時間の使い方
「足に魔力を集中しながら、とにかく走れ」
ガロンおじさんの指導は、今日も雑だった。
「俺も昔、衛兵時代にこれやらされたんだよ。地味に効くからな」
(いや、地味どころじゃねえ……普通にキツいんだけど)
そんなわけで、俺は村の周りをぐるぐる走り続ける日々を送っていた。
足の裏に魔力を意識しながら、ゼェハァ言いながら――。
「おや、ルクスくんじゃないの。元気ねえ」
「こんにちは、訓練中なんです!」
「まぁ! えらいわねぇ。頑張って!」
通りすがりのおばちゃんたちに声をかけられて、ちょっとだけ元気になる。
そしてある日。
教会の前で、見習いシスターの女の子とすれ違った。
同い年くらい、大きな町から来たって噂の子だ。すっごい美人で、なんか品がある。
その子が――にこって笑って、手をふってくれた。
「……っ!!」
「すげー可愛い!」
足に力が入り、急に走るスピードが上がる。
(俺、もっと強くなって可愛い子と結婚するんだ!)
◇
――そして、一か月後。
《スキル獲得:身体強化 Lv1》
目の前に、ふわっと例のスキル画面が現れた。
(きた……ついに、きた!)
もう全身で魔力を込めることができるようになってきてたから、もうすぐだと思ってたんだ!
さっそく試してみる。
魔力を足に流して、弓を引く。
「ッッらあああ!!」
ビュオンッ!
矢は勢いよく飛び、木にぶっ刺さる。
(……前より威力も速度も段違いだ!!)
その様子を見ていたガロンおじさんが、口元を緩めた。
「おお……やるじゃねえか」
「へへっ」
褒められると、やっぱ嬉しい。
◇
最近の俺はというと――
常に身体強化を使って生活している。
薪割り、荷物運び、走るとき、階段ダッシュ。なんでも身体強化。
ガロンおじさんと一緒に狩りにも行くようになって、肉も結構食えてる。
そのおかげか、筋肉もついてきて……なかなか、いい感じだ。
そう思いながら、俺は今日も走る。
――足に魔力を込めて!
◇
最近、ふと思うことがある。
(……俺、7歳だよな)
それにしては、やたら色々覚えが早い気がする。
魔力感知にしても、身体強化にしても、最初は苦戦したけど――気づけばもう身についてる。
(もしかして……俺、才能あるのか?)
なんて思っていたが、ある日ふと気づいた。
(……いや、違うな)
前世もそうだったけど、普通の子どもは、村の小さな教会学校で読み書きや数の勉強をしてる。
でも、俺は行ってない。
だって農家の3男坊で、教会のお布施もあんまり出せない貧乏な家だから。
朝起きて、走って、弓を撃って、薪を割って、また走って――
気づけば、一日中ずっと訓練してる。
「そりゃー、習得早くて当然か」
納得した。
もちろん、最初のころは親父や母さんから「手伝いくらいしろ!」って怒鳴られたもんだ。
でも、狩りで肉を持って帰るようになってからは、少し空気が変わった。
「肉があるなら……まあいいか」
そんな感じで、最近はあんまり言われなくなった。
それどころか、兄たちにも少し尊敬されてる気がする。
(やっぱ“結果”って大事なんだな)
俺は訓練を続ける。
肉のために、自由のために、強さのために。
それが今の“俺の勉強”だ。
【ステータス】
名前:ルクス
年齢:7歳
種族:人間(村人)
職業:狩人見習い New
出身:ユレリ村
現在の欲望:もっと狩りが上手くなりたい
スキル:弓術 、解体術、矢製作、身体強化