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身体強化ってなにそれズルい

 薪を運ぶ途中、ガロンおじさんが――


 ヒュン!と音を立てて、高い木の上にひょいっと登った。


 「……え?」


 目を疑った。

 木の上で、獲物を探している。


 「お、おじさん!? 飛びすぎじゃない? 人間やめてるよ!」


 「ん、あー……身体強化使ってたんだよ」


 (身体強化?)


 「……なんだそれ。ズルいぞ、それ! 俺にも教えてよ!」


 おじさんは木から飛び降りると、軽く膝を曲げて着地した。トンッて軽い音しかしない。


 「ふはは。教えてもいいが、甘くねえぞ」


 「やった! それ、魔法ってやつ!?」


 「魔法ってほどじゃねえな。俺は魔法自体は使えねえ。でも、魔力ってのは使える」


 (……この世界、やっぱ魔法あるんだ)


 「昔な、城の衛兵やってた時に鍛えた技よ」


 「えっ、マジ!? すっげえ!! やっぱおじさん、ただの田舎狩人じゃなかったんだ!」


 「煽てても何も出ねえぞ……ま、ちょっと嬉しいけどな」


 (ニヤニヤしてんじゃん)


 「よーし、教えてやるよ。まずは――魔力を“感じる”とこからだな」



 ガロンおじさんが俺の手首を掴む。


 「いくぞ。俺の魔力を流すから、感じてみろ」


 「う、うん……」


 ビリ……っと来るのかと身構えてみたが――


 「……な、なんも感じない」


 「だろうな。俺も最初は全然だった」


 (ちぇー……なんか才能とかで、パッとできると思ったのに)


 「まあ、心配すんな。感じる訓練からだ」



 それから何度も、何度もやってみた。

 でも、ほんとに何も感じない。


 「……おまえも、苦手なことがあったんだな」


 「う……」


 「でもよ、弓の上達ぶりは本物だ。お前は“やればできる”ってタイプだろ?」


 「……あたりまえだろ。肉のためならなんでもやる!」


 「ははっ、じゃあ身体強化も、絶対できるな!」


 俺は拳を握った。

 魔力? 上等だ。

(ぜってぇ、俺も使えるようになってやる)



 それから何度も、何度も試してみた。

 でも――全然ダメだった。


(ぜんっぜん、分からん……!)


 薪を割って、矢を削って、くたくたになって帰ったその夜。

 俺は囲炉裏の前で、だらけた体のまま母さんに愚痴をこぼした。


 「……なんかさ、魔力ってやつ、全然感じられないんだよ」


 すると、母さんがいつもの調子で返してきた。


 「じゃあ、練習につきあってあげようか?」


 「……え?」


 「ほら、私も魔法、ちょっとだけ使えるから」


 「えっ、母さんって……魔法使えるの!?」


 思わず声がひっくり返った。

 そんな話、今まで一度も聞いたことがない。


 「ふふっ、そんなに驚かなくても。普段から使ってるわよ?」


 「え、いつ!?」


 「料理のとき、火をつける時とか」


 そう言って、母さんは指先を囲炉裏に向ける。

 パチッと小さな火花が弾けて、炭が赤く染まり始めた。


 「……なにそれ、すげえ」


 「でも、これしかできないけどね。しいて言うなら私は火起こし専門の“魔法使い”ってところかな」


 そう言って、いつもの穏やかな笑顔を見せた。


 「……じゃあ、魔力、流すよ」


 母さんが、俺の手をそっと握った。

 あったかい手だ。けど――


 「……うーん、なんも感じないよ」


 「うるさい、集中しな」


 ぴしゃりと一言。母さん、わりとガチだ。


 俺は目を閉じて、呼吸を整えて、手のひらの奥に――意識を向けてみる。


(なにか……感じろ……感じろ……)


 「……わかった?」


 母さんが手を離した。

 その瞬間、ほんの少し――指先に残る“何か”に違和感を覚えた。


(なんだ、これ……)


 でも確信は持てない。ただの気のせいかもしれない。


 そして、それから一時間が経った。


 「……もういいでしょ。母さん、晩ごはんの支度あるから終わるよ」


 「ま、待って! 母さん……今、なんか掴めそうなんだ!」


 俺が食い下がると、母さんはため息をつきながらも、渋々手を差し出してくれた。


 「もう、今日だけよ」


 そして再び始まった集中の時間。

 部屋は静かで、囲炉裏の炭がカサリと崩れる音だけが響く。


 ――30分後。


(あれ……なんか、あったかい)


 手の中から、腕、そして胸の奥へと――ふわっと、流れる感じがする。


(これが……魔力?)


 「もういい?」


 母さんの声が現実に引き戻す。


 「……ごめん、もうちょいだけ!」


 「ったく、父ちゃん帰ってきちゃうよ……」


 「お願い! 今、体の中にあったかいのが流れてるんだ!」


 「……もう、しょうがない子ね……」


 そして――ゴンッ!


 「いったぁ!!」


 「いい加減にしなっ!」


 母さんの拳骨が額に命中。


 そのタイミングで、ガラッと戸が開いた。


 「ただいまーって……なんだこの匂い、メシまだか?」


 「ちょっとルクスと魔力の練習してて……」


 「練習ぅ!? この時間まで何してんだ!」


 「そりゃこっちのセリフよ! アンタが早く帰ってくるからでしょ!」


 「うわ、ごめん……」


 そのまま兄貴たちも帰ってきて、囲炉裏前に集まってくる。

 飯がないとわかると、全員の目が俺に向いた。


 「おまえのせいだぞ、ルクス」


 「腹減った……麦粥もねぇのかよ」


 「ご、ごめんなさい……」


(くっ、魔力より、家族の機嫌のほうが怖ぇ……)


 ――ドン!

 土間が揺れた。


 「ルクスーーーー!!」


 父ちゃんの怒鳴り声が、家中に響き渡った。


 「おめぇ、何時だと思ってんだこのバカヤロウ!!」


 「ひいっ、ご、ごめんなさぁいぃ!!」


 「母さんを巻き込んで! 火も炊かせず! メシもなし! 何が魔力じゃこのやろう!!」


 「だって! 何か掴めそうだったのぉ!!」


 「気がしただけで飯ができるかボケェ!!」


 ゴンッ!!

 額にデカい拳骨炸裂!


 「いってぇぇぇっ!! 死ぬぅぅう!!」

【ステータス:ルクス】

年齢:7歳

種族:人間(村人)

職業:農家の三男坊

出身:ユレリ村

現在の欲望:身体強化を覚えたい

スキル:弓術 、解体術、矢製作

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