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おいしいです!

作者: 美亜ナリヤ

 ポカポカと今日はとてもいいお天気です。いつもは大変な境内のお掃除も、これだけ陽気なお日様の下ならなんだかとても気持ちいいです。暑い夏とお別れしてからは、ここ最近涼しい秋がひょっこり顔をのぞかせたりしていましたが、今日はちょっぴり夏の名残を感じます。

 そんなことを考えながら竹ボウキで参道の落ち葉ををパッパと掃いていますと、突然頭の中で、響く様な声が聴こえました。

『佐奈。今日はとてもいい天気ですね』

 神様の声です。神様と言っても、私が巫女を務めているこの双蛇神社で祀っています蛇神様です。双蛇神社はこの双蛇町の名前の由来にもなった由緒ある神社であり、祀られている神様もご近所の皆さんの間ではそれなりに有名だったりします。そのお姿は名が示す通り二つの頭を持つ、それはそれはとても雄々しい蛇の姿です。でもそんな仰々しいお姿とは対照的に、実はとてものんびり屋さんなのです。

「はい。とてもいいお天気です。お布団を干しておいたので、今夜はふかふかの中で眠れそうです」

 それはとても素敵ですね、と神様は言いました。それに私は、はい、とても楽しみです、と返しました。お日様をいっぱい浴びたお布団はとてもいい匂いがして、ぐっすり眠れるのです。

 境内のお掃除が終わりました。少し一休みをしましょう。淹れたてのお茶とお菓子をお盆に乗せて本殿の中に入ります。見上げるほど大きな黄金色の御神体に、持ってきたお饅頭をお供えしました。そしてご神体と向き合うように座って私もパクリとお菓子を食べてお茶を飲みます。餡子の上品な甘さとお茶のまろやかな渋みがお口の中で仲良く混じり合って、私は天にも昇る気分です。

『ふふふ、とても幸せそうですね佐奈。そんなに美味しいですか?』

 神様がまた頭の中に語りかけてきます。

「すっごく美味しいです! このお茶菓子はよく参拝に来られるお婆さんがくれたお菓子なのですよ」

『ほう。そうですか。それはよかったですね』

「私、あのお婆さん、大好きです!」

 佐奈は現金ですね、と神様がくすくす笑い、私もえへへと照れ笑いをしてしまいました。こういう風にのんびりとした時間を過ごしていますと、とても穏やかに気持ちになってしまいます。

『……でも、最近はめっきり参拝客が減ってしまいましたね』

 神様が突然ため息交じりにそう言いました。

「神様、やっぱりつらいのですか?」

『こういう風にゆっくりできるので、そう悪い気はしないのですが、神の性質上、やはり信仰者の数が少ないとどうも力が抜けるというか、調子が出ないのです』

 人間で言うと風邪をひいた時のような感じなのでしょうか。それはとてもつらそうです。

『それに参拝客が少なくなればお賽銭だって少なくなるのですから、佐奈のご飯だって危ないのですよ』

「わ、私、ご飯食べられなくなっちゃいますか!?」

『さすがにそこまでは言いませんが……。まあ、多少はわびしい思いもするかもしれません』

 ご飯が食べられないのはとても大変なことです。なんとしてでもたくさんの人にお参りに来てもらわないといけません。

「神様、どうしたらいっぱいの人に来てもらえるのでしょうか」

『それが分かったら苦労はしないのですが、あいにく私にも思いつきません』

 神様でも分からないものが私に思いつくでしょうか。あまり得意ではないのですが、頭の中をギュンギュン回して考えを絞り出そうとします。

「……ビラ配りをするのはどうでしょうか? それとも、お店が新しくできた時によく空に浮かんでいるあの風船みたいなのを飛ばしてみるとか」

『アドバルーンですか? さすがにそれはどうかと思います……。ビラの方もそこまで効果は望めそうにありませんね』

「私、一生懸命に配りますよ!」

『うーん、佐奈は可愛らしいですから皆さん喜んでビラを受け取ってくれるとは思いますが、実際にそれを見てここまで足を運んでくれるかというと、それは難しいと思い――いや、ちょっと待ってください』

 神様が言葉の途中で何やら考えこんでしまいました。

「神様、何かいい考えが浮かんだのですか?」

『……いいかどうかは分かりませんが、ちょっとだけ心当たりがあります』

「どんな方法ですか?」

『これは、この前私の友人の神様から聞いたお話なのですが――』



 境内の中は今日も人でいっぱいです。あれから参拝する方がたくさんいらっしゃるようになり、双蛇神社はとても賑やかになりました。なんと県外からはるばる来られる人も少なくないのです。とてもビックリです。

そして、なんとお年寄りの方以外にも、若いお兄さん達がたくさん参拝しに来てくれています。そのお兄さん達は、デフォルメ化された、二つの頭を持つクリクリお目目の可愛らしい蛇と、その上に乗った巫女の女の子のイラストがプリントされた絵馬をよく買っていってくれます。おかげで私はお腹いっぱいご飯を食べることができています。これも神様のアイデアと、町おこしの一環として町のHPで華やかに宣伝をしてくれるなど、積極的に協力してくれた町内会の皆さんのお陰です。

 そして何よりも、アニメキャラでのPRを精力的に行って参拝客をたくさん増やしたことを教えてくれた、他の神社の神様には大感謝です!


別に他意は無いですよ。

一言でも結構ですから、感想を貰えると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後の展開には笑いましたが、とてもほのぼのとしたお話しで、和みました^^
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