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血塗られた大楽刀自  作者: 西季幽司
第一章「容疑者はロミオ」
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モンタギュー家の家宝②

「いえね。お屋敷の玄関には鍵が掛かっていたそうですよね。大楽さん、あなた、当然、お屋敷の鍵をお持ちなんでしょう?」

「持っていますよ。あの日も鍵を使って中に入ったんですから。変なことを聞くなあ~」

「ご夫人が殺害された部屋にも鍵が掛かっていました。あなたは、鍵のありかをご存じでしたよね?」

「ええ。リビングのテレビ台の引き出しの中に入れてありました。だから、何です? 何を言いたのですか?」

 孝毅は焦れったそうに声を荒げた。

「殺された大楽玲さんは部外者が立ち入りできない塾の中にある、家族以外が立ち入れないお屋敷の中の、鍵の掛かった部屋の中で、殺されていたのです。塾の壁、屋敷の壁、家の鍵、部屋の鍵、四重の密室の中にいたのです。その全てを開くことが出来たのは、あなただけだと言うことです」

「四重の密室――⁉ はは、刑事さん。そんな大袈裟な」

 孝毅は大口を開けて笑った。

「では、大楽さん。あなた以外、ご夫人の部屋に辿り着けた人物はいますか?」生長が尋ねると、「塾には生徒や講師などの塾関係者なら、誰でも入ることができます。次は・・・ああ、屋敷の壁でしたね。これは、うちの家族なら、皆、門の鍵を持っていますよ。それから、何でしたっけ?ああ、そう。家の鍵でしたね。家の鍵は・・・ええっと・・・私と玲、それに香美・・・後は・・・そうだ。家政婦の長沼さんが持っています。時々、うちに来て掃除とかしてくれていましたからね。ほら、私だけじゃないでしょう」

「奥さんが亡くなっていた部屋の鍵はどうです。合鍵のありかを、あなた以外、誰が知っていたのですか?」

「それは・・・私と玲だけだったと思います。ですけど、長沼さんが掃除をしている時に、偶然、見つけたのかもしれません」

「なるほど。いずいれにしろ、あなた以外だと、その長沼という家政婦だけなのですね? ご夫人はよく部屋に鍵を掛けて寝ていたのですか?」

「いいえ~うちは塾の中にありますからね。部外者が簡単に入って来ることが出来ません。玄関の鍵でさえ、掛け忘れることがしょっちゅうでした。部屋の鍵なんて、夫婦喧嘩をして、あいつが部屋に閉じこもることでもない限り、掛けたことがありません。だから、リビングのテレビ台の引き出しの中に仕舞い込んでいたのです」

「じゃあ、何故、部屋に鍵が掛かっていたのでしょう?」

「知りませんよ! 刑事さん、僕を疑っても、時間の無駄ですよ。僕は犯人じゃない」

「家の鍵、今、お持ちですか?」

「ありますよ」孝毅はまた立ち上がると、窓際に置かれたポール・ハンガーに掛けられた背広のポケットから、キイケースを取り出した。それを生長に見せながら、「ほら、これが門の鍵、これが家の鍵で、こっちやつは今、住んでいるマンションの鍵です」と教えた。

「ありがとうございます。ところで、別居しているのなら、何故、屋敷に戻ったのですか?」

「それは・・・」と孝毅が口籠った。

 生長と浅井は黙って孝毅の返事を待った。沈黙に耐えかねたのか孝毅が口を開く。「怜に呼び出されたのですよ」

「ご夫人に?」

「そうです」

「どんな用事だったのですか?」

「さあ、それは、あいつが死んでしまったので、今となっては分かりません」

 本当だろうか。何の要件だったのか、推測はついているはずだ。

「大体、お分かりなのでは?」

「僕は玲を殺してなんかいない。僕を調べるくらいなら、叔父さんを調べた方が良いんじゃないですか?」

 何の要件だったのか、どうしても言いたくないらしい。

「叔父さん? 大楽直樹さんのことですか? 彼とご夫人の間で、何かあったのでしょうか?」

 生長の反応に気をよくしながら、孝毅が嬉しそうに言う。「あったも何も、二人は犬猿の仲でしたからね」

「犬猿の仲ですか?」

「叔父さんと玲は額縁の件で、もめていました。詳しくは叔父さんに聞いて下さい。僕はあの件には関与していませんでしたから――」と孝毅は恍けて見せた。

「分かりました。ところで大楽さん、靴のサイズはおいくつでしょうか?」

 孝毅が不思議そうに答える。「二十六センチです。それが何か?」

 犯行現場にあった血染めの靴跡のサイズが二十六・五センチだった。そのことは公表されていない。

 遺体発見時、孝毅はスリッパを履いていた。自分の家だ。土足で部屋に入る訳がないが、外部からの犯人を装ったとすれば、土足で入ったとしても不思議ではない。

「いえ。どうもありがとうございます」

「さあ、もう良いでしょう。こう見えて、私も忙しいのです」と孝毅は事情聴取を打ち切った。

 生長と浅井は礼を述べて、塾長室を後にした。

 大楽直毅からも話を聞く必要がありそうだ。

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