完敗と、あったかい布団
その日の午後。
俺は、家の布団に顔を埋めて――
「うわああああああああん!!!」
ガチ泣きしていた。
情けない? だっせぇ? そんなの関係ねぇ!!
(悔しいんだよ……っ!)
あんな自信満々の顔で勝ち誇られて、完敗して、家来扱いされて、くっそ、くっそぉ……!
もう行きたくねぇ! あの薬師の家なんか、二度と!
だって、あの女に負けたんだぞ? しかも剣で!
俺の人生、最近ちょっとずつうまく回ってきてたのにさぁ……!
(なにが“家来”だよ……ふざけんな……)
ふと、襖の向こうから声がする。
「……おい、ルクス。大丈夫か?」
父親の声だった。
俺は黙って、布団を抱えたまま背を向ける。けど、ガラリと開く音がして、親父が入ってきた。
「お前、なんかあったんだろ。とにかく話してみろ」
その言い方があまりに真っ直ぐで、俺は思わず涙声で叫んじまった。
「女に負けた……! 剣の勝負で、女に……!」
兄貴たちに囲まれてぐずぐず泣いてたら、親父が腕を組んで訊いてきた。
「で? 誰に負けたんだよ。言ってみろ」
俺は鼻をすすりながら、絞り出すように答える。
「薬師のばあちゃんの孫……レティシアっていう女……うわーん!!」
すると親父の表情が、ピクッと変わった。
「……レティシア?」
一瞬だけ、なんか妙に真剣な顔をして――
「あー、あのクラウス・エルグレインの娘か」
「……エルグレイン?」
親父はふぅと長く息を吐いてから、首をかしげる俺に向かって言った。
「……あー、そりゃ勝てねぇわ」
「……へ?」
「お前な……まぁ詳しくは言えねぇけどあの子は、この国の守るために最前線にいた血筋なんだよ」
「最前線って……」
「おっと。こりゃ口が滑ったな」
親父は頭をかいて誤魔化しながら続ける。
「とにかく、レティシアってのは、その家の“本家筋の娘”だ。しかも、薬師のばあちゃんのとこで育ってるが、幼い頃から厳しく鍛えられて育てられてるだろうな」
「…………」
「女とか男とか関係ねぇ。あの子は、お前なんかよりずっと“戦士”なんだ」
俺は言葉を失った。
「お前が弓で猪倒したのはすげぇ。でもな、得物が変われば条件も変わる。あの子はな、戦いに慣れてる。相性も悪かったな」
「そもそもお前は剣なんて使ったことないだろ、それで勝とうってのが無理な話だ」
「ぐ……」
「本当に勝ちたいなら、ガロンの旦那に教えてもらえ。あの人も、ただの狩人ってわけじゃねぇからな。お前が思ってるより、よっぽどすげぇ人だよ」
親父はそう言って、ぽん、と俺の頭を軽く叩いた。
兄貴たちも笑いながら、
長男:「女に負けたって話を、ここまで堂々とできたんだ。お前、案外でかくなるかもな!」
次男:「つーか、レティ相手に勝てるやつ、村にいねーだろ。気にすんなって」
「つぎリベンジだな、ルクス!」
……涙が、またこぼれた。
でも、今度はちょっとだけ、あったかい涙だった。
(ちくしょう……くやしい。でも、ありがてぇ)
泣けるくらい悔しくて。
でも、そんな気持ちを笑わずに聞いてくれる家族がいて。
(……今世は、なんだかんだ……いい家族に恵まれたのかもしれない)
あったかい布団の中で、鼻水をすすりながら思った。
吐き出すって、大事だね。
「絶対レティシア、あいつ泣かすからな……!」
鼻水まみれの顔で拳を握った俺は、天井をにらみつけながら誓った。
(……師匠、早く帰ってきてくれよ。ガチで今、近接戦の稽古が必要なんだ……!)
――ししょーカムバーック!!!
【ステータス】
名前:ルクス
年齢:8歳
種族:人間(村人)
職業:狩人
出身:ユレリ村
現在の欲望:薬師の金になる薬草の取り方を教えてもらう、レティシアを泣かす!
スキル:
・弓術 Lv2
・解体術
・矢製作
・身体強化
・精密射撃
・隠密




