真実を知りたい 弐の2
そんな時だった。
次女が中学2年生、長女が受験生になった。
「それからです。次女の様子が少しずつ…」
絢斗と伶琉は真剣に聞く。
それからの次女は色々とおかしかった。
長女と話している時、長女を見て心配そうな顔をしたり。
何もないところを一点に見つめ、ボーっとしていた。
何かを私に言いかけては。
『ごめん、ママ。やっぱりいいや』と言い無理に笑顔を作っていた。
沢山のおかしな事があった。
「なのに、なのに‥」
しかし、ちょうどその時期は、仕事の忙しい時期と被ったのだ。
仕事で新人が数名入ってきて、多忙の時期だった。
そのこともあり、家庭のことを疎かにしてしまった。
あのとき、もっと次女に話を聞いてれば。
もしかしたらこんな事には、なっていなかったのでは、と何度も考えた。
◇◇◇
「それだと、話が噛み合わない」
絢斗が直球で言った。
伶琉は無表情の絢斗に"表情、怖ーよ”と思いつつ、納得はする。
今の依頼人の話だと、今回の件とは関係ないと思われる。
次女の様子の変化。そして今回の長女の交通事故。
2つに関連性は感じられない。
「ごめんなさい、でももう、何から説明したらいいか分からなくて」
依頼人の口からは、言葉が出るように出ていた。
今すぐにでも、溢れ出そうなほどの涙も溜まっている。
近くにあったティッシュボックスを依頼人の前に差し出す。
「すみません」
そのティッシュを数枚取り、目の辺りを押さえ、言う。
「運転手さんの話では、長女が飛び出してきたと言っているらしいのです」
伶琉はそういうことかと、少し驚いた顔をした後
「故意に自動車の前に飛び出し、自分で死を選んだということですか?」
と聞き、そういう事らしいのですと依頼人は返す。
次は、次女なのかとも思ってしまうらしい。
長女と同じように、冷たくなった姿を‥と考えるだけで、涙が毎晩止まらないという。
『私、母親としてきちんとやれてるのかなって』、亡くなった日から毎日考えている。
泣いて、後悔してを繰り返す。
それに、もし運転手さんの話されていることが本当なら。
なんで長女は自分で命を落としたのか、その理由がずっと分からないという。
「私は。私は、母親失格、です」
依頼人目を見る。その目からは、光を失い欠けてる瞳が絢斗には見えた。
(これが、感情か)
伶琉は正直悩んでいた。
何を言っても、きっと今の依頼人には届かない。そんな気がした。
すると、突然だった。
「母親失格なのか俺達は知らないし、分からない。でも真実を知りたいのなら俺がその託けを担う」
母親は消えそうな声で、……真実、と呟いた。
「長女さんの部屋、失礼しても構わないか」
絢斗は尋ね、依頼人が頷いたのを確認する。
頷き方も小さかったが、絢斗の目にはちゃんと見えていた。
立ち上がり、お棺のある部屋に入る絢斗。
その姿を見送るような目で見る伶琉。
(少しずつ、変わってきている。子供の成長を見守っている気分だ)
伶琉は、少し遠くにいる絢斗の背中を眺めつつ、そう思った。
◇◇◇
少女の額に、手を当てる。
ドアが閉まる音が聞こえ、目を閉じ集中する。
瞼を開くと、瞳の色が真っ赤に変わる。
そして、長女の脳内をのぞくように赤の瞳で頭部を一点に見る。
すると、流れ込んでくる色々な出来事。
妹の生誕、父親が居た頃の仲睦まじい家族写真。
その他にも沢山の楽しい思い出がある。
ただ、そればかりではないのが現実だ。
父親が他の女性と腕を組み歩いている姿、両親が喧嘩している姿なども、見受けられた。
離婚後なのか、賃貸に引っ越す3人の姿がある。
母親がお弁当を作っていたり、姉妹2人で一緒に帰っている姿も。
すると、原因かもしれない姿が見えた。
集中的に能力を強める。
「ねぇ本松さん」
長女の苗字を呼ぶ女は明らかに面倒で厄介系だ。
「貴方のお父さん浮気してたんだって?それで今は、母子家庭なの?かわい、そ、う」
1人の女が教室の大勢がいる中、大きな声で言い放った。
(…休日とかケバい格好してそうだな)
だが、少女は全く動揺していなかった。
「そうですけど何か」
「ええ、可哀想〜、私だったら母子家庭なんて恥ずかしくて学校来れないよ!!」
桜璃はその話が本当にどうでもいいような顔をする。
実際、桜璃自身どうでも良かったのだと思われる。
何故なら‥
「そうですか」
と一言だけ返し、欠伸を堂々としていた。
そして、真顔でケバい女をみる。
女は、その様子が気に入らなかったようだ。
女は桜璃の綺麗な髪を、乱暴に掴む。
