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真実を知りたい 弐の3


その姿は、すごく気持ちよさそうだった。

足をリズム良くブラブラと動かす。


ブランコもリズムに合わせ、高く上がる。


歩み寄る絢斗に気付いた少女は、

ブランコの動きを止め座っていた。


「こんにちは、私は死んでるってことであってるんですかね」

なんとも言えないような笑顔を浮かべる。


「そうだな」

「やっぱりかー。車に飛ばされて、硬いもので頭打って、全身も痛くて…あはは」


少女はまだ受け入れられていない。

隠そうとしているが、

明らかに動揺していた。


少女は絢斗に、ここがどこか尋ねる。

「ここは、簡単に言うと死後の世界。だがここは…」


自分が本当に死んだのか、

受け入れられてない奴が来るような場所だ。

と説明する。


絢斗もある程度は説明できる。

しかし相手が伶琉の場合は多少雑ではあるが。


なぜなら、互いに信用しているからだ。


「そっか、ママって怒ってたりします?あと桜花もどんな様子ですか」

絢斗はさっきまでの母親の様子を伝える。


話を聞いてる時の少女は、眉を下げ、

少し眉間にシワを寄せ、悲しそうな表情を。


鼻を啜る音も。


表情がコロコロ変わる少女を前に、

つい思ってしまう。

まるで伶琉のようだと。


「桜花の様子がおかしくなったのは私のせいですよ。あの子、見ちゃったんですよ」


私がクラスの人からイジメられてるところや、

陰口を言われているところをね。


もう今はそんなのどうでもいい。

そんな表情で話す少女。


だから次女は、

長女の顔を見て心配な視線を送ったり。


母親に話そうか。

SOSを求めるような目線…そう絢斗は納得した。


やっぱり隠せませんねと話す少女。

絢斗の方を向き、悲しげに微笑む。


「ママも母親失格なわけないのに」

ただ私が言わなかっただけなのに。


「なぜ、話さなかった」


少女は目を逸らし、少し遠くを見る。


「話せなかったがいいかな」

「…」


「話さなければ、自分を取り繕うだけでいい」

話すのは辛いんです。

怖いんです。


そう言う少女は続けて話す。

         

"それに、結構()()()()()なんですよ"


寂しげで、泣きそうな眼差し。

その眼差しを絢斗に向ける。


絢斗を責めてるわけじゃない。

ただ、向ける相手が絢斗しかいないからだ。


絢斗は"そうか"と呟き。

「母親、そして次女が。同じところに来るまで一生言わないのか」


その言葉を聞いた少女は小さくハッとする。


無理だって諦めていた。

もう見守ることしか出来ないって。


だから、笑顔で。

人前では笑顔で、平気そうな顔で。


絢斗の前では笑顔でいようって‥


そう思って、取り繕っていたはずなのに。

笑顔で取り繕っていた少女の表情。


それは少しずつ、表情は怯む。

ーー切ない方へと


少女の目から涙が溢れる。

それは、涙の雨とかして。


隠すように軽く下を向が、

ただ一度流れ始めると止まない雨のように。


スカートに跡を残す。


手で涙を拭いても拭いても溢れ出る。

少女自身、本当は葛藤していたのだ。


どうすればいいのか、

何が正解なのか。


何をどこまで言うべきなのか、

どうすればいいのか。


自身の問と葛藤していたのだ。


本来なら、今ここに絢斗がいること自体。

おかしな事ではある。


「どうせ面と向かっては不可能。なら、これに書け」

少女は涙を流しながらも顔を上げ、受け取る。


それと涙で濡れないようにと。

絢斗はピンクで花がらの、

ワンポイントハンカチを渡す。


少女はハンカチを見た時目を細める。

何かを思い出すかのように。


小声で、

「お母さん、桜花」

と呟いた気がした。


「ありがとう、ございます」

「この手紙にお前の本当に言いたいことを書け」


ハンカチで涙を拭き、フーっと口で息を吐き出す。

"分かりました。ありがとう"と小さな笑顔を浮かべた。



「部屋に」

少女が呟くだけで、

庭のような場所が一気にどこかの部屋へと移った。


「ソファーに座って、そばにある本でも読んでてください」

絢斗は言われた通りソファーに座る。

そして気になる本を手に取り、読み始めた。


少女は近くにあるテーブルで手紙を書いている。


部屋には紙をめくる小さな音。

ペンで手紙を書いている音。


そして、小さく啜り泣く音だけが聞こえる。



◇◇◇



パタンと扉を閉める音が聞こえた。


絢斗は能力を使うところを人に見せたがらない。

理由は特にないらしい。

ただ人に見られたくないと前に言っていた。


伶琉は気を利かせ扉を閉じる。

元の席に戻り座る。


「少しだけ、あのままでお願いします」

目に少し正気が戻ったとしても、

依頼人に言葉が届くか分からない。


でも、これだけは伝えなければならないと思い伶琉は話す。


「きっと、絢斗は桜璃さんが書いた手紙を持って戻ってきます。

信じてもらえるかは分からないですがと付け足して言う。


不思議な能力を持っていること。

その事は依頼した時点で知っているのだろう。


しかし能力を使って、桜璃さんに会って書いてもらった。

と言っても大半は信じられないだろう。


書庵の泉屋に依頼して来る人も、

全てがすべて、信じているとは思わない。


「その手紙の内容を受け止める準備は大丈夫ですか」

その言葉を聞き、母親は、歯を強く噛み締めた。


「悲惨な内容がもしかしたら、書かれてあるかもしれません」

「…」

「受け止めきれない内容が書いてあるかもしれません。それでも…」


母親は決心したような顔を伶琉に向けて言った。


「はい、それでもいいです」


"どんな事実でも受け入れます"

