表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/59

初めての狩り

……気づけば、画面は消えていた。


(なんだったんだ、あれ……) 


目を凝らしても、どこにも見当たらない。

さっきまで確かに目の前に浮かんでいた“スキルの画面”。今はもう跡形もない。


(まあ……いっか。あとで考えよう)


とりあえず、今は――


「おーい、どうしたルクス。さっきから呆けて」


ガロンおじさんの声に、ハッとする。

俺は弓を抱えたまま、おじさんの前に駆け戻ると――


「……当たったんだ! 矢が、ちゃんと的に!」


そう叫んだ。


するとガロンおじさんは、ほんの一瞬だけ驚いた顔をしたあと、にやりと笑う。


「ほぉ。……見せてみな」


一緒に練習場に戻ると、おじさんは俺の弓構えや矢の跡をしっかり見てくれた。


「……この短期間で、ここまで当てるとはな。すごいじゃねえか」


力強く肩を叩かれる。


(くぅっ……! 認められた!)


なんだろう、今の一言だけで、ここ数日の苦労が全部報われた気がした。


……そして。


「そろそろ、実戦に出てみるか?」


「えっ」


「裏山の奥に、ウサギの巣がある。お前の矢なら、もう十分狙えるはずだ」


(まじかよ……いきなり実戦!?)


内心ビビったけど、ここで逃げたら一生麦粥生活。

だから――


「……やる。俺、肉が食いたい!」


「よし、そうこなくちゃな」


そうして俺は、ついに“獲物を狩る”という次のステップに足を踏み出すことになった。


おじさんと山に入り、ウサギを探す。

すると、ガロンおじさんがぽつりと呟く。


「お前、結構筋がいいよ」


俺はちょっと照れくさくなって、後頭部をぽりぽりかいた。


(筋がいい、か……へへ、悪くない)


「ふふん、まあね? 筋だけで言えば、村一番だし」


「うるせぇ。“口の筋”ばっか鍛えてんじゃねぇぞ」


「それは否定できない……」


木漏れ日がちらつく山道。

落ち葉を踏むたびに「カサッ」と音が鳴って、なんだか緊張してくる。


「……ここからは静かにだ。足音も、声も殺せ」


おじさんの低い声が、妙に鋭く響く。

俺は無言で頷いて、弓を構えながらついていった。


しばらく進んだ先――おじさんがピタリと立ち止まる。


「……いた」


視線の先、茂みの向こうに――いた。ウサギだ。

白と灰のまだら模様。ふわふわした毛並みに、丸い耳。

地面の草をモグモグ食べている。


(ち、ちっさ……しかも可愛い……)


……けど。


(俺は、あいつを食うんだ)


心を鬼にする。

震える指で矢をつがえ、弓を引く。


(深く息を吸って……吐いて……)

(狙うのは、胸だ。真ん中、少し下)


――ビュンッ!


矢が風を切って飛んだ。


「キャッ!」


ウサギが短く鳴いた。

次の瞬間、草むらの中で動きが止まる。


――命中していた。


足が震えた。胸の奥が熱くなる。


「……やった、のか……?」


ガロンおじさんが、少しだけ目を見開いてから、ゆっくり頷いた。


「……ああ。よくやったな、ルクス」


それは、生まれて初めての――狩りの成功だった。


(よし、これで! 今晩はご馳走だァァ!)


 

 ……なお、ここからが地獄の始まりだった。



おじさんは淡々とウサギの処理を始めた。

まず首元に小さく切れ込みを入れて逆さに吊るし、血抜きをする。

赤黒い血が地面にぽたぽたと落ちて、思わず目をそらしそうになる。


「見てろよ、食うならこれも覚えとけ」


そう言って、おじさんは皮を剥いでいく。

脚から引っ張るようにして、ズルズルと中身が露わになる――。


(う、うわ……グロい……)


喉の奥がキュッとなった。思わず吐きそうになる。


さらに腹に切れ込みを入れ、内臓を取り出す。

手際はいいけど、匂いが生々しい。


(こんなことしなきゃ、肉って食えないのか……)


正直、今すぐ帰りたい。

でも――


(……俺が食べたくて、殺したんだ)


ちゃんと向き合おうと思った。


「……せめて、美味しく、残さず食べたい」


俺はそう呟いた。


ガロンおじさんは、しばらく黙っていたが――ぽつりと、こう言った。


「それが、一番大事なことだ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