そういう態度が気に入らないんだよ!と強く大声で言い放った。
勿論、教室中に響き渡る。
「私より、毎回テストでも。運動でも。上で腹立つのよ」
「貴方より上で、ごめんなさいね」
桜璃はニコッと笑みを浮かべる。
その言葉と表情にムカついたようだった。
カッとなり、髪をもっと強く引っ張る。
「普通はね。私のような何にでも恵まれた人間だけが上に立っていいんだよ!」
「普通って。要するに貴方は私を妬んでるだけでしょ。しょーもない妬み」
女の頭の中には、"しょーもない妬み。"
という言葉が脳内で何度もリピートされていた。
数秒、女が固まっている間。
髪を引っ張る手が緩まる。
その時を狙って、髪を掴んでいる手を退かす。
そして、さいごに髪を後ろで整えた。
平手打ちをしてくるだろうと考え、すぐに立ち上がる。
案の定、頬に向かってくる手をうまく掴む。
「暴力でしか、晴らせないんですね」
その後すぐに、図書室へと向かった。
歩きながら、その目は校庭に咲いている花を写す。
しかし、本当に彼女の目には美しい花が見えていたのだろうか。
その次の日からだった。
クラスメイトからは除け者にされ、陰口を言われる。
両親が離婚する前からも変に絡まれていた。
そのためある程度の耐久性はあった。
しかし、主犯の女からは絡まれる回数が多くなる。
暇があれば、教師がいない場所で暴言を吐かれる。
教科書を隠されたり、物を汚されたり。
そんなのは日常だった。
雨の日の靴をわざと踏みつけられたり。
水道の飲水を少女の顔に掛けるなどと。
とても悲惨なものだった。
場所が変わり、ある廃ビルだった。
そこの屋上に少女が1人上っていた。
柵に座り両手で柵を握り、足をプラプラと動かしていた。
"死にたいな"と彼女は呟いていた。
すると彼女は晴天の空を見上げ、涙を流した。
ふと思った。
「なんで私が死ぬの。私、何にもも絶対悪くない。なのに、死ぬっておかしいじゃん」
考え直した少女は呟き続ける。
まるで、自分自身で本当は死ぬことを望んでいなかったように。
目に少しだけ正気が戻った気がした。
そして涙を止めようとするが、
「何してんのよ私。こんなところで、、、絶対に負けないって日記にも書いたばかりじゃん」
涙がスカートに溢れる。
深呼吸を繰り返し、自身を落ち着かせる。
そして、大丈夫だよと自分に言い聞かせている。
涙がある程度落ち着く程の時間が経過した頃だった。
プラプラと動かしていた右足の靴が脱げ落ちた。
「あっ」
落ちた場所が悪かった。
横断歩道の手前より少し中側に落ちている。
少女は、まずいと思ったのか慎重に柵を降りる。
できる限りの早足で階段を下る。
老朽化しているため階段を数段降りる度に、壊れそうな音がする。
廃ビルを抜け、車が近くを通ってないのを確認する。
横断歩道に落ちている靴を拾おうと近寄る。
そして、手を伸ばすと同時に車の音が聞こえる。
拾い上げた横断歩道を戻った方が近いと思い、すぐに戻ろうと振り返る。
本当に一瞬だった。
体に衝撃が走った。
少女は飲酒運転の車に、轢かれた。
その後、少女は衝撃で別車線側に飛ばされる。
そこで、ブロックに頭を強打した。
拾い上げた、靴は遠くに飛ばされていた。
少女は何が起きたのか、すぐには理解できいなかった。
目だけ動かし、状況を把握していた。
「そっか、轢かれたのか」
避けようにも、無理だったと思われる。
何故なら、車は中心を道路の中心を爆走させていたのだった。
ついに、限界が来たのか瞳が瞼によって隠される。
その前に一言
「ママ…桜花‥はぁ‥ぁ……ごめ…ん‥ね」
それだけ言い、目をつぶった。
少女が、この時に亡くなったのかは分からない。
もしかしたら病院までは心臓が動いていたのかもしれない。
その後車は、減速しながら歩行者側のブロックに乗り上げる。
そして、前に植えてある大きめの木に突っ込み停車。
少女は、自分で飛び出した訳ではなかったのだった。
◇◇◇
絢斗は少女の額に置いていた手を離す。
お棺横の床に横になり、そのまま目を閉じる。
相手の脳内に潜り込み、目を開ける。
能力を使って入り込んでいるため、目は赤いままだ。
天国とはと、叶えたような風景が広がる。
公園のような場所が広がっていた。
勿論、芝生で。
シーソー、滑り台、ブランコ、木のベンチ。
壮大な場所なのに、一角に遊具が固まっている。
少し先には、綺麗な制服を着た女の子がブランコを漕いでいた。
ゆっくりと、揺れている。
天国か。みなさんはどんな天国が理想なのでしょうね。