そして自分と桜花のために一生懸命生きます。


それは、強く宣言するようだった。


伶琉は、思っていた。

依頼人は後を追うのではないかと。


しかし今の依頼人の言葉を聞き、

本当に大丈夫かもしれないと安心した。


よかったですと少し微笑む。


母親は立ち上がり、

近くにあったフォトフレームに入った写真を持ってきた。


「この写真を撮った時に約束した事を、思い出したんです」


母親はその時のことを話し始めた。


◆◆◆



5ヶ月前


ちょうど花見にいい季節だった。

その日は晴れていて、少し風が吹いている程度。

とても気持ちがいい気候だった。


私達3人は桜が咲いているスポットに行った。


桜の木をバックに写真を取ろうと思い、

どこがいいか悩んでいた。


突然、桜璃が言った。

「ねぇ、ママ。もしもの話ね」

「う、うん?どうしたの」


「もし私が、ママより早く天国に行っても、」

桜璃は母親の方を向き、"ママは生きてよ"と言った。


母親はもちろん驚いた。


娘が死んでも自分は生きろ?

何を言っているのか、言われたのか。


すぐには理解できなかった。

ただ戸惑った。


「え、どうしたのいきなり。何かあったの」

違うよと桜璃は否定した。


「ただ、ママってさ」

少し前にのんびりを足を進めるように歩く。


「自分のためでなく私達2人のために仕事したり家事したり」


それに

"生きてる気がしてね"


「そりゃ誰だって自分のためより、自分の大切な子供のために生きるでしょ」

「でもね、人生一度っきりだよ」

手を広げ、クルクルと回る。


「私達のために生きてるって、思ってくれる事は嬉しい」

「じゃあ、そんな事」


桜璃は母親の言葉を防ぐように。

被せるようにして言った。


「でもさ、自分のためにも生きてよ」


"()()()"桜璃は桜のような微笑みを浮かべた。


桜璃は桜花の名前を叫んで駆け寄る。

2人揃って楽しそうに写真を撮っている。


"自分のために生きる"


別に難しいことではない。

そう、言葉では別に難しいことは言ってない。


でも、()()()っていうのは…

()()()()()()

ことなんだ。


だって誰かを追うように、


()()()()()()()()()だっているのだから。



「ママー」

「マッマー」


"きーてー"


2人に呼ばれ小走りで近寄る。

真ん中に誘導され、3人で腕を組んだ。


桜璃はスマホを片手に、

こっち、こっちと視線を向ける。


"はい、ピクチャー"と言う声と同時。


"カシャッ"


シャッター音がなった。

笑顔に撮れたかは分からない。


でも、これは大切な思い出に変わりなかった。


◇◇◇



「ではお願いします」

「あぁ」

ブランコがあった場所に戻る。


少女の書いた絢斗に託す。

「生きるって決心してすぐに死ぬって、、、はぁ、もっと生きたかった」

ツーっと左目から涙が流れる。


「悔しいな」

「…そうか」

ポロポロと両目から涙を流す。


こういう時に思ってしまう。

伶琉なら気の利いた事の1つ2つ言えたのかもって。


少女の涙はとても美しかった。

能力を終了させる直前"ありがとう"と聞こえた。


目の色は元の藍色に戻る。


扉を開け椅子に腰掛けた。

「これは、娘さんからだ。信じてもらえるか分からないが…」

「ここまで、してもらったんです。もちろん信じています」



「僕達は、これで失礼しますね。内容も気になるでしょうから、ゆっくり読まれてください」

「あ、でも、、、」

2人は母親の言いたいことが分かったのか、歩いて帰るので気になさらずと伝え外に出る。

そして、事務所へと歩いて帰る。

道中、能力を長時間使いこなせない絢斗は、何度も瞬きを繰り返していた。


ーーー

ドアの閉まる音が聞こえた。

母親は少し緊張の眼差しを手紙に向ける。


母親は手紙を開ける、文字を見た途端、涙がツーっと流れる。

「あぁぁ、、桜璃。桜璃の字だ」

ゆっくり、一文字ずつ丁寧に読む。


ところどころ涙が滲んでいるところがあった。

桜璃も同じ気持ちだったのかもしれないと少し嬉しくも悲しくもあった。


最後の文字を読み終えた時、涙がボロボロと溢れ出る。

(頑張って、生きるから見守っててね)


子供のように、泣き疲れたのか。

母親はそのまま、テーブルで眠ってしまった。


少女は一瞬、透明の粒子のようにして現れる。

母親をの背中を抱きしめながら、一言。


"大好き、ありがとう"



そして、スーッと粒子のようにして消えていった。



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