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ノルンの再葬  作者: 草原の芦
ペイントジアイデア編
8/9

リ(ロード) part.2

あんなに騒ぎ立ててたあの娘の声も聞こえなくなった。

轟音を伴う何かに私は殺されてしまったのだろう。

大樹だの結界だの異能だの何だの目まぐるしく狂ってゆくこの市での被害者の一人になる、私だけはありえないなんてありえなかった。




貴方に会ってお腹の子の事を謝りたかったな。

















不自然に停止した車が今度はゆっくり後進し始めた、巻き込まれない大袈裟に逃げ回っていると突如、静電気に集音マイクを充てた様な一瞬ながら鼓膜を破る様な音が後ろから鳴った。

誰もが耳を塞ぐ程の爆音だがブランは何をするでも無くただ膝から崩れ落ちて物言わない女子を下敷きに仰向けになって倒れた。


「お姉ちゃん?お姉ちゃん?!」


迷わず彼女の元へ駆けようとしたが父のうざったい声が脳に響く。


ーー焦るな、電気ショックにより心停止してるがキララの『改造』ならまだ二人とも何とかなる、それより今迂闊に近寄るな、騒ぐな、そこで大人しくしてろ。


お姉ちゃんが倒れてるってのにどうして二人は冷静でいられるんだと怒りが漏れそうになったが、知らない息遣いが私にも聞こえて勇み足を止めた。

音の鳴った方を車窓越しで覗くと小太りのおばさんが息を切らしながら汗を拭っていた、弛んだ顔つきに爽やかなワンピースはゴスロリよりキツいギャップなのは置いといてアイツから見て私はミニバン?の向こうの車に隠れているのでそうそう見つからないはず。


「やっと仕留めた二人前、元々奪われたディナーを取り返したのだから魚を咥えたドラ猫を仕留めたみたいな感じか?」


汗を拭ったのと反対側、此方へ突き付けている腕は見える限り皮膚が赤く変貌している、そこから蒸気が止めどなく放出されており反動の強い必殺技を撃ったヒーローの様な印象を持った、その正義は私達に益か害かは問うまでも無い。


「なぁバアさん、何のつも・・」


キララがおばさんに問い掛けようとしていたが突如その口を閉じてしまった、むーむーと口を閉じつつ叫んでいるのを見るにギフトによる不思議な力で沈黙を強制されている様だ。


「脳味噌はマスト、頭頂部から穴を開けてスイカみたいに丸齧り、内側の壁に付いたのも前歯でこそぎ落として食べてこそグルメってもんでしょ」


独り言がうるさいグルメおばさんは派手な色をしたバッグから大工で使うドリル工具を取り出して倒れている二人の元へ歩み寄って行く。


「脳味噌をってテメェ狂っ!?ム、ムググヌッ!」


その工具には血が付いておりそれで何を企んでいるかは明白、大人二人が立ちはだかろうとするのを見て私も交番で見つけた拳銃『桜』を手に持って駆け出そうとしたが


「あのねぇ・・私話したく無いから無視してんの、ちょちょ、っと黙っててくれない?今腕がズキズキしてムカついてんの、ああのババアが当たり能力を持ってなかったらお前ら全員黒焦げだかんな?」


明後日の方向に工具を投げつけては吃りながら苛立たしそうに頭を掻くグルメ女が走り出した二人を直視した途端、ビデオを停止させた様にピタリと固めてしまった。それを見て足がすくんだのを誤魔化す様に二歩下がった。


ーー俺とキララさんの身体が動かん、お前はどうなんだ?


ーー車で隠れてるからか私は普通に動けるけど下手に動けば私も木偶の坊になる。それとババアの能力が当たりってのちょっと気になる。


父には平然を装ったものの、どうせ知った風な口を聞いてくるだろう。


「あ、あの・・一つお聞きしたい事があるのですが・・」


テレパシーの蚊帳の外だったキララさんがたった今私達に害を成しているグルメ女に尋ね始めた・・なんで声を出せるし動けているんだ?まだ術中に嵌ってるはずなのに。


「貴方様の仰ったババアと言うのは一体何方の事でしょうか?」


「誰って決まってるじゃない、あの古臭い老害校長の事よアンタらも見れたんじゃないの、彼奴の脳味噌が弾け飛んだ瞬間をさぁ?」


とても人を人と思ってない様な発言に虫唾が走る、不快感が喉元にまで込み上げてくるのにキララさんはあくまで人当たりの良い態度を続けている。


「オス猿が一人たりとも消えたあの日、私は大樹の遣いから選ばれし者としての天啓を受け聖なる施しを授かった事で人の脳味噌を食べるとその人が授かった神通力を使う事が出来る様になったの」


