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血塗られた大楽刀自  作者: 西季幽司
第一章「容疑者はロミオ」
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春雷①

――チョウさん、鑑識で妙な話を聞いて来ました。

 と浅井が生長のもとに報告に来た。

「何だ?妙な話って――」

「それが、被害者の女性なんですけど、死因は刺殺による失血死だと思われていましたが、体内からシアン化系の化合物が見つかったと言うことです」

「何だ? 大楽玲は刺された上に毒まで盛られていたということか⁉」

「そうなります」

 確かに現場には被害者が嘔吐した跡があった。

「余程、恨まれていたようだな。で、毒物は何だ?シアン化系の化合物って――」

「はい。科捜研の分析結果待ちなのですが、先ず、シアン化カリウムと見て間違いないと言うのが鑑識の見解です」

「シアン化カリウムか・・・」

 生長が眉を寄せる。何か、ひっかかることがあるようだ。

 シアン化カリウムは「青酸カリ」と呼ばれる毒物の代表的な存在だ。シアン化カリウムを使った毒殺と聞いて、生長には思い当たることがあった。だが、それは口にせずに、「それで、死亡推定時刻は何時なんだ?」と尋ねた。

「昨日、四月十三日の午前八時から十時の間だと言うことです」

 被害者、大楽玲の死亡推定時刻は夫の孝毅が屋敷に戻ってくる二、三時間前だ。

「防犯カメラはどうだった?」

 大楽家の正門には防犯カメラがある。生長は、浅井に防犯カメラの映像を確認しておくよう指示してあった。

「はい。防犯カメラの映像を確認しましたが、死亡推定時刻に門を通った人間は二人でした。八時過ぎに、先ず大楽直樹が車で出て行き、その後に大楽裕が徒歩で塾に向かう姿が映像に残っていました。その後、死亡推定時刻を過ぎてから、屋敷に戻る大楽孝毅の姿が映っていました」そして、遺体を発見した。「他に、被害者の娘が学校に行く為に屋敷を出て行って、大楽家の家政婦、長沼が屋敷に入って行ったはずですが、二人共、通用門を利用したようで、防犯カメラの映像には映っていませんでした」

「そうか。通用門があったな。事件当日、屋敷には誰もいなかったことになる。じゃあ、犯人は一体、どこから来たんだ?」

「分かりません。防犯カメラは塾側から正門を通って大楽家に出入りする人間や車を記録しています。通用門からやって来たのかもしれませんし、もしかしたら・・・」と浅井が言葉を切る。

 生長が察して言った。「ああ、大楽家の人間の中に犯人がいるということだな」

「まあ、そうです。外部の人間以外でも、裏山側から、あの鉄柵を乗り越えて、屋敷に侵入すれことができます。防犯カメラに映らずに犯行が可能だったと思います。塾の関係者であれば、壁を乗り越えれば、防犯カメラの眼を盗んで大楽家に侵入することができます。犯行当日、大楽塾にいた人間が対象となると、塾の関係者や生徒を含め、対象者はそれこそ数百名に登ります」

 浅井が両手を広げて「お手上げ」のポーズをして見せた。「数百名に登ろうが、可能性があるのなら、調べるんだ!」と生長が怖い顔をした。

 浅井が「うへっ」と首をすくめて見せた。

 浅井は今頃の若者には珍しく、正義感が強く、忍耐強い刑事向きの性格の若者だ。容疑者が数百名の登ろうと、とことん調べ尽くすだろう。浅井の言葉が本心ではないことくらい、生長が一番、よく分かっている。

「まあ、いい。通用門の方がどうだ? 娘が出て行って、長沼が入って来たなら、他にも出入りしていた人間がいるんじゃないか?」

「それが、屋敷の住人はドアノブを回すだけでアパート側に出ることが出来ますが、アパートの住人が屋敷に入るには、ドアの横にあるキーパッドに暗証番号を入力しなければドアが開かないようになっています。アパートの住人には暗証番号を教えていないそうです」

「なるほど。結局、死亡推定時刻を過ぎて、昼過ぎに遺体の第一発見者、夫の孝毅が、屋敷に戻るまで、屋敷に誰がいたのかはっきりしない訳だな」

 少なくとも犯人がいたことは間違いない。

「はい。そうです」と答えてから、「それに――」と言って浅井がにやりと口の端を歪めた。

「それに、何だ?」

「はい。先ほども言いましたが、事件当日、屋敷を出て行ったのは大楽直樹と裕だけです。死亡推定時刻の前後に広げて防犯カメラの映像を確認してみましたが、夫の孝毅のやつ、朝、大楽家から塾に出勤する様子が、映像に残っていませんでした。変でしょう。やっこさん、どこから出勤したんでしょう。外泊でもしたみたいです」

 この時点で捜査員は玲と孝毅が別居状態にあることをつかんでいなかった。

「なるほど。旦那ならアパートから屋敷に入るドアの暗証番号を知っているよな?」

「当然、知っているでしょう」

「被害者は四重の密室に中にいた。塾の壁、大楽家の壁、屋敷、そして寝室の四つだ。部外者は塾に入れず、家族以外の人間は大楽家に入れない。そして、屋敷の玄関には鍵が掛かっていたし、寝室のドアにも鍵が掛かっていた。まるで、マジックのように厳重に守られた箱の中にいた訳だ」

「はい」と浅井が頷く。

 生長が何を言おうとしているのか、全身全霊を傾けて聞こうとしていた。県警の捜査一課で、最も優秀な刑事――と言えば生長だと浅井は思っているようだ。生長とコンビを組むことが出来たことは、幸運だったと、少しでも、生長の考えを理解しようとしている。

 その熱意は生長にもしっかり伝わっている。

「四重の密室を突破できた人物、それが犯人だと言える。じゃあ、誰だ? 四重の密室を突破できる人間は――」

「はい。大楽孝毅だけです」

「そうなるな」

「やつが犯人なのでしょうか?」

「まだ、分からん。だが、最有力の被疑者であることは間違いないな」

「じゃあ、大楽家に行って旦那を締め上げてみましょうか・・・」

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