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遺言書 壱の3

◇◇◇


扉を閉じ、ベッドの端に座る。

右手でネックレスを握りしめ、深く息を吸い込む。


しばらく静寂に包まれた後、目を瞑る。

力を引き寄せるように静かに集中する。


数秒後、パッと目を開ける。

藍色の目から真っ赤な目に変わる。


その瞬間、空気が一瞬重く感じられる。

部屋の温度がわずかに変わったような気がした。


ネックレスに視線を移し、凝視する。

絢斗の脳内には依頼人のご両親達の沢山の思い出が見えてくる。



小さな子供たちが仲よさげに遊んでいる。

その様子を、夫婦は微笑ましそうな目で見ている。


他にも、依頼人の誕生日会の様子や、高校入学、部活の大会の応援、旅行の様子。

などと、とても笑顔で溢れていた。



ただ、いい思い出ばかりではない。


両親と兄が喧嘩している姿がある。口喧嘩のようだ。

その姿を、心配そうに覗き見ていた依頼人の姿。

『止めてよ…』


切り替わると、夫婦2人で一緒に料理している様子。

出来上がった品をタッパーに詰めている姿が見える。


そして、また切り替わる。

専門店でネクタイピンを選んでいる夫婦の姿。

2人はとても笑顔で、微笑ましい雰囲気が流れている。



他にも色んな記憶が流れてきた。


(これは違う、これも…これか。あった)


夫婦が机の両側に向かい合って座っている様子が見えた。

そして、何かを話していた。

2人の髪は白髪混じりで、歳を感じさせる。


『これから先、もしもの事があった時のために』

と夫は妻に言っている。

妻はそうねと返事し、悲しそうな笑顔を夫に向ける。


夫の手元には、遺言書と書いてある便箋がある。


それから数十分‥

2人は内容を書き、便箋に入れる。


その便箋を持って、写真が沢山貼ってある大きめの本に便箋を挟む夫の姿。


(アルバムか)


『ふ〜、書くだけなのに結構辛いわね。年を取れば別れが近づく。分かっていたのにな』

『そうだな』

『天国に行くまでには、あの子との仲を少しでも修復できたらな』

『心残りか』


妻が、泣きそうな震え声で、そうねと俯き言った。

気付いた夫は女性の隣に座り直す。

最後に見えたのは、互いに抱きしめ合っている姿だった。



藍色の目に戻り、パチパチと瞬き繰り返す。

能力終了を感じるように鼻で息を吐いた。


(親とは、あぁいうものなのか)


その後、依頼料金の請求書や置いてある場所。

絢斗が見た内容を、詳しく書いた紙を封筒に入れる。


そこには、絢斗の感情などは書かれていない。

ただ、絢斗自身が感じた夫婦の心情、言動などを書く。


それから10分程度で、部屋を出て1階へ降りた。



◇◇◇



同時刻


伶琉と依頼人は黙るのも気まずいと考え、適当な話をしていた。


「あの、白髪さんはなぜ上に?それにネックレスも」

依頼人は不思議そうに聞いてきた。


「白髪さんって、クㇰッ...」

伶琉は笑いを堪らえようと頑張った。

だが、堪えられず声が漏れてしまう。


「あ、あの、ごめんなさい。でもお名前まだ聞いていなくて」

「クフフ、、大丈夫ですよ。あとネックレスの事はご安心ください、盗みませんから」

「は、はい」


きちんとお返ししますので、心配しなくていいですよと安心させるように言う。

そして、未だに緊張している依頼人に、声を掛ける。

「大丈夫ですよ、リラックスリラックス」


それから数分後。少し緊張が取れたらしく、微笑む。

「ありがとうございます」


まだ少し時間があるから、適当に話そうと伶琉が提案。

「あ、そういえば名前ですね。僕の名前は葵蒼伶琉キソウ レイリュウで、白髪さんの名前は伯魏絢斗ハクギ アヤトです」


「葵蒼さんと、伯魏さんですね」

確認するように聞く。


「あの、ここって何が主に行われる場なのですか?」

不思議そうに辺りを見回す。


「建物も大きくて、外の窓から中が見えたんですけど本もあって、カウンターも」

"うーん、カフェって感じですか"と続けて話す。


そう思われても仕方ないですよねと、薄く微笑む。

しかし、伶琉自身もハッキリしたことが言えない。


(改めて考えると、なんというのが正解なのだろうか)