聖なる施しとはギフトの事だろう、こんな見てられない頭をした奴に後先考えずに夢を与えた馬鹿は誰だ。


「さっきも食べたら今度は念じるだけで金縛りを起こせる様になったわ、この力は凡人には持ち腐れるだけだから貴方もそこの白衣もあそこの女二人もその車に積んだ死体の脳味噌も残さず食べてあげる!これで私は最強!私だけが最強!」


食人なんてウミガメのスープでしか聞いた事は無かったし嬉々として語られるとこんな鳥肌が立つとは思わなかった。


ーー校長先生のギフトを盗んでいる訳か、あの人の性格が俺とキララさんの思う通りなら何とかなるかもしれん、今回はまだ視認されていないお前が重要だ、俺が指示を出すまで待機してくれ、それで・・


ーー悪いがあの能力を打破するにはこれしか無いんだ、頼むぞ。


父さんから提示された作戦に賛同し『桜』をポケットの中のホルスターに仕舞い息を殺してその時を待つ事にした。


「成程、丁寧な説明で有り難いです・・しかし、私としては一つ不可解な点がございます、聞いた所手に入れた能力は対象の動きを封じるだけに過ぎない・・それを使い‘こなす’と仰るには何か訳があるのでは無いのか、と」


背筋を伸ばしたキララはジェスチャーを交えてとても聞き取りやすい言葉を発し続ける。


「先程私の動きを封じられましたがこの様に敬語を使ったりピシッとした姿勢を取るとある程度動けたり喋れる様になりました、更に先程模範的な手順を省略してカーブをしようとした車が急停止したものの運転手が変わると再び動き始めた・・つまりこの金縛りの条件は規則やマナーの違反ですね?」


丁寧さ余って憎さ百倍とも言うべきか、図星と顔に書かれた様な表情の女の赤く茹で上がった腕がシュウゥと音を立てて一際赤く染まってゆく、目に見える程の静電気が迸るその赤腕をキララに立てた。


「別に探偵ごっこをするの勝手だけどさ!・・私にはさ金縛り以外にも普通に殺す手段がある事も忘れてるよね?」


「忘れてなどおりません、ただその一撃よりも先に私が貴方を打倒する方が早いだけです」


ーー頼むぞ我が愛娘!思いっきり拳に乗せろ!


何処か仰々しい父親に拍車を掛けられながら車の背から身を明かすと女が私を認識して金縛りを掛けるよりも早く拳を振り下ろした!


「か、覚悟ォッ!」


「ッ゛グッ・・」


それは腹筋で耐える事すら金縛りでままならない父さんの下腹部を凹ませる程の拳だった。


「は?このガキ馬鹿なの?なんで味方の腹を殴ってんの?折角隠れて逃げるチャンスあったのに棒に振ってやる事それなの?無能にも程があるでしょ?」


拳に伝わる生温かい感触、私は役割を全うした。後は校長先生が生真面目な性格であった事を祈るまでだ。

振り返って目を丸めたキララさんは再び畏まった口調で語り掛けた、少し内股気味で。


「ところで、使い‘こなす’の話の続きですが規則やマナー、ましては法律に違反した場合、何らかの処罰があるのが定石だと思うのです、もしその処罰のコストを貴方が支払うものだったとすればどうなると思います?」


「は?別にこのガキには金縛りなんて掛けてないけど・・・え?」


私は私の身体で隠れていた父さんの下半身を見せ付けた、下腹部から大きなシミが出来ていてそれがアスファルトまで続いて水溜まりを作っていた。


「え、お漏らし・・え?」


「おやおや、公然で失禁をするなんて周りに迷惑が掛かってしまいます・・ああなんと!人の腕にまで飛び散ってしまっているではありませんか!公然猥褻罪は勿論、この子のお気に入りの黒いパーカーに粗相が掛かったので器物破損罪が適用されます更に更に・・」


