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ノルンの再葬  作者: 草原の芦
ベレー編 
3/9

ベレー帽と拳銃 後編

微かに透る光が際立つ曇天の下、ベレー帽を被る少女は自警団からの任務の為にファットバイクで片道10分の辺境に赴いた。

治安維持の要である自警団本拠地から離れた地の大半は人の悪意に晒されて足を踏み入れる価値も余地も無いが、彼女が赴いた酪農地帯は自警団が比較的厳重に警護している為、一帯の環境は天檻樹の日から変わっていない。

とある牧場の駐車場にて自転車を駆る小娘を視認した強面の壮年女性は咥えていたタバコを吐き捨て砂利と靴裏で鎮火させると手を振った、向かってくる少女を細い目付きで見定めながら。


「自警団から派遣されたベレーです、妹さんについてはご愁傷様です」


「湧和牧場のクローチェ、よろしく頼む・・と言いたいところだが随分と小さい奴が来たが本当に私を守れるのか?」


酪農地帯で現在唯一畜産を扱う湧和牧場、その牧場長クローチェは巷で流行る殺人鬼の次の被害者と予想される人物の中で重要人物である為ベレーは彼女の用心棒として派遣される事となった。


「例の事件が解決するまでウチの後輩と二日間交代になりますのでよろしくお願い致します」


「・・・まぁ、お互い人手不足だ、体力のある若手は程々に使い潰させて貰う」


派遣された先はクローチェが姉妹で経営していた牧場、妹を失った事でワンマン経営となったこの牧場にやってきたベレーに待ち受けていたのは巡回より用心棒より遥かに辛い労働である事を知っていたならば小娘は先の生意気な発言しなかっただろう。






三日後。

本来は後輩と二日交代なのだが彼女が例の植物により負傷した為、再派遣が決定した。

行きたくないのでベッド上でノワールに駄々を捏ねたら担がれて自動車の後部座席に打ち込まれ、目的地まで郵送された。

不貞腐れて横になっていたら目的地に着いてしまったらしい。


「今日から暫くよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします」


他所向けの丁寧な声がニつ、続いて後部扉を開ける音が聞こえた、瞼ごしに光が伝わる。


「あぁらまだ寝てら」


「本来なら休みなんでぐずってしまって・・職場までお持ちしましょうか?」


「私が連れて行きますんで良いですよ」


「でしたらあの、帽子は取れない様にお願いします、この子それが好きで汚れが着くと拗ねるんです」


膝裏と両肩を腕で支えられ、宙に浮いた感覚がする、ツナギにこびり付いた汗の臭いが鼻に付く。不快。


「そういや男物の服ですねこれ」


「私のチョイスです、どうでしょう?」


「私服としては100点だね」


「良かったです、じゃ、お願いします」


乾燥した空気と獣の臭いがする、段々とノワールの声が遠のく。

車が走り去る音と靴の音がする。


「親の手まで煩わせやがって、起きてんだろ、帽子を落とさまいと頭が不自然に動いたぞ」


「速攻で作業着に着替るから業務始まるまで事務室のソファで寝かせてくれさい・・」


「つい最近まで謙虚そうだった奴が随分と垢抜けたな」


この言葉に対抗して声色の変え方を尋ねようとした口を抑えたまま動物臭の濃い方へと向かってゆくのを嗅覚で感じた所までの記憶はあった。

そして生暖かい温度と湿度、焚かれたアロマキャンドルの匂いに包まれながら事務室のソファでは無く、当直室の寝心地の良いベッドで目が覚めた、足の末端が暖まって気持ち良いから二度寝しようとする一歩手前で、先の記憶が蘇った。


