勇者と魔王
遥か昔、魔族、エルフ族と人族、ドワーフ族、獣人族が争いを繰り広げ世界には五つの国があった頃。
それぞれの国は度重なる戦により、民は疲弊し、土地は荒れ、飢餓に苦しむ人々が続出していた。
争いの理由は、魔王が持っていた巨大な魔石が原因だった。
魔石は人と変わらないくらいの大きさで莫大な魔力を秘めており、魔石の魔力を利用すれば、世界のあり方すら変えられる物。
ところが、ある事をきっかけに事態が動き出す。
それは今まで王として君臨し続けていた魔族の王が代替わりと同時に、当時王子で勇者一行と世直しの旅に出ていたロイ・ラインハルト王子の耳に魔族が何かを画策していることが舞い込んできたのだ。
その計画は新たな魔族の国の王が膨大な魔力の宿った魔石を使い他国へ侵略するものだった。
この事を重大な事柄と捉えたロイ王子は、すぐさま国王に進言した。
”このままでは我が国はおろか他国まで侵略される”と。
その鬼気迫る王子の表情と話を聞いた王は他国の王と連絡をとり、魔族との全面戦争を持ちかけた。
そんな一触即発の事態の最中。
王子が妙案を出す。
それは各国の代表を決め、一騎打ちによって勝敗を決めるという案。
初めこそ、この保守的な案に乗り気でなかった各国の王達だったが、長年の冷戦状態のせいで飢餓や国力の低下を無視出来なくなっており王子の案に賛同せざるおえなかった。
そして、それは魔王の治める魔族の国も例外ではなく、王子の案に乗じることになった。
その一ヶ月後。
魔族の国、エルフの国、獣人の国、ドワーフの国、人族の国による六カ国の王の取り決めにより、各国の代表と魔王率いる幹部の一騎打ちが行われることなった。
人族からは、蒼炎の使い手である片田舎町出身の青年。
最強剣術と謳われる二大流派の一つであるオトノハ流の使い手。
この一騎討ちの見届け人であるロイ王子。
エルフの国からは、氷魔法の使い手である女性。
獣人の国からは紫電を使う珍しい種族の女性。
風魔法を得意とする鬼人とエルフのハーフである女性。
中立の立場であったドワーフの国から双方へ武器の提供がされた。
対して、魔族側は空間魔法を使う魔王。
真紅の魔法の使い手である魔族。
闇魔法の使い手である魔族。
回復魔法と肉弾戦が得意な魔族。
短剣の名手と双剣の名手である二人の魔族。
実力も人数もほとんど差のない両者の戦いは熾烈を極める。
魔法を使用し、何度も空を駆け、ぶつかる度に雲を切り裂き、大陸に轟音を響かせた。
それは三日三晩に及び、戦いの地は地面が割れ地形が変わり、天候すらも変わっていった。
この命を使い切るような死闘の果てに一人、また一人と命を散らしていき。
最後には魔王と勇者の二人となった。
勇者は自身の持てる全てを魔王にぶつけ、魔王の持っていた魔石を破壊することに成功する。
だが、勇者はその全て出し尽くした反動で命を落とした。
また、同じく勇者の凄まじい一撃を貰った魔王も無事では済まず、勇者に遅れること数秒後。
その命を散らした。
この戦いの見届け人として全てを目にした王子は、一念発起し、国戻ると争いを招くような思想を持つ貴族を排除した。
そして、魔族領と人族の領を統一した新しい国を建国する。
その名もライン王国。
魔族も人族もどの種族であっても争うことを禁じ、平等に扱うことを謳った初の多民族国家。
これがこの世界で語られる実話に基づいた【勇者と魔王】という有名な物語。
☆☆☆
そこから五十年後の世界。
五つから四つに変わった国々は争うことなく、それぞれの文化を築いていた。
北から陸の孤島であり、魔力の循環させる世界樹を有するエルフの国ドレイン王国、ドレイン王国から海を挟み南に位置するドワーフの国であるアイアン。
その東側に隣接し、勇者一行と魔王軍の戦いによって、魔族を擁する初の多民族国家となったライン王国。
ライン王国の東側に位置する獣人の国、アルフレザというように。
そんな平和となった世界で、黒髪に灰色の瞳。
左目に眼帯をしたヴァートリー男爵家嫡男リズ・ヴァートリーが祖父のゴードン・ヴァートリーとスレイプニル(馬)と旅をしていた。
彼の将来の夢は、勇者のように何か大きなこと成すこと。そして、さまざまな世界を見て回ることだ。
その彼が六歳となったある日、祖父であるゴードンから生まれた日を打ち明けられようとしていた。