「ちょっ待てよ!このガキが殴ったからこんな事になったんなら別に、別に?別に・・・」


異議申し立てる女の口の隙間や鼻の穴から血がたらたらと流れ始めた。


「重要なのは貴方の意見ではなくこの子が不快に思ったかどうかですよ、どうですかベレー」


「これ、ママが誕生日にくれた大好きなパーカーだったんだよ!それをこんな風に汚しちゃって・・こんな奴有罪にしちゃえよ!」


校長と同じ末路を辿りそうな女の背中を押す様にトドメの一言を叫んだ。


「ふゔぁべぼぼぼぼぼぼぼおぅごぉ゛ッ!」


悪態の一つも吐けずに喉を掻き毟る様に抑えながらグルメ女は口と鼻の穴から大量の血を吐き出した、ダムが決壊した様に溢れ出る体液の中に飛び散った細切れで黒く焦げた肉の塊は熱したフライパンに水を掛けた様な音を立てて蒸気を発している。キララさん曰く焼き切れた校長先生の脳の破片らしい。


「ぉ゛ぉ゛っ!っっお゛っ!お゛お゛お゛お゛お゛お゛」


それだけであの女の不運は終わらなかった。

水溜りになる程の吐血をして尚止まらない嘔吐に体が耐え切れず膝から崩れ落ち四つん這いになってしまった。

その腕には赤く湯立つ程に貯めた電気エネルギー、血の池を通してエネルギーが大地に流れてゆく過程で制御が効かなくなったソレは電流として身体を駆け巡り焼いてゆく。

感電と言う日常では中々起きない事故を要因全て自分で集めてその身に刻んだ女の身体は声帯が震えた様な音と共にビクビクっと気持ち悪く身振るった後動かなくなった。


「おお動く、動く」


事が済んだ後、神通力が解けたのを四肢を動かして確認した父は躊躇う事なくズボンと男物の下着を脱ぎ捨ててソレの痕を隠す様に丈が膝まである白衣のボタンを閉めた。


「終わったな、ブランと女学生の治療を急ごう」


いつの間にかⅡの字で倒れているお姉ちゃん達の治療が始まった、そして終わった。

『改造』の力を込めた両手が各々の身体に服の焼けた部分から突っ込んで触れただけで火傷痕と思われるものが全て消えた、裾から覗いた私が言うのだから間違いない。

暇がある時にその御手で小水臭くて脱いだこのパーカーを綺麗にして欲しいと頼みたい。


「追手は片付いたけどこの後どうしますか?暫く市役所には戻らずに病院に立て篭もるのも手ですよ」 


「いや、ひとまず市役所に戻ろう」


溜め息を吐く父と私の気持ちは同じだろう、キララさんは血気盛んで保身に走りたい私達とは気が合わない、ただこの人以外に強くて頼れる存在はそうそう居ないので付いていくしかない。

全ての窓を開けても腐った臭いが滞留しているミニバン?にまだ意識が戻らない二人と一緒に乗り発進すると思ったが、ピンポンパンポーンと言う音が重なって聞こえた。車は停止。

市内放送、そこら中にある専用スピーカーから流れていて鬱陶しく反芻する。

いつもなら行方不明の高齢者の捜索願いか光化学スモッグ警報だが最近は市役所に集まる様に催促する放送ばかりである。


[此方は自警団本部です・・・市役所への避難に関するお知らせです]


[現在、市内にて天檻樹に授けられた力による通り魔殺人が相次いでいます・・・警備が厳重な自警団本部のある市役所まで避難をお願いします]


[彼らは残忍かつ強力です、パトロールを行っていた団員の内8名と連絡が取れていません・・・自分だけは助かると言う甘い考えは捨てて下さい・・・繰り返しお伝えします]


いつも同じ言葉の繰り返しだったが団員の被害状況を報告するのは初めてだ、ギフトを使えるであろう団員が8人も被害に遭ったのか・・・ん?


「納体袋の数、あ、でも7人分しか無いから違うかな・・私達を襲ったり他の人達を殺して来たのが自警団の人達だって説は」


「・・・・第二中学校を出て市役所へ向かう途中に対峙した奴は損傷が激しいから回収しなかった、それが八人目」


「・・仮に私達を襲って来た奴等の正体が自警団だとしてその目的は何なの?」


「その鍵は自警団本拠地である市役所付近での殺人は一切行われていない事にあると思う」


ーー確かに無差別にせよ怨恨にせよ市内放送のおかげで人がそれなりに集まっている市役所を先ず狙った方が成果が出るな。


あぁ確かにそうかも。


「市内放送通りにせず学校や公共施設に避難した人達は何人か殺されているが市役所への被害は聞いていない、もし市役所に被害があればライファはその事を真っ先に私に相談するだろうからな」