正直に、"特殊能力を使います"と言ってもよいのだろうか。

色々と頭を抱える。


「多分言っても信じてもらえないとは思うのですが、神力と、能力を使います」

「神力に、能力?」

伶琉は、はいと返す。


神力やこの場では、何を行うのか簡単に説明を始めた。


まず、神力というのは身体に纏っているものだのだ。

しかし、神力を持っている人は少ないのだ。


例え子供の頃に多少は持っていたとしても、成人までには消える。

そんな人が殆どだ。


「ほら、子供の頃はお化けが見えていたとかありますよね」

「あ~、たしかに!なんか聞きますよね。」

「それと似た感じです」


成人越してまで神力を持っている人は本当に希少なのだ。

また、神力の素質を持っている人でさえ、稀の存在だ。


次に、能力というのはこの世界で数人程度しか持ってない。

なにより、能力は人によって異なる。

そして、主には目に宿っている。


「絶対音感とかありますよね」

「うん、うん」

「能力もそんな感じです」


例えば絢斗の場合。

簡単に言うと亡くなった方の大切な思い出や重要な事柄など。

それらを脳内で見ることが出来る。


ただ、色々制限もある。

全てが全て、出来るわけではないのだ。


「す、すごい。信じられない」

依頼人は目を大きく開く。


そして、キラキラした目を伶琉に向ける。

両手を合わせ、口元を隠すように手を移動さる。


興奮した依頼人は、テーブルに勢いよく手を置き、体を前に出す。

「じゃあ、貴方も何か能力や神力というものを持っているのですか?」


伶琉はビクッとする。

「あ、まあ、、、透明になれるとかですかね」

と言うだけで依頼人は興奮する。


輝かせていた目をもっと輝かせて叫ぶ。

「うっひょー!」


興奮が頂点に達したのか、グルグル回ったり、ジャンプをしたり。

伶琉の目の前で踊っている。


数分前までの、緊張していた女性。

とは思えない程の変化だった。


今は、ワクワクや興奮が明らかに隠せてない様子だ。

絢斗をよくおちょくってる伶琉でさえ、依頼人の変貌に引き気味だ。


「あ、す、すみません。興奮が爆発してしまいました」

依頼人は我に返る。

少し顔を赤くし、絢斗が注いだ緑茶を飲み干す。


「いまの踊りは『興奮の舞』とでも名をつけましょうか」

伶琉は思わず笑みがこぼれる。


「忘れてください、興奮するといつもこうなので」

はうぅ〜と頬を手でモミモミする。

現実では、ほとんど存在し得ない事に興味があってと照れくさそうだ。



すると、上の階から階段を降りる音。

絢斗が降りてきた。


「この封筒の中に全て書いてあるし、入ってる。依頼の請求書は、郵便発送、手渡しどっちでも良い」

絢斗は手に持っていた封筒を渡し、依頼人はお礼を言う。

「分かりました。葵蒼さんも色々有難うございました。興奮の舞の件は忘れてください。」

頭を軽く下げ、伶琉は分かりましたと微笑む。


依頼人は扉を開け、鈴の音が店中に響き渡った。

外から見る『書庵の泉屋』は、不思議な雰囲気を纏ってる。

そんな感じの建物だ。


なんだか妙に、心が癒される。そんな空間だった。

そう思いつつ、バス停まで行き、バスが来るのを待った。



◇◇◇



それから、3日後


書庵の泉屋に郵便物が送られてきた。

そこには依頼料金と、手紙が入っていた。


手紙には御礼の言葉が書いてあった。"感謝している"と。


また両親が他界して以来初めて、長男がお墓参り来たらしい。

そして長男のネクタイには、両親が誕生日プレゼントとして最後に贈ったネクタイピンを留めていた。


と書いてあった。


2人は手紙を読み、伶琉は少し微笑ましく思った。

(良かったですね)


◇◇◇


「大きくなったんだね」


ボードのような物に、写真を貼っている。

そこには、絢斗だけでなく伶琉の写真も。

1人暗闇で呟く。


ニタニタと笑い、自分の目に手を覆うように当てる。

「もう少しで、オレのものだ」

そう言い、ダーツのチップを写真の絢斗目掛けて刺す。


しかし、ズレた。ただのボードに刺さる。

チっと舌打ちをし、片手に持っていたナイフ。


そのナイフで、ボードごと刻む。

何回も、何十回も。


そして、刻まれた写真だけを適当に触り一言。

『愛してるよ』


その言葉は、悪意に満ち溢れていた。


今はまだ、ファンタジー要素ほとんどないなー、つまんないな~と思う方もいると思います。

しかし、3話目にはある動物が神獣として登場する予定です。これから少しずつ面白くしていきますね。


それと壱は、よく読んでおくことで、ちょっとした謎が後々解けるかもです。

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