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死ぬと言われた日

 僕が魔力測定を受けた翌日。


 屋敷の近く水辺で母に抱かれ元気よく泣いていた僕の様態が急変した。


 この症状に見覚えがある両親は急いで体内の魔力量を測ることの出来る魔導具があるライン王国の首都フリーデへ向かった。


 そこで、再度詳細な魔力測定が行われることになり、その結果。


 診断結果を聞いた両親は僕の未来の為、赤子だった僕をじいちゃんに託したらしい。


 この話をするじいちゃんの表情からして、難しい問題ということは、幼い僕でも理解できた。


 でも、僕はまだその魔力欠乏症という意味も言葉さえも知らない。


 知ることは怖い。


 だが、このままでは前に進むこともできない。


「――じいちゃん、魔力欠乏症って、なに……?」


「すまん、そうじゃな。まずは、そこからじゃな……」


 じいちゃんは頭を下げ目をまっすぐと見つめて説明をしてくれた。


 説明によると魔力欠乏症というものは、体内で作られる魔力が極端に少なくなり、自由に魔法を使えなくなってしまう病気のようだ。


 その魔力量は普通の人と比べ三分の一にくらいになるとのこと。


 だが、無理に魔法を使わなければ、そのほとんどが大事に至ることはない。


 でも、僕の場合はそう簡単に済む話じゃなかった。


 それは僕の属性が()()()だからだ。


 この世界に存在するものには、少しずつ魔力が宿っており、それは生物の根幹ともいえる水も例外ではなく魔力を含んでいる。


 その影響なのか、何なのかはまだわかってはいないが、水属性のみが川や海などに存在する魔力と共鳴し、自分の意思とは関係なく、体内にある魔力が外へ漏れ出してしまうのだ。


 これが厄介で、この症状で失われた魔力は漏れ出す魔力を止めない限り回復することはなく、このまま何もしないで過ごすと、七~八年で魔力が枯渇し死を迎えるらしい。


 一番手っ取り早い解決方法は、全く水のない場所に行くこと。


 だが、この自然豊かな世界にそんな場所などない。


 つまり、どうすることも出来ないのだ。


 この話を聞いて幼い僕でもわかった。


 残された時間が少ない我が子を思って、じいちゃんに僕を託したのだと。


 本当に残酷だ。


 薄々気付いてはいた。


 平民ではなく、男爵家に生まれた。


 だというのに立派な屋敷に住まず、荷馬車を馬一頭で引き各地を転々とする。


 町に立ち寄ったと思えば、扉の建付けがいまひとつで、寝返りを打つだけでギシギシと鳴るうるさいベッドが置かれた宿屋に泊まる。


 宿泊費が足らなくなれば、宿屋を出てその辺で野宿し、じいちゃんが冒険者ギルドで受けてきた採取クエストを一緒にこなす毎日。


 何か特殊な事情がなければ、ありえない。

 

 でも、まさか自分の生死が掛かっている問題だなんて思いもしなかった。


「なんで、僕がこんな目に……」


 じいちゃんはその声を聞き逃さなかった。

 

 そんなどうしようもない事実に絶望していると肩を強く叩いた。


「……よいか? リズよ! 理不尽な世界を変えたいなら、まず自分を変えるしかない! それ以外は何も変えることは出来ん!」


 僕を見つめるじいちゃんの瞳には力が宿っていた。


 何も諦めていない強い眼差し。


 それでも、いくらじいちゃんに断言されても、僕は前向きになれずにいた。


「でも、どうしたらいいかわかんないよ……」


 ショックはショックだ。


 ただ、いきなりじいちゃんの口から死ぬかも知れないと言われても実感が湧かない。


 現に今の僕には年相応の体力もあり、日常生活で何かに困ることもない。


 だから、わからないのだ。

 

 こうやって思い悩む様子が気になったのか、じいちゃんは大きな手で肩を掴んできた。


「任せろ! お主にはこのワシがついておる!」


 じゃが、変わるか否かはお主自身にかかっておるのも事実じゃ。


 もしかしたら、このワシの手をとったことを後悔するやもしれん。


 それでも、この理不尽を変えたいなら、ワシの手をとるがよい!」


 手を差し伸べてくれているじいちゃん目には僕が映っていた。


 まだ何も起きていないのに弱気になり、卑屈になって、じいちゃんの手を握ることもできない弱い自分が。


 そんな弱々しい姿を見て思った。


 もし仮にじいちゃんの手を取らなくても、じいちゃんは責めることはないだろう。


 きっと、何も変わることなく寿命を迎えるその日まで笑顔を向けてくれる。


 だが、それではそんな事を選択してしまったら、今目の前で自分の事を信じ手を差し伸べてくれているじいちゃんを裏切ることになる。


 じいちゃんは僕を信じているからこそ、この理不尽な真実を明かしてくれた。


 じゃあ答えは決まっている。


 この目の前にある大きな手を信じ抜くことしかない。


 だから、じいちゃんの大きな手を強く掴み叫んだ。


「じ、じいちゃん! 僕、自分を変えたい!」


「ガハハハッ! さすが我が孫じゃ! ではいくかのう!」


「うん!」


 そして、僕は豪快に笑うじいちゃんとそんな僕らを見守るスレイプニル(馬)と自分を変える為に改めて旅をすることを誓った。


 あの時、じいちゃんの目に映った弱気な自分を、卑屈な自分を。


 今の自分の全てを変える為に。

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