「つまり自警団はこの檻の中の人間が市役所に集結する様に企んでて追い込み役が此奴等だったって事?」


道中そこらに亡骸が転がってばかりで自宅と言う絶対領域すら侵されかねない環境。

インターネットやテレビやラジオまで停止し情報源が無い混乱の最中に放送で市役所に来る様に喋られ続けたら誰かは来るだろう。


「動機は不明だし証拠も無いから当てずっぽうに過ぎない、だが市役所が安全なの事実だろうから此処は一度市役所に戻るべきだ」


その言葉と共にキララさんは車を発進させる様に父に命じた。

今、私の喉元まで出掛かっている言葉、ルームミラー越しの父の表情からしてお互い同じモノを喉元で押し込もうとしていたが


ーーそれを最初に言え!ハルが呟かなかったらお前の思惑誰も分からなかったぞ!この口足らずがよ!


私を受け皿にするのはやめて欲しい、一応父親なんだから。






























「とまぁ色々あってお姉ちゃんは私と女学生さんとで新しい車で川の字になって寝てたんだ」


目を覚ますとクーラーの効いた車の中、デジャヴを感じながら上体を起こそうとしたが左腕に伝わる温もりに気付き私の腕を抱き枕の様に扱っていたベレーをデコピンで目覚めさせ此処に至るまで状況を説明させた・・この娘が新品の黒ワイシャツでズボンを脱いでスパッツを露わにしてるのってそういう事なの?

今キララ達は校長先生が死んだ事や今まで殺してきた人間のシュキュウ?について自警団設立者達と話し合ってるらしい。

校長に助けてもらった子はベレーの向こう側でじきに目を醒ますとの事。


「良かった、生きてて良かった」


小さく呟いたベレーは私の心音に耳を傾ける様に顔をこの胸に埋めた、両手を背に回して抱きしめる形にもなっている。普段の生意気な態度と裏腹な顔を覗いてやろうにもベレー帽が邪魔で見えない、こんな時にでも被るのか。

しかしこの娘お風呂に入らず寝た割には汗臭はおろか清潔な香りまでする。


「ちょっ、いきなり何!首筋くすぐったいよ!」


「シャンプーの匂いだね、とても良い匂い・・うらやましいなぁ」


「ああもう、その事は謝るって・・ほらボディシート上げるからそれで身体拭いて」


帽子の頭頂から出て来たメタリックピンクの袋から真っ白く冷たいシートを二枚取り出して両手に持ち一方で首筋を撫でた後の色の変わり具合を見て絶句した、そんな私の背にいつの間にか回り込んで目を丸くしている小娘は何故コレを見ようと思ったのか。


「そんな見るもんじゃないよ」


「いや背に隠れただけ、歳が近いの苦手なんだよね」


視線の先はシートの汚れ具合では無く今し方意識を取り戻して上体をゆっくりと腕で起こした女学生だった。

背中を覆う程の後髪を座面に垂らす彼女は私達の姿を一瞥するだけで止まり視線を外の景色へ集中させた。


「此処は、市役所?」


久し振りに言葉を発したからか弱々しく掠れた声色でボソリと呟いたと思えば後部座席の溝、普通は足を置くところにすっぽり嵌ってしまった。


「嫌だ、殺される、殺される・・」


小動物が牙を向いた捕食者に怯える様な印象を受けるが市役所に居ると殺されると思っているらしい。


「お姉さんは誰に殺されちゃうの?少なくとも私達はお姉さんを殺さないから落ち着いて欲しいなぁ」


うつ伏せになり溝の中の少女と同じ頭の位置でベレーは話し合いを提案した、怯える少女は此方と目を合わせないが深呼吸を始めた。埃っぽいからこっちに来ようと優しい手引きも無視して彼女は口を開いた。


「私は、私は・・」


「ゆっくりで良いからね・・わわっ?!」


少女の不安に寄り添う言葉を掛けるベレーは直後、溝の中へ滑り落ちてしまった。そこそこ痛そうな音を立てて床と激突したあの娘に同情した、が、あの位置で身体が滑る訳を理解したその時


「女!車を出せ!」


大人しい見た目とは裏腹のドスの効いた声で少女は叫んだ、その顔は焦りや恐怖に歪んだソレに近く、悪意を以て私達を殺そうとした筋肉女とは程遠いものだった。


「このチビがどうなっても良いの!早く運転席に来て車を出して!」


「けほ、お゛おっ・・なんで」


首根っこを掴まれて溝から引き摺り出されたベレーは埃で咽込んでいる、同時に急に自身を床に叩き付けて豹変した少女への理解が追い付いていないまま座面に顔を押し付けられている。


「何なのその眼は!よくも傍観者気取って冷静でいられる?!」


「待ってお姉さん、落ち着いてケホッ・・話聞いてよぉ、そんなに叫んだら本当に殺されちゃうから」


この娘はあくまでも説得する気のようだ、枕元に置いてあって今は私の背後にあるホルスターの中身を抜こうとする右手を止める事にした。


「落ち着いてられないよ!お前らを殺さないと私のあの人が殺されちゃう!」


「それってキミの学校の校長の事?悲しいけどその人はキミを私達に託した後に死んじゃった」


「は・・・死んだ?」


「この眼で見た、嘘は吐かない、お願いだから話を聞いてって」


今起きたばかりの寝ぼけ頭でもさっきの事の様に思い出せる、頭の中を隅々まで晒した凄惨な最期を。

ただ大切な人の訃報なんて他人から口頭で伝えられたところで毛頭信じないと思ったが


「・・そんな眼で見ないで」


目は口ほどにものを言う。助けられなかった事への悔恨を私達の眼の遣い様で察してしまったのか。


「私のたった一言で貴方の口から校長が出るって事は、クスリを盛られて意識を失う直前に聞いたお説教であの場に居た事は把握してたけども・・」


ベレーの首根を掴んでいた右腕がドロっと柔らかくなったと思うと半透明な液状へと変化し腕の形を失った。


「こんな化け物な私を守って何になるのよ」


上擦った声で心情を吐露し少女は脱力した、その腕から解放されたベレーは彼女を慰めるでも無く窓の先を見つめた、ナグだ。

マジックミラー越しのナグの顔は酷く焦っておりクールな美女顔がくしゃくしゃになりながらくたびれた走りで周りの注目の的になっていた。

ドアを開き呼吸を整えながら我が子と数秒交わしたナグの曇ったメガネ越しの視線は私を一瞥して身体の一部が液状の少女へ移った。


「良眠でしたねブランさん、そしてアジテイトの方」


アジテイト、扇動や動揺させるという意味を持つ言葉だがまた新しい用語の登場か。


「その単語を私の前で出す貴方はそれなりに情報を掴めているんですね、なら尚更そんな奴等と一緒くたにしないで下さい」


「ですが自警団設立者達は君もその仲間と認識していますよ、正しくは組織を裏切った裏切り者の一員として」


困惑し言葉に詰まる少女、聞くにアジテイトは結界内の被害状況確認の為に市民を一度市役所に集める様命令された者達の事。

その招集自体にも強制力は無く書類に名前と年齢と住所を筆記すればその場に留まる事が出来たらしい。


「彼奴等がそんなまともな集団な訳あるか、皆殺しじゃ飽き足らず人の身体を弄ぶ奴等が!」


「それじゃあ聞きに行きますか、アジテイトのリーダーを私達の先導者が只今捕縛していますので」


「は?何を馬鹿げた事を・・」


あとがき

主観的人物解析、その6

・ライファ

158cm 47.8kg

キリスト教会職員の女性で同性すら羨む程の美貌を持つ23歳。

カトリック系の大学を卒業後、親の介入で最寄りの教会に就職し2年目の夏に天檻に巻き込まれた。


穏やかで聞き分けの良い性格で物覚えも良いのは、自らに対して過度な期待や介入を繰り返し応じない場合それを悪とし体罰を行う両親から己と妹を守る過程で手に入れたもの。

彼女は自身の本質を意思薄弱で周りに流されるのが上手いだけ、無傷の笹舟だと語っている。


殺伐とした檻の中で心の支柱としての役割を自警団に見込まれスカウトされ見事にこなしている。

そして結成者達の意思を他の団員や民間人に伝える橋渡役も担っているが、上司からの情報伝達が遅くそのせいで独断専行を強いられる場面が多い。彼女自身にカリスマ的美貌があっても人を纏める能力は無いので側から見ると努力が空回りしてる残念な人である。



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