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ノルンの再葬  作者: 草原の芦
ストーリーテラー その2
4/9

黒塗りのピストレット

聴き覚えのある声がくぐもって聞こえる、優しい声色で私の目醒めを促している。


「ベレーちゃん、ベレーちゃん起きて、ね?」


眠たい瞼を開いて覗き込む様に私を見るのはまだ若いと言い張る女性の顔、部屋に勝手に入って寝てる私を起こしてきて、意味も無く白衣を着てる奴と言えば・・


「ノイレ・・?」


「残念ノワールでーす、貴方わざと間違えてるわね」


「ああそうかも・・あれ、今日の巡回は別の人でしょ?」


「・・隠さずに言うよ、敵性ノルンが出現して今日の人は朝の内に殺されたわ」


死んだ?今日の巡回は確か・・・


「誰かは忘れたが・・大変なことだな」


「さっき現場検証が終わって私も帰って来た所、敵性に堕ちたノルンの通り魔に遭う可能性も考慮して今後巡回は中止、臨時で調査班が編成されて、貴方もその一員として配備されたわ」


その言葉を聞いた瞬間に公休買取と休日出勤の言葉が頭を過った、そもそも今日は休みなのだろうか?巡回とは別の仕事があった様な気がしたが・・


「クローチェ牧場長の護衛、というより樹刑者を処理して次の日で疲労とかあると思うけどフラモちゃんは再起不能に近いし自警団が頼れるのは貴方しか居ないの・・よろしく頼むわ」


ああ、そうだ樹刑者だ。

昨日クローチェさんと協力してソレを殺して最近まで続いた事件の犯人を倒したから暫く休暇を貰える事になってた・・思い出したけど、まだ何か忘れている様な気がする。

でも、もう準備を始めなければならない、居心地の良い布団を後悔しないうちに引き剥がした。









「ちょ、ベレーちゃん休日出勤多くない?」


ベレーの実体験ドラマの視聴最中に制作者本人が叫んだ、違和感に気付いて一時停止を押したかと思ったのだが。


〈働いてみるとわかるけど人手不足や突発休だとこんなの当たり前だよ・・それより「ああそうかも・・」の所から巻き戻して再生してくれる?〉


お安い御用とリモコンを用いて例のシーンまで巻き戻される、暫く同じ事を繰り返し再生すればする程気付くアハ体験の様な違和感、ネムレスもやっとその事に気付いたらしい。


「言われた所と次のベレーちゃんの発言を比較してみると後者の方が途端に上擦って聴こえて、その後も鼻を啜ってる音に目が充血してたり、泣き止んだ直後みたいな?」


〈心の声も何処か釣り合ってない、巡回の当番が別人だと知っていて何故休みかどうか疑問を持つ?樹刑者を処理したのは昨日なのに一々思い出す必要がある?〉


不可解な点を更に指摘し怪訝そうな顔になったネムレスはふとソファから立ち上がると目前の物が乱雑に置かれたテーブルから恐らくB5サイズの用紙を摘んだ、それは丁寧に重ねられた中の一枚でその辺りだけ海を割ったが如く何も置かれていない。


「これはノワールさんが書いてくれた作文つまりあの人の文字、ここから偽名だけ『文字起』で吸収、あのDVDに加え入れる」


「本来なら元の映像の後で追加されたのが再生されるがパズルピースの様に場面が噛み合えば新たに場面が加えられる、何処が変わるか分からないから最初から見直す事にはなるけど、良いよね?」







言うまでも無く首を縦に振って改編したDVDの再生が始まった、そこにはネムレスの思惑通りいくつかの場面が追加されていた。

まずはベレーが湧和牧場に派遣された初日の場面から、前回は初日の冒頭から三日後の午前までが割愛されていたが今回はその部分が収録されていた。

かの畜舎に収容されていた人の道理から外れた存在、それらに接する業務を彼女は二日掛けてやり遂げていたが人を殺す経験を後にも先にも積んでいるベレーでさえこの手のものに耐性がないらしく節々で嘔気に苦しんだり畜舎から出た途端に深呼吸を繰り返す不慣れな地獄を二日間味わっていたようだ。

想像を上回る描写に耐性の無いネムレスはいちいち私の胸に顔を埋めて最早鑑賞する気を感じられなかった。

しかしこの場面は正直見なくても良い、重要なのはこれが改編されるまで収録されなかった事なのだから。


後輩の負傷による休日出勤が因果を呼んだかベレーは牧場主と協力して『樹刑者』の処理を成し遂げた。

諸々の後片付け、引継ぎを終えて待望の帰宅を果たしたベレーの心は既に壊れかけとなっていて自らの帰りを待っていたノワールにそれを明かした。


「・・帰ってくるなり胸倉に飛び込んで、抱き締めようか?」


「ごめん、ご飯食べるまでこうして欲しいかも」


疲労も汗もそのまま受け入れて優しい母の真似事をする白衣の女は娘に見立てた胸の内のベレーと顔を合わせると何故だか眉を寄せた、呼吸が激しい娘の異常に気付いて不安そうに顔を合わせた、の方が正しいかも知れない。