「あ・・やば・・」


一気に血の気が引き、心臓を掴まれた様な感覚にも陥った。腹筋の力で直角に上体を起こしギョロギョロと壁に掛かれた時計を探して、見つけた。


「随分経って・・クローチェさんは?!」


思考を言葉に出しながら(度々やる事である)掛け布団を乱暴に飛ばして立ち上がると、最低限の身だしなみを整えて恐らくクローチェが居ると思った畜舎に向かった。

碌に準備もせず全力で走り出したものだから


「起きたか、焦ってる様に見えたけど帽子にカバーは絶対付けるんだな」


道中の色が掠れたベンチにふんぞり返って寛ぐ本人と眼が合う頃には、絶え絶えの息で心臓は今にも爆ぜてしまいそうだった。


「お、お陰様で・・この時間帯に大事が無くて本当に大助かりッゲホォッ・・」


強面の姉御肌という本来の印象とは打って変わった朗らかな表情で手を振るクローチェ、込み上げる何かを抑えて言葉を選ぶ私にこの人は挑発的に見えた。


「おう!お前の首は私が守ってやった、感謝してくれよ?」


色々と言いたい事はあるがこの人の言う通りである事は変わらない、寧ろ遅刻を黙認してくれるのだから本来は感謝の辞を述べるべきである。


「あ、あざっす・・」


「なんか隠った感じだけどまぁ良い、今日は私の警護に専念してもらうから」


そう言われて畜舎の方を見ゆる、一瞬返事が遅れた間に割り込む様にクローチェが口を開いた。


「今は彼処には何も無いぞ、昨日君の後輩と協力して全部炭にしちまったからな」


「此処はもう畳む事にした、自警団の許可は得ている、彼奴が死んじまった以上、続ける気は起きんしな」


理解に詰まっている間にクローチェはベンチから立ち上がると私の目の前まで詰め寄り頭を帽子含めて鷲掴まれ、揺らされた。


「湿気た目で見るなよ、これでも気分は良いんだぜ?それに私が自警団本部の・・市役所付近の実家のアパートに帰ればある意味お前の派遣もお終いなんだ、願ったり叶ったり」


「ま、取り敢えずアレには近付くな、それでお姉さんと一緒に派遣期間を上手に緩く過ごそうや」


okサインを私に出しながらクローチェは畜舎とは逆の方へ向かって行った。

急な展開で噛み砕けない部分があるが切り替えなければならない、当初の目的である警護を全うしなければ、と言い聞かせて彼女の背後を追おうとした矢先に何かに躓いて転んでしまった。


「おーおー、気をつけなよ寝坊助さん?」


多分膝を擦りむいたかも、四つん這いになり足元を見ると砂利の隙間から生え出た雑草が輪状に結ばれて足に引っかかっていた。

それが何たるかを理解した瞬間、素早く立ち上がり腰のホルスターから拳銃"解放"を取り出して振り返るが遅かった。

クローチェの背後に見知らぬ女が立っていた。

薄茶のポンチョで隠れた肘から数本の枝木が生え、見える肌は所々が樹皮の様に変質している。その特異から彼女が植物を使った殺人犯である事は容易に理解できた。


「クローチェさん危ない!」


「ん、どうし」


身に迫る殺意に気付かないクローチェの首元を枝木の女は背後から掌で叩くと勢い良く押し倒した。一瞬だが掌に粒の様な物があるのを確認出来てしまった、例の人殺しの種に違いない、それをよりにもよって頸動脈付近に埋め込まれた。

そのままの勢いで砂利に突っ伏すクローチェを見て込み上がる無念と共に拳銃を枝木の女に向けた、女はそれをしっかりと視認した上で特に何も考えて無さそうな視線を此方に返した。


「培養肉さえ目を瞑ってやったと言うのに、動物を殺して肉を喰う等言語同断、やっと諸悪の根源を断ち切れましたよ」


「ああ、この種は半年以内に動物を喰った経験のある者の首元に根を張るんですよ、試してみますか?」


「距離にして私の歩幅大股5歩分、撃ち抜くのが間違いなく先ですが、豆蒔きなら外す距離でもなさそうですね」


一触即発の状況の中、鉄の味がする程噛み締めた口をそのままに“解放"の銃口を地まで下げた。


「おや、自警団の一員ともあろう方が人道を外れた私の排除を躊躇うなんて」


「・・私としては『培養』で作られた代替肉だけが出回っている今の時代に、ただのヴィーガンが人間を殺して回っている理由が知りたい」


「は?動機ならさっき言った、頭が足りてないんですか、この人達は豚や牛をこの牧場で」


口振からしてこの先の畜舎に居たものについてこの女は知らない様子だ、それが殺さない理由にはならないし本来なら拳銃を絡めた白兵戦術で一捻りだがたった一つの懸念が銃口を下げさせた。

それは右手に収まる“解放”の銃としての不完全さ、15mも狙い撃てない単発式の銃はなんと薬莢を手動、それも棒状の物で取らなければならない欠陥品で外す事は死を意味する。

そもそも何で大事に持ち歩いているのか私にも分からない、これを95丁生産して配給したその日にゴミ箱から大量にコレが見つかったのをどうして今になって思い出した?

