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商人ギルドを冤罪追放された ~俺が証券でボロ儲けするほど有能なことを美人ギルドマスターだけが知っている~

作者: 芽春誌乃

初の投稿になります!

短編なのでサクサク読めると思います!


※カクヨムでも投稿しております

「リク・アーデルハイト。お前を資金横領の罪でこの商業ギルドから追放する!」


 ギルド内に響き渡ったのは信じがたい言葉であった。

 俺は思わず耳を疑ったが周囲の厳しい視線からそれが現実なんだとわかった。


「ち、違う。嘘だ! そんなことはありえない話だ!」


 声を震わせながら必死に否定する。


 ちゃんと説明すれば絶対わかってくれるはず。

 そう信じた俺は混乱しながらも頭をフル回転させて弁明した。



 ――――しかし、誰も俺の声に耳を傾けてくれなかった。



「言い訳は無用だ! 今すぐ出ていけクソ野郎」


 ライバル商人であるダリオがものすごい剣幕でまくし立てると、その右拳を大きく振り上げた。


「――――ぐはっ」


 俺はよろめいて床に膝をついてしまう。


「ギャハハハハ」

「いつかこうしてやりたかったんだ!」

「ムカつくんだよゴラ!」


 続けざまにダリオの取り巻きたちが俺を取り囲むと暴力を振るった。



 ――――あまりにも理不尽だった。



「金を盗むようなヤツに、情けは不要だ!」

「裏切り者め!」

「この人でなし!」


 同じ商人仲間だったはずの者たちが、今や憎悪の塊となって俺に襲いかかる。

 誰も止めない。誰もだ……。


「い、痛てぇ」


 血だらけになった俺はゴミを捨てる感覚でギルドの外へと放り出された。

 通りすがりの町人たちも侮蔑の眼差しを向けてくる。

 まるで道端に落ちているゴミを見るかのように。


「ギルドの金を盗むなんて最低だな」

「信用していたのに……」

「あれが裏切者の末路だ」


 耳を塞ぎたかった。叫びたかった。

 だけど、俺の身体はもう動かない。


 俺はそのまま泥だらけの地面に突き伏した。

 空は灰色に曇り冷たい雨が降り始めていた。



 ________________________________________



 

 雨に打たれながら、俺はぼんやりと空を見上げる。



 ――――俺は、何もしてないのに……



 言葉にならない叫びが胸の中を渦巻く。

 手足は痛み、寒さが骨にまで染みる。


 だけど、心の痛みの方が何倍も辛かった。


 何年も必死に尽くしてきたギルドだった。

 寝る間を惜しんで働いた。利益にならない仕事も引き受けた。

 日頃の雑務や経理はもちろん、ときには戦地への物資輸送に駆り出されたこともあった。

 誰よりもギルドを思って行動してきたつもりだった。

 それなのに……。


 その全てを一瞬で否定されたのだ。


「……クソが!」


 拳を握り締めても、力は入らない。

 立ち上がろうにも、体が動かない。

 俺はその場に横たわるとしめやかに意識を手放した。




 ________________________________________



 

 どれだけ眠っていたのだろうか。


 気がつけばそこは薄暗い路地裏だった。

 いつからここにいたのかもわからない。

 腹は減り、喉は乾き、体中が痛む。


 それでも人前には出られなかった。

 どれだけ腹が減っても、罵声を浴びせられるくらいなら、飢えた方がマシだった。


 時折、遠くでギルドの仲間たちの声が聞こえた気がした。

 だけど、俺はそっと目を閉じるしかできなかった。


 彼らの中に自分を信じてくれる者などいないからだ。


 数日が過ぎ、俺はもはや歩くこともできずただぼんやりと意識を漂わせるだけになっていた。


 ――――ここで、俺は終わるのか。



 そんな諦めが心を蝕んでいった。




 ________________________________________




 商人ギルドのギルドマスター、大商人セシリアは王都から帰還するや否や、異様な空気に眉をひそめた。


「リクが追放された、ですって?」


 副官からの報告にセシリアの碧眼が鋭く光った。

 彼女はすぐさま詳細を問いただすとリクが資金横領の濡れ衣を着せられたことや追放の裏にダリオたちの暗躍があったことを知る。


「……このたわけどもが!」


 セシリアは怒りを露わにすると、ドンっ、と振り上げた拳を叩きつけた。


「リクは証券運用でギルド資金を着実に増やしていたのよ。彼の手腕がなければ……ギルドは今ごろ赤字に転落していたはず。そんなギルドの救世主を追放⁉ 気が狂っているとしか言いようがないわ!」


 現にリク追放後のギルドの収支は一瞬にして悪化の一途を辿った。


 証券の運用ができるのはギルド内に彼しかいない。

 そんな彼を追放したのだ。当然の結果である。


「すぐにリクを探すわ!」


 セシリアは豪雨の中、自ら馬を走らせて街を探し回った。

 そして、ついに路地裏で倒れるリクを見つける。


「リク……! リク!!」


 泥だらけのリクを抱きしめ、セシリアは涙をこぼした。


「大丈夫よ。私が来たわ。もうあなたを1人にはさせない」


 リクは弱々しく目を開き、セシリアの顔を見た。

 その瞬間、彼の瞳にわずかな光が戻った。




 ________________________________________




 リクはセシリアの手厚い看護を受け、徐々に体力を取り戻した。


 そして数日後、セシリアはギルド総会を招集した。

 街の有力者たちも招かれ公正な場が設けられた。


「リクへの横領容疑は誤りであったことをここに宣言するわ!」


 セシリアが高らかに告げると証拠の書類とリクが行っていた証券投資の詳細な記録が提示された。しかも、それらの成果でギルドは多大な利益を得ていたことも明らかになる。


「な、なに……そんなはずが……!」

「あいつがこのギルドを支えていただと⁉」

「そんなこと知らない! で、でも確かに急にギルドが赤字になったし本当かもしれない」

「嘘つけ! 絶対嘘だ! そんなこと俺は知らんぞ!」


 狼狽するダリオたち。


「リクが商人ギルドを支えていたことを知らないですって? それでもあなたはいっぱしの商人なの?」

「え、いや一人前の商人ですよ! 馬鹿にしないでください。それより、ギルドマスター。リ、リクがギルドを支えていたなんて……どういうことですか! デマですよね⁉」


 ダリオの言葉に反応したセシリアは冷たく刺々しい視線を送った。


「わたしが嘘をついているとでも言いたいようね」

「ち、違います!」

「じゃあ、なにが言いたいのかしら?」


 だんだん声が弱っていくダリオ。


「あいつが優秀なわけない……というか証券でギルドを支えるとか無理に決まっている。俺にもできないことだ。あいつにできるわけがない」


 彼としては必死に論理的に説明したつもりだった。

 しかし、セシリアはダリオに対して怒りを通り越して呆れの感情を抱いていた。


「親が大商人だからって子も優秀というわけではないのね。1代で今の地位を築き上げたリクと違ってあなたはなんの努力をしていないボンボンだわ」

「――――なっ」

「はぁ、もういいわ。みんなこれを見てちょうだい。ダリオたちが資金を横領していた証拠よ」


 追い打ちをかけるようにリクを陥れた証拠が次々に暴かれた。

 ダリオたちは逆にギルド資金を私的に流用していたことが明らかになったのだ。


「ぎ、ギルドマスター。お慈悲を!」

「ダリオ・クロウ、及びその一派、ザック・ベルモンド、ロイ・ハウエル! 貴様らをギルド除名とし、王都への送致を決定する!」


 判事が厳しく宣告する。

 ダリオたちは顔面蒼白になり、泣き叫びながら連行されていった。


「そんな、こんなはずじゃ……助けてくれぇ!」

「嫌だ、働きたくねぇぇぇぇ!」

「た、助けてください。お願いします!」


 重労働刑が待つ王都へと引きずられていくダリオたちを町の住人たちも冷ややかな目で見送った。


「ざまぁみろ、ってんだ」

「リクくんを裏切った罰だ」

「あれが裏切者の末路だ」


 人々の口から自然とリクを称える声が上がった。

 セシリアはリクに歩み寄り、微笑んだ。


「リク、これからは私と一緒に、ギルドを立て直してくれるかしら?」

「はい……俺でよければ!」


 リクは深く頭を下げた。

 その日、リクはギルドの副マスターに任命され、正式にギルドの中心人物となったのだった。



 ________________________________________



 ギルドの復興は目覚ましかった。

 俺の経営戦略とセシリアのカリスマ性によって商人ギルドは瞬く間に以前にも増して繁栄し、街の人々からの信頼も厚くなった。


 ある晩、俺はギルドホールの屋上で夜空を見上げていた。


「……まさか、こんな日が来るとはな」


 独り言を呟く俺のもとにふわりと柔らかな香りが漂った。

 振り向けばセシリアがそこにいた。


「リク、少し付き合って」


 セシリアは微笑みながら俺の隣に腰を下ろす。

 月明かりに照らされ、彼女の豊かな金髪と魅惑的な肢体がより一層輝いて見えた。


「本当にあなたには感謝しているわ。私だけじゃここまで立て直せなかった」

「そんなことありませんよ。ギルドマスターがいたからこそ俺も頑張れたんです」


 なんだか照れくさいな。

 思わず俺は少し彼女から視線をそらしてしまう。

 そんな様子を見た彼女はクスっと笑顔を見せた。

 まるで夜の太陽だった。


「ねえ、リク」

「はい?」

「あなたがいなかったら、私……寂しくて、壊れていたかもしれないわ」


 ささやくようなセシリアの声にドキリと胸を打たれる。


「だから、もう離れないで……」


 そっと伸びた柔らかな手が俺のボロボロの手を握った。


「もちろんです。ずっとあなたのそばにいます」


 俺もまた強くセシリアの手を握り返した。


 俺たちはそっと顔を近づけると月明かりの下で優しく唇を重ねた。


 新たな未来を誓い合うように――――。

 俺とセシリアの物語は最高の形で結ばれたのだった。

お読みいただきありがとうございました!


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