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血塗られた大楽刀自  作者: 西季幽司
事件関係者人物ファイル
21/23

七.准教授・兼重千尋④

 被害者の名前は西口(にしぐち)周作(しゅうさく)。死亡時の年齢は四十二歳。豊島区内の設計会社に勤務していた。

 金曜日の夜、八時に仕事を終え、職場の同僚と飲みに出かけた。週末とあってついつい深酒してしまい、同僚とは十一時頃、一緒に居酒屋を出ている。そこから駅に向かって歩いて行く西口の後ろ姿を、職場の同僚が目撃したのが最後となった。

「西口さんはその夜から姿を消し、家に戻りませんでした」

 心配した妻の梨乃(りの)が会社の同僚や知人に連絡を入れたが、金曜日の夜に居酒屋を出た後の足取りが掴めなかった。週末も家に戻らず、翌週、会社にも顔を出さなかったことから、梨乃は警察に捜索願を提出した。

 だが、西口の行方は遥として知れなかった。

「二週間後、西口さんの遺体が豊島区にある小林家という民家で発見されました」

 一人暮らしをしていた小林老婦人が死去し、小林家は空き家となっていた。相続税の支払いに困った老婦人の長男が、売り払おうと空き家を訪れて、西口の遺体を発見した。

 西口は奇妙な恰好で死んでいた。

 台所にあった椅子が、居間の中央、畳の上に移動させられ、西口はその椅子に腰をかけて死んでいた。それも腕を椅子の肘かけにナイロン・ロープで縛られ、固定されていた。足首も椅子の脚にロープで結び付けられていた。まるで拷問を加えられていたかのような状態だった。だが、遺体に暴行の跡は見られなかった。

 死因は毒殺。工業用のシアン化カリウムを飲まされ、殺害されたようだった。遺体は死後二週間程度経過しており、行方不明となった日の夜に、殺害されていた。

 一体、どうやって犯人が西口を小林家に連れ込み、椅子に縛りつけ、殺害したのか分からなかった。

 西口と小林家の人間との間に交友関係はなかった。小林家の人々は「知り合いではない。全く知らない人だ」と証言した。

 犯人が無人となっている屋敷に目を付け、犯行に利用したものと思われた。

 台所の窓の鍵がかかっていなかった。家人が鍵を掛け忘れたようだ。犯人は台所の窓から侵入し、犯行に利用したと考えられた。

「気になったのは、この、足跡。足跡でした・・・」

 兼重がファイルされていた写真を見せてくれた。

 犯人は慎重に行動したようで、毛髪や指紋と言った犯人に繋がる証拠を残して行かなかった。だが、不思議なことに、屋敷の庭や居間にかなりの数の下足痕を残していた。

 この犯人のものと思われる下足痕は、量販品として大量に販売されている運動靴によりつけられたもので、販売ルートから犯人を割り出すことは困難だった。そして運動靴のサイズは二十六.五センチだった。

「死因が毒殺で、シアン化カリウムが使用されている点。犯人が下足痕を残しており、下足痕は市販の運動靴、サイズが二十六.五センチだったという点。被害者を拘束するのにナイロン・ロープが用いられている点が二つの事件に共通していたのです」

 兼重は山口県で発生した殺人事件のファイルを読んでいて、無意識の内に豊島区の殺人事件と共通点があることに気が付いたと言うのだ。

 流石に犯罪データ・ベースと呼ばれるだけのことはある。

「それで、二件の事件、犯人は捕まっているのですか?」

「いいえ。二つの事件共、未解決のままになっています。犯人は捕まっていません」

「未解決事件なのですか・・・でも、二件の事件、共通点が見られますが、山口の事件では凶器としてクロスボウが使用されており、豊島区の事件ではシアン化カリウムが使用されています。若干、様相が異なっていますね。それに、事件が起こった場所も豊島区と山口県とかけ離れています。時期は?その西口さんの事件が起こったのは、何時頃でしょうか?」

「三年半前です」

 まさに博覧強記。兼重は三年前半に起きた事件を記憶しているということだ。

「三年半前ですか。随分、時期的なズレがありますね」

「はい。二つの事件に関連があると考えるのは、早計であるかもしれません。犯罪学を究めるものとして、こんなこと、考えてはならないのでしょうが・・・」

 二つの事件は繋がっている――と兼重の直感が訴えているのだ。

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