兎にも角にも私はこれ一丁で挑まなければならない、アイツが無駄口を叩いている間に決着させる、大股2歩あれば急所を狙える距離まで詰められるはずだ。

果たして足が踏み込んだのが大きな道を成している砂利の一端でなければ、私はその隙間から異様に伸びる蔓に身体を束縛されずに始末出来ただろう。


「草、砂利の隙間から何を出したか忘れたんですか?あと踏む音で距離詰めようとしてたのバレバレですよ」


「っ、しくじった・・?!」


地面に押し付ける様に強く捕縛する蔓によりうつ伏せの状態から身動きが取れない、“解放”の銃口も明後日の方向を向いている・・・打つ手無し、詰み。


「や、やめろ!殺す気かよ!」


そもそも転倒した時に安全装置すら無いこの銃が誤射しなかったという奇跡で今日の運を使い果たしたのだと気付くべきだった。


「畜生!命だけは!命だけは助けてくれ!なんだって言うこと聞くからさ?復讐がお望みから私、自警団の幹部に顔が効くからさ?ワンチャン何とか出来るよ!」


だのに玉砕必死の囮にならなければならないなんてコレよりしっかりとした造りの“悪戯”をクローチェに渡さなければよかった。

決死の命乞いも彼女の琴線どころか逆鱗に触れたらしく、持っていた種を懐にしまうと家畜を視る屠畜場の職員みたいな顔で私に近づいて来る。


「人を殺す手段は幾らでも持ってる、お前みたいな性根の腐った救いようの無い奴に似合ったのもな」


「ちょちょ、何が不満なの?!ねぇ待ってって!お願いだから!一旦立ち止まってって!」


騒いで砂利の音を掻き消す為とは言え喉を壊しそうだ・・ほら、跨いで通り越したぞ、早く起きてくれ。


「はい、そこまで、動いたら撃つよ」


二度に渡る轟音は言葉を塞ぎ、樹木女の両腿に孔が生まれた、跪きながら振り向く顔からは痛みによる苦痛より仕留めたはずの獲物が起き上がっている事への驚愕が感じ取れた。


「何故口が動く、黙ってあの悪趣味な蔦を消せ、次は頭だ」


また“悪戯”を発砲した、今度の弾丸は両の肩と胸の境目を貫いた。右手を堅牢な樹塊に変化させていた怪物は手の内を読まれた事への焦りなのかどんどん表情が凄んでゆく。

負の感情による急激なLv.の上昇による暴走、脳裏を過ぎる忌避的惨禍と現実は真反対のものだった。

私を地べたに這い蹲わせる蔦の力が途端に弱くなったのだ、萎びたそれを振り払うまでも無く立ち上がるといきなり失意した仇敵に今一度“解放”の銃口を向けた。


「・・何故お前は発芽しない?」


「商品食ったら売る分消える、檻に囲まれたあの日から私は肉など食ってない」


そう言うと口に含んだ何かを唾共に吐き捨てた、恐らくさっき首に打ち込まれた種子だろう。


「噛み砕いただけで苦味が広がってあんま美味しくねぇな」


その言葉を聴いた女は自蔑する様に鼻で笑い呟いた。


「そうですか、貴方は妹を・・ひいては人間を食べてはいなかったのですね」


「妹を・・?」


その一言が反芻して口から漏れた、それに食い付く様に女はまるで自分が被害者であるかの様な訴えを始めた。


「私はヴィーガンでは無い、本当は妹を食べた奴を殺したかっただけ」


「妹は唯一の肉親、私の全て・・創った薔薇を見せて微笑む顔は私だけの宝だった」


「そんな妹がある日突然殺された、あの子の最期は近所のゴミ捨て場の一画で・・ッ」


「なのに自警団は現場検証のみで捜査を打ち切った!私は泣いて縋った、犯人を見つけて殺して欲しいと・・」


「『殺したければ自分で殺せ』・・他になんか行ってた気もしますが確実にこの言葉は覚えています、だから殺しました、今まで共喰いをした事のある人間に寄生、急成長に伴い致死量の血液を奪う種子を創ってそれっぽい噂が立っている奴を手当たり次第に」


