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血塗られた大楽刀自  作者: 西季幽司
第一章「容疑者はロミオ」
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モンタギュー家の家宝③

 塾の運営部で確認したところ、大楽直樹は不在だった。今日は外出で終日、不在だということだった。

 総務部に塾長秘書がいると聞き、事件当日の大楽孝毅のアリバイを尋ねた。

 玲の死亡推定時刻は午前八時から十時の間だ。孝毅は朝八時半に塾に出勤してから、ずっと塾長室にいたという。十時前に、野口綾子が塾長室を尋ねて、孝毅と一緒にいたことが分かっているのだが、八時半から綾子が塾長室に呼ばれるまで、孝毅が塾長室にいたことを証言してくれる人間がいなかった。

 塾長秘書は、朝、コーヒーを運んだ時に、孝毅から「資料を整理するので、会議には出ないし、しばらく電話も取り次がないでくれ」と言われ、会議への出席依頼は断ったし、電話も取り次がなかったと証言した。

 塾長秘書によれば、「資料の整理をする」と言って塾長室に籠ることがよくあるということだった。体よく仕事をサボっていただけなのだろう。

 塾長室を訪ねた者はなく、犯行時刻に孝毅が塾長室にいたことは立証できなかった。塾長室の直ぐ傍に非常階段があり、非常階段を使えば、誰にも姿を見られずに大楽家と往復することが出来る。

 孝毅には犯行時刻のアリバイがなかった。

「それでは――」と野口綾子がいるかどうか聞いたところ、午後から講義に来るということだった。

 昼飯時だった。綾子を待つ間、生長と浅井は近所のラーメン屋に昼食を食べに出かけた。門前で出待ちをしていた報道陣を巻くのに苦労したが、ラーメン屋に行き、汗だくになりながらラーメンを平らげた。

 ラーメンを食べ終わった浅井が、生長のコップにお冷を継ぎ足しながら言った。「大楽孝毅にはアリバイがありませんし、動機もあります。大体、奥さんが殺されたら、先ずは旦那を疑うのが鉄則ですよね。家に戻った理由も曖昧だし。かなり怪しいのではありませんか?」

「おいおい、先入観は持つなよ」

「大楽孝毅が言っていた家政婦の長沼はどう考えます? 確かに、家政婦なら、四重の密室を潜り抜けることができたかもしれません」

「おいおい。何故、家政婦が奥さんを殺すんだ? 動機がないぞ」

「ああ、そうですね。誰かに命じられたとか?」

「まあ、その可能性はある。家政婦のアリバイを調べておく必要があるな」

「ですね。調べておきます」

 話をしている内にラーメンを食べ終わった。どんぶりに残ったスープを一口、啜ると、生長は「さあ、行くぞ!」と浅井に言った。

 のれんを潜ったところで、生長の携帯電話が「ぴん」と音を立てた。

 メッセージが届いた合図だ。生長は足を止め、携帯電話を取り出してメッセージを読んだ。そして浅井に、「悪いけど、車を回して来てくれないか?」と言った。

 小降りになったが雨が続いていた。

「分かりました」

 傘をさすのが面倒で、浅井は駐車場に停めてある車へ走って行った。

 どうせ別れた元妻、瞳からのメッセージだ。うきうきと返事を打つ様子を、浅井に見られたくないのだ。

――全く、重症だな。そんなに好きなら、よりを戻せば良いのに。

 浅井は直美との約束を思い出した。

――西岡さんと連絡を取って、そろそろ作戦を練らなきゃならないな。

 駐車場へ向かう足取りが軽くなった。

 ラーメン屋の前に車をつけると、店の前で生長がまだ携帯電話のメッセージを打っていた。なかなか上達しない。

「悪い、悪い」と生長が車に乗り込んで来る。

「チョウさん、この辺、駐禁ですよ。刑事が交通違反で捕まったら、洒落になりません」

「はは。お前のいう通りだ」

 浅井の嫌味にも余裕の笑顔だ。メッセージをもらったことが、余程、嬉しかったと見える。

 大楽塾に戻ると野口綾子が講義の準備の為に、塾に出て来ていた。

「先生は講義の準備でお忙しいと思いますよ」と職員に渋られたが、「十分、十分だけで構いませんので、お話を伺いたいのです」と生長は押し切った。

 綾子は大楽塾きっての人気講師だ。個室が与えられており、待遇は別格だった。

 生長と浅井が部屋を訪ねると、「どうぞ」と綾子自ら、ドアを開けて二人を出迎えた。テレビで見知っている顔だ。浅井は綾子の顔をしげしげと見つめてしまった。

 美人講師として話題になっているだけあって、綾子の美しさは突き抜けるような透明感に溢れた美しさだった。綺麗なうりざね顔に、憂いを含んだ切れ長の瞳、通った鼻筋がきちんと納まっている。それでいて、顔が小さい。慎重は百七十センチ近くあるだろう。まるでモデルのような八頭身だ。

 芸能人顔負けの美しさだった。

 綾子に見とれている浅井を肘で小突きながら、生長が「お忙しいところ、突然、押しかけてきてすいません」と突然の来訪の非礼を詫びた。

「いえ、大丈夫です。あまりお時間はございませんが、どういったご用件でしょう。事件のことなのでしょうね。先日、別の刑事さんには、事件の日のことはお話しました」

 どうやら先客がいたようだ。美人講師の尊顔を拝したかったのだろう。抜け目のない同僚の顔がいくつか浮かんだ。

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