「呼吸、苦しいの・・?落ち着いてお腹で深呼吸を」


違う、そうじゃない!ベレーは焦燥を孕んだ声色で叫ぶと体格差をものともせずノワールを壁へと押し付けた、徐に壁を右手で撫でて掌を翳した。


「何故私は今になって思い出す!出回ってる肉の正体にそれを今まで食べていた事への後悔!」


壁の撫でた一部分が砂の様に崩れ重力を無視してベレーの掌に導かれていく、それは掌の上で拳銃と成って右手に収まり銃口はノワールに向けられる。


「何よりこの胸の・・心の痛みは!私は苦しいの?悲しいの?教えてよ!」


手の震えでボロボロと崩れてゆく玩具未満を突きつけられたノワールはこの展開に困惑する事も冷静を装おうとする事も無く


「撃つ気も無いくせに銃未満の半端物を作っちゃって」


ただ、呆れていた。

明らかに聞こえる様に独りごちたノワールは普段の良く言えば柔和な印象とはかけ離れた機敏な動きで右手でベレーの帽子を払い除けると彼女の額を前髪を掻き分けて掴んだ、たったそれだけの行為で彼女はノワールへ身体を預ける様にもたれ掛かった、掌は依然彼女の頭に触れている。


「肉の正体、その個体名、今の出来事、3つの記憶を削除するのにその図画工作と遜色無い生命負荷が掛かるってのに、事前に記憶消したのが勿体無いじゃない」


そう呟くと電気ショックを浴びた様にベレーの上体が跳ねた。

額の中心から広がるヒビ模様の痣をベレー帽で隠すと間もなく彼女は何事もなかったかの様に目を醒ました、そもそも目を醒ました事にすら気付いていないだろう。


「・・呼吸はもう落ち着いた、ごめんね体勢崩しちゃって」


「大丈夫よ、それより今日ご飯は食べれそう?」


「うん、お腹空いてる、今日は肉?魚?」


「じゃあ今日は・・ってもう缶詰無いんだから肉しか無いよ」


「じゃあ肉で、ノワールって料理だけは上手だから楽しみ」


他愛無い言葉の応酬。さっきまで脅し、脅された者同士がしているとは思えない家族の会話が続いた後、場面が変わった。

つまり例の場面まで辿り着いた訳だ、しかし改編前のカットした様なシーンは修正されていなかった、が、天丼である事は言うに及ばないだろう。






1年間、この結界を生き抜いてきた私にとってもこの展開はとても興味深く『文字起』でノワールの文章を更にディスクへ追加する事をネムレスに提案した。

彼女は文章が足りなかった事を認めつつ更にこう続けた。


「だけど、これ以上ノワールの文章をディスクに叩き込むとルール違反でディスクが物理的に壊れるかもしれないの」


「『文字起』は本来一つのディスクに一人の記憶を直筆を媒介に叩き込みドラマにするもの、今回はベレーちゃんの記憶を補修する形で取り込めたけど次はノワールさん個人の情報を取り込んでしまうかもしれない、するとこのディスクは破損する」


「同じ事を書かせて取りこんでも同じ内容にはならない、一つだけのドラマを壊してしまう可能性がある以上『文字起』はしたくないわ」


その説得を聞いた私にネムレスは更なる提案をした。


「此処にはディスクは幾らでもある、ノワールさんの事が気になるなら今見ているものを一旦中断して先にノワールさんの物語を見ない?」


自分の知的好奇心とやらを満たす為の一歩を私に譲る事で後に残る後悔とか罪悪感を肩代わりさせようって魂胆・・否々、どんだけ捻くれた思考をしてるんだよ、この子は単純に私に質問しているだけだ。


[賛成だよ、でも色々準備とかした方が良いと思うんだ、君は放ったらかしにしてる事があるんじゃないかな?]


「それって私が臭いって言いたい訳?」


手作りの弁当を二つバッグから取り出すより早く彼女の肘打ちが私を襲った。


あとがき

主観的人物解析 その1


ベレー

136cm 34.9kg

男寄りな顔立ちの13歳の女の子。

荒い言動が目立つが、仲間意識は強く思いやりも人一倍ある。

男物の服を着ているのは自身の顔立ちの質と服屋の在庫状況を理解しての事、ベレー帽が好きと公言するが正しくはアーミーベレーである。

Lv.10を超えた存在、ノルンに認定されており銃聖の名を与えられている。監視役のノワールとは『文字起』を見る限り関係は良好と思われていたがノワールのギフトにより記憶が弄られていた事が判明、現状では都合の悪い記憶の消去しか判明していないが彼女の本質を都合良く弄っている点において親子関係を築けていると言えるだろう。



所有ギフトは『銃社会』

掌で触れた物の形を銃、銃弾に加工する能力。

材料は予め用意した物を使用、造る際はパーツ単位での製造となりそのものを造ろうとすると形だけの塊が出来上がる。

理由は不明だが彼女は銃に対する造詣が深く拳銃程度ならばLv.を気にせず生産が可能。

しかし、彼女自身の戦闘能力は並で銃の扱いも長けている訳では無く単身の戦闘力は拳銃を持って初めて一人前程度だろう。

あくまで私が彼女を一番強いと推す理由はあの銃を製造して仲間に渡す事が出来ると言う一点でありパトロールや護衛任務を任せる上層部の采配に首を傾げざるを得ない。


自警団での役割は成れ果ての介錯からパトロールまで多岐に渡るがとある一件以降、介錯は任されていない。

はっきり言って銃の製造だけさせてれば万々歳なのだが材料が用意出来ないとか、無法者の手に渡るのが怖いとか懸念点が多いのか配布はあまりされていない。


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