「そうですね。揉め事があったと言う噂は聞いたことがありますが、詳しくは知りません」と言った当たり障りのない答えがばかりを聞かされていたのだが、「刑事さん、ちょっといいですか?」と一人の男が近づいて来て、「ちょっと、こちらへ」と二人を会議室へ連れ込んだ。

 河村信次郎(かわむらしんじろう)と言う運営部の係長だった。

 長身で色黒、縁なし眼鏡をかけており、神経質そうな性格に見えた。河村はただでさえか細い声を潜めながら、「刑事さん。副塾長と大楽刀自との揉め事をお知りになりたいようですね」と言った。

「何かご存じなら教えて頂けませんか?」

「二人の揉め事の原因は塾長室にあった額縁です」

「額縁ですか?」

「ええ。額縁と言っても、ただの額縁ではありません。中に飾られていたのは高杉晋作の真筆だったのです」

「高杉晋作ですか⁉」

 浅井も当然、郷土の英雄である高杉晋作くらい知っている。

 幕末の討幕戦に於いて彗星の如く現れた革命児だ。奇兵隊を組織し、長州藩を滅亡の危機から救い、若くして病に倒れた。幕末の英傑の中で、知名度も人気も抜群の高杉晋作の真筆が額縁に入れられ飾られていたと言うのだ。

「ええ。高杉晋作と大楽家とは浅からぬ関係にあります」

 大楽家が始祖として崇める大楽源太郎と高杉晋作の関係について、河村が小声で長々と解説してくれたのだが、声が小さい上に話があちこち飛んで非常に分かり難かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