溜め込んでいた昏い腹の内を明かせたのだろうか、枝木の女は清々しい表情で空を仰いだ。


「だけど、無実の貴方を襲ってしまった以上、私は義心をかたる化け物に成り下がったと言う訳ですね・・」


クローチェは私に目配せをすると目の前の女の頭を額から撃ち抜いた、全身に電気が走ったかの様に震えると力尽き倒れたそれに急いで近づくと接射で身体の真ん中に弾丸を打ち込んだ。






「勘付かれる前に殺せて正解だ、銃は返すよ」


安全装置を着けた状態で“悪戯”を手渡されたベレーは、反対の手で持つ“解放”と見比べた後、怪訝な表情でそれらをホルスターに仕舞った。


「殺したければ自分で殺せ、か、今なら粛清の対象だよ」


「けど正解だ、現に私はこの手で此奴を殺した・・・でも満足なんて微塵もしてない、誰を殺せば良かったんだって思うばかり」


斃れた名も知らぬ女に寄り添い虚な瞳を手で閉ざしてそのまま鈍色の空を見上げているとクローチェも亡骸に近付きただ一言呟いた。


「お前が仇になる前に私が殺してでも止めるべきだったのかも知れないな」







映像を停止した。


「第一章はこれで終わり、半年前に起きた事件、あの子の視点で観てどう思った?」


〈解決したとはいえ後味が悪い、あと前半のガスマスクをした不審者って私の事だね〉


今も同じ不審者のキノエさんは不満気に呟いたと思ったがそれよりも気になる事があるらしくて


〈そもそもあの視点はベレーさんでは無くノワールさんのみの視点だね、『文字起し』は直筆から対象者の記憶を読み取る能力だと認識してたけど違うのかな?〉


とても良い着眼点だ、枝木の女がこれくらい勘の良い奴ならば一章は長引くか、無くなっていただろう。


「合ってるよ、ベレーちゃんは小学生だから習ってない漢字はノワールさんに書いて貰ってたんだよね、だから今後もノワールさん視点で物語が進むかも」


〈それは助かる、後半はほぼ一人称で話が進んでたから物語全体の深堀が出来てなかったからね〉


「それがこの能力の欠点、一応もう1人の視点を映す為の媒介はあるよ、蛇足と思わないなら再生するけど?」


あとがき

[負傷した後輩の手帳の記憶]

今回の任務は樹刑者と命名された殺人鬼から勇和牧場長のクローチェを守る事、と称した人手不足の牧場への手伝いだった。

『蝕焔』を持つ私の相性有利ゆえの抜擢かと思われたが手頃な首級を期待した私が馬鹿だった。

いや、結論から言えば相性有利では合ったんだけど。




「コイツは元自警団の1人、任務中に重傷を負い『死にたくない』と強く願った結果、傷の再生のみにLv.が基準値以上浪費され一定間隔で細胞分裂を繰り返し無限に肉が膨張する身体になった、至る所にある孔は膨張で潰された気道の代わりだそうだ」


腕と脚だけが細く風船みたく太った胴体に知性の無い顔つきが特徴の生物に牧場主は大きなナイフを刺して肉体の一部を無作為に削ぎ落とすと台車上の黒いビニル袋に放り込んだ、思う以上に血は噴き出さず代わりにボコボコと断面の肉が泡立ち始めた。


「こうやって削ぎ落とした肉は洗浄、整形、純製ラードに漬け置きした後に豚肉として出荷される」


コイツの肉が再生し始めているのは牧場主にとって分かりきった事なのだろう、一つ柵を隔てた先のソレは辛うじて裸体の女性と認識出来た、長い前髪で顔が隠れていて両腕は水平に両脚はM字で固定されていた。


「ソレは息子を返して欲しいと願った奴だ、その願いは歪んで人類史上初の単体生殖を成し遂げた、知性と理性を犠牲にしたが」


ソレが私と目を合わせ続けていたがやがて苦しむ様に叫び出した、恐らく轡を付けている、膨らんだお腹と説明と状況が合致して四肢を留める金具の内側を幾度も打ち付けながら苦しむ訳とその先に待つ事を理解した。


「今からソレの業務が始まる、少し待て」


ソレの股下からやっとの思いで排出された西瓜ほどの大きさの赤い宇宙人みたいな生き物の頭は足蹴に潰された、ソレがまだ叫ぶのを尻目に宇宙人の首根っこを鷲掴んでビニル袋に放り込んだ。


「コレの食感は全体的に鶏肉に近いらしいから鶏肉として出荷される、培養肉と言うテイだから内臓とかは廃棄されるが」


「後は基本的に似たケースの奴等ばかりだ、死にたくない、子どもを(返して)欲しい、の二通りで全て分類出来る」


ソレに触発されて叫び出す同類の騒音から逃げる様に畜舎を離れる、扉を閉めた途端に声も臭いも無くなった、恐らく牧場主の『ギフト』のおかげだろう。


「始まりは餌不足の為に屠殺した家畜の代わりにと妹が提案した事だが、当事者が死んだ以上はこの牧場を続ける気は無い」


牧場主は懐から拳銃を取り出す、あの小生意気な先輩が創った『悪戯』とか言う拳銃だ。


「お前んとこの小娘曰く、この銃に射抜かれた奴に生きてこられた者は居ないとの事で、昨日試したら頭を潰しても元気だった母さんが失血死したんだ」


命を奪う道具を見ながら微笑む彼女の心情を推察するのはやめておいた、分かるのは私がこれからするべき事。 


「私はこれから畜舎にいる成れ果てを全て殺処分する、全ての死体を舎内中央に寄せてお前の焔で燃やし尽くす、その後畜舎は立ち入り禁止とする」









『ギフト』の加護か、燃え移ることなく佇む畜舎の空気が通る所全てから私の焔が起こした黒煙が噴き出し天に昇っている、何を燃やしたかは今にも忘れてしまいたい。


「お疲れ様、気分は・・良くないよね?」


憑き物が落ちたのか、顔の強張りが少し緩んでいる牧場主は人の気も知らずに話し掛けて来た。


「逆に貴方は平気だったんですか?あんなに殺して」


「殺した回数より苦しませた回数の方が多いからね・・・ところで君はあの肉を食べていたかい?」


忘れていた罪を彼女の言葉が訴えた。

卓に並ぶ食事、その食材がどんな過程を通して商品棚に並ぶのか考えなかった者の末路が私なのだ。


「その沈黙、肯定と見ていいかな?」


「妹が2人居て、あの子達の腹を満たしたやるには冷蔵庫の肉とか備蓄した缶詰だけじゃ到底足りなくて、あんな安い肉あったらまず世界の狭さを疑うべきだった」


「・・話の腰を折って自分語りをするけど、一連の殺人事件の元を辿れば私の無責任な判断があると勝手に考えていて、その不始末は私1人でするべきだと勝手ながらに考えている」


口調は柔らかいが何処か私を圧迫する雰囲気がある、まさかとは思うけど警戒して傾聴する。


「今日の一件で『悪戯』とやらの弾薬が尽きてしまってね、ベレーは銃しか作れないと言っていたが弾薬は多めに所持しているとも言っていた」


「あの殺人樹がいつ私の前に現れるかは分からないがフラモ君程の評判のある焔の使い手が居る時には絶対来ないだろう、だが裏を返せば」


私が居なければ来る、そう言いたげな顔で何か小さな物を私に投げつけた。

それは作業着にくっ付くと、そこから注射に刺されたかのような痛みが生まれ、身体中を小さな刺激が走っていった。

身体に例の種を植え付けられた、すぐに自分に起きた事を理解出来てしまった私は訪れる死とその恐怖から逃れる為に『蝕焔』に身を任せてしまった。










〈クローチェの短絡的な行動によりフラモの身体に根を張る事に成功した植物はしかし、彼女の焔によって燃やし尽くされたが完全な焼却を求めた故に彼女の肉体も酷い火傷を負う事になった・・〉


「この一件がフラモから明かされた頃には彼女はすでに失踪し半年経った現在は捜索すらされてない、こんな胸糞悪い勝ち逃げは見た事ないね」


〈でもフラモは死んだ訳じゃない、一線を退いたけど今は私の部下として懸命にやってくれている、妹さん達も元気だよ?〉


「・・今頃フラモは世の中、生きていれば儲け物って訳じゃないのをこの話と今後を通して学んでいると思うよ」

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