転生
気づけば――畑の畝の上で、空を見ていた。
湿った土の匂い。肌にぺたっと張りつく朝露。寝起きで泥まみれってのもどうかと思うが、なぜか妙に心地よい。
(……なんだこの青空。やけに澄んでるな)
手には、使い込まれた鍬。足元は泥だらけ。粗末な綿の着物が、冷気を吸ってヒヤッとする。
状況的には、“絶望”寄りのビジュアルだ。
(えーと……俺、何してたっけ?)
思考が追いつかないまま、ふと脳裏をかすめたのは――前世の記憶。
そうだ。俺は、死んだんだった。
で、どうやら農村に転生して、今このザマってわけだ。
(はは……マジか。マジで異世界転生かよ)
だけど、不思議と混乱はなかった。むしろ――スーッと腑に落ちた。
そういや、前の人生ってさ……あんま、面白くなかったよな。
真面目に働いて、空気読んで、恋愛経験はゼロ。彼女? いねぇよ。バレンタインチョコすら都市伝説だった。
(あんな人生、二度とごめんだ)
鍬を地面に置く。カシャン、と乾いた音が響く。
俺はゆっくりと立ち上がり、冷たい風の中で空を仰いだ。
この空の下なら、もう誰にも縛られない。
やりたいように、やってやる。
狩りでも、魔法でも、うまい飯でも。
ついでに――
(今度こそ、モテモテの人生にしてやる)
そう、欲望に忠実に生きるんだ。
うまい肉を食い、可愛い女の子に囲まれて、胸張って「人生楽しいっす」って言える毎日に。
俺は、静かに決めた。
「──この人生は、俺のもんだ。欲望のままに、生きてやる」
さぁ、ここからだ。
泥臭え農民から、てっぺんまで――駆け上がってやるよ。