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血塗られた大楽刀自  作者: 西季幽司
事件関係者人物ファイル
14/21

四.大楽香美・その一②

 香美は庭へ降りて行った。

「やあ・・・」香美が降りて来てくれて嬉しいはずなのに、真一はぶっきら棒に挨拶しただけだった。

 香美は「うん」と頷いただけで、アパートの公園に向かって歩き出した。今日は山歩きをする気分ではなかった。

 真一が無言で香美の後をついて来る。真一は前を歩く香美のピンク色の可愛らしいスニーカーを見つめながら歩いた。

「ねえ、学校でみんな、私のこと、どう言ってる?」

「どうって?」

 感の悪い子だと香美は思った。

「ママが死んじゃって、みんな、私のことどう思っているのかなあって思って――」

「ああ、香美ちゃん、可哀そうだって、みんな、言っているよ」

「それだけ?」

「うん」真一が頷いた。

 学校で浮いた存在の真一だ。学友の反応に詳しいはずがない。香美はがっかりした。ちょっと、真一を虐めてみたくなった。

「そう言えば、この間、あなたのお母さんを見かけたわよ。山に入って行ったみたい」

 話題を変えた。アパートの住人で、小山に山菜を取りに行く人間がいる。部屋の窓から真一の母、河村(かわむら)慶子(けいこ)が小山に分け入って行くのを見かけたのだが、真一はまるで感心を示さなかった。真一は「ああ・・・」と興味無さそうに答えただけだった。

「またなの⁉」香美は足を止めて振り向くと、言った。

 香美の言葉に、真一は一瞬、びくりと肩を震わせた。そして白目勝ちな目で、下から香美の顔を伺い見た。ただでさえ小柄なのに、真一は背を丸めて俯いて歩く。常に、香美を見上げる形になる。

「・・・」真一は答えなかった。

「そう、またなのね」香美は前を向くと、再び歩き始めた。

 また始まったようだ。

 香美は真一が同級生に対して攻撃的な態度を取る理由に薄々、気がついていた。真一の背中に無数の傷痕があることを香美は知っているからだ。

 偶然、背中に触った時、真一が異様に痛がった。そこで無理矢理、背中を見せてもらったことがあった。真一の背中には、赤黒い蚯蚓腫れが幾筋も走っていた。

「どうしたの?」と聞いても、真一は俯いて押し黙ったまま、何も答えなかった。

 焦れて、「ちゃんと答えないなら、もう一緒に遊んであげない!」と言うと、真一は慌てて「僕が悪いんだ」とか細い声で答えた。

 真一は母親から折檻を受けていた。

「部屋を汚した」、「口答えをした」といった些細なことで慶子は真一を上半身、裸にすると、物差しでぴしぴしと背中を打つのだ。背中が赤く腫れ上がり、血がにじむまで折檻が続いた。

 折檻に名を借りた虐待だった。

「僕がお母さんの言うことを聞かないから、物差しでぶたれるんだ・・・」目の前で泣きじゃくる真一を、香美は冷たく見下ろしていた。

 真一の苦悩は理解できたが、幼い香美にはどうしようもなかった。

「お願いだから、誰にも言わないで――」と真一が哀願するので、両親に告げることも出来なった。最も、玲に伝えたとしても、何の反応も示さなかっただろう。孝毅なら、父親の河村信次郎に何か言ってくれたかもしれない。

 真一は母親と一緒にいたくないようで、学校から帰宅すると、大楽家の庭で香美が出て来るのをずっと待っているのだ。

 庭に、真一の姿が見えない日がある。母親の機嫌が良い時だ。このところ、真一の姿が見えないので、香美は慶子の機嫌が良いのだと思っていた。ところが昨日、真一は日が暮れるまで庭にいた。また慶子の折檻が始まったのだと想像がついた。

「ねえ、あなたのお母さん、昼間はどうしているの?」

 香美は公園のブランコに腰を掛けると、真一に尋ねた。

「家にいるよ」真一が隣のブランコに腰掛け、ブランコを漕ぎながら答える。

「ずっとお家にいるの?」

「ううん、朝はイナリ屋に買い物に行っているみたい」

 イナリ屋は近所にあるスーパーマーケットだ。生鮮食料品が安いと評判だ。

「そう・・・」香美はブランコから腰を上げると、ジャングルジムへ向かった。

 真一がブランコを飛び降りて、香美の後を